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3.ポルン

6巻発売記念SS『ダイエットと王城探検』完結です。

 王城にはショートカットできる隠し通路がいくつもある。それは隠しというよりも、城の警備や管理をするスタッフが人目につかぬように自由に移動するためのものだ。


 奥宮には王族のために避難通路もあるけれど、転移魔法があるからあまり実用的ではない。


 ユーリも使う必要はないが〝秘密の隠し通路〟というのは、子ども心にもワクワクする。


 大広間への道をひらく〝扇を持つ赤の淑女〟の肖像画や、厨房への通路になっている果物の静物画……ちょっとした目印にも置いた人物のセンスを感じる。


 だからユーリは王城スタッフに邪魔にならない程度に、ついて回って道を覚えた。


「この絵にはこう唱えるんですよ、『今日のメニューはなあに?』」


「うわ、お腹すいちゃいそう」


 ネリアがいう前で壁にぽっかりと穴があく。


 まっすぐな通路はひろびろとしていて、大広間で晩餐会が開かれるときは台車を押したスタッフが何人も行き来できるようになっている。


 昼食の時間をとっくに過ぎたいまの時間なら、夕食のしたくをはじめる前に厨房のスタッフもひと息ついているころだ。


(そうだ、おやつが目当てで僕は研究室から下に降りてきたんだっけ)


 ちょっと小腹が空いてきたユーリは、ネリアたちといっしょに通路を進む。厨房についたネリアは目をみはった。


「うわぁ、すごい!」


 鍋や皿などはサーデで呼びよせられるから、みな天井まである棚に収納されている。


 スッキリとしたキッチンでかまどにかけられたスープ鍋の真上では、味つけの魔法陣にしたがって、スパイスの小瓶が飛び回って中身をふりかけていた。


「あれ、ネリアは本格的な魔法調理を見たことがないんですか?」


 キョロキョロと厨房をみまわすネリアを不思議に思い、声をかければ彼女は素直にうなずく。


「うん、はじめて……火の魔法陣を敷いてお鍋を加熱するとかはあるけど」


「王城では専門の調理職人がいますからね」


 そしてユーリたちにその調理職人が話しかけてきた。


「これは……ちっちゃい殿下!厨房へようこそ!」


「やぁダース、ひさしぶりに()()が食べたくてさ、作ってくれる?」


()()といったらポルンですかな?お安いご用です」


 かっぷくのいい調理職人のダースはにっこり笑い、厨房のとなりにある休憩室にみんなを案内してくれた。


「ポルンは小麦粉に卵や砂糖、それにミルクを混ぜて練った生地を油であげるだけのシンプルなものなんです」


「ほうほう、ドーナツみたいなものかな」


 厨房にやってきてここで座って待っていれば、いつもダースがポルンを作ってくれる。


「最初に食べたのはいつだったかな……何かのときにむずがった僕に、スタッフがたまたま持っていた自分のポルンを食べさせてくれたんです」


 ポルンはスタッフのためのおやつで、城の厨房では材料が余ったときに作ると知り、それからユーリは厨房に通うようになった。


「はい、ちっちゃい殿下、お待たせしました!」


 数年ぶりだというのにかわらない笑顔で、ダースはできたてアツアツのポルンを運んでくる。


 厨房に通ううちに仲良くなったダースは、いつも親しみをこめて「ちっちゃい殿下」と呼びかけてくれるが、いつしかユーリはそれが苦痛になった。


 弟カディアンの背が自分を追い越して、本当に「ちっちゃい殿下」になってしまったからだ。


(もう子どもじゃないんだ)


 ときどきポルンのことを思いだしても、自分に言い聞かせては厨房にいくのをやめていた。それなのに王城探検をしていたらふと思った。


(ネリアにもポルンを食べさせてあげたいな)


 ふわふわの生地、香ばしい香り、やさしい甘さ……自分が大好きなものを彼女に教えたい。そうしたら自分のつまらない意地などどうでもよくなった。


「おいしーい!」


 ポルンをつまんでネリアがニコニコと口をあければ、可愛い白い歯がみえる。ヌーメリアもほっこりと笑顔をみせた。


「やさしい味ですね」


 うっとりした表情でポルンを味わうネリアにユーリも幸せな気分になる。ところがハッとしたように目をみひらいて、彼女は手元にあるカラの皿をみつめた。


「ユーリ、どうしようぅ……」


 彼女は泣きそうな顔でユーリをふりむいた。


「おかわりならありますよ」


 小首をかしげたユーリにブンブンとかぶりをふって、彼女は悲痛な表情でさけんだ。


「わたし、ダイエットするために王城探検してたのに!」


「……バクバク食べてましたね」


 それはもうユーリよりも大喜びでむしゃむしゃと。つられて食べていたヌーメリアもそれなりに。


 残念ながら彼女たちは「わっはーなないすばでぃ」からまた遠くなった。





「ダースさんにおみやげでもらっちゃった!」


 結局カゴでわけてもらったポルンを研究棟に持ち帰り、またみんなでつまんだ。


 ポルンはひとりで食べるよりも、大勢でにぎやかなほうがいい。


「ポルンはまかないのおやつなんです。王族にだすようなものじゃないって食べさせてもらえなくて。僕が厨房にこっそり行ったのは大好きなこれを、どうしてもお腹いっぱい食べたくて」


 ユーリがそういうとポルンを食べていたオドゥが、なんとなく目元をうるっとさせた。


「あーもぅ、ユーリのそういうところが可愛いんだよなぁ」


「何がですかオドゥ、『可愛い』とかやめてくださいよ!」


 笑いころげながらオドゥは黒縁眼鏡をはずし、自分の指で目尻の涙をぬぐう。


「や、『お腹いっぱい食べたくて』とか……そのセリフだけで泣きたくなるよ。兄ちゃんがついてるからな!」


(くる!)


 身構えたときにはもう遅かった。ぎゅう~。がっちりと抱きしめるオドゥの腕をふり払おうとユーリがもがいても、ぜんぜん彼の腕をほどけない。


「ちょっ、オドゥ!男に抱きしめられてもうれしくないですっ!」


「わかってる、わかってる。僕が抱きしめたいだけだからさっ」


 ぎゅう~。


「はーなーせえぇーっ!」


 放せ、ほんとコイツやだ。こないだは研究室にいたら同じノリで寝技までかけられた。


 中肉中背、どちらかといえば細身なのにオドゥの動きは洗練されていて、体術の心得があるユーリでもかんたんには勝てない。


 顔を真っ赤にして「降参……するっ」と音をあげるまで、変な体勢で固められた。思いかえしても屈辱でしかない。


「ただの錬金術師がなんでこんなに手練れなんだよ!」


 ユーリはわめいてまたジタバタと暴れ、ぱちくりとまばたきをしたネリアはあきれたように首をかしげた。


「オドゥってほんとユーリのこと好きだよねぇ」


「大・迷・惑ですよっ!」


 もしも背が伸びたら弟より高くなりたい。それにくわえて絶対オドゥよりも高くなりたい。もしもそうなれば。


(あいつみたいに上からオドゥをみおろしてやる!)


 きょう会った銀髪の魔術師を思いだしながら、ユーリは必死にオドゥの腕から逃げた。





 奥宮にある自分の部屋で寝るしたくをしながら、ユーリは一日のことを思いかえす。


「きょうはいろいろあったな」


 ひさしぶりに歩いた王城はやはり広くて、部屋をめぐってネリアに説明するのが誇らしかった。


 ネリアはただ純粋におどろき、ひとつひとつに感心する。


 彼女の目を通せばいつもの見慣れた光景すらも新鮮で、ユーリもまったく退屈せずむしろ楽しかった。


 錬金術師団のみんなで行けたらいいね、とマウナカイアの話がでていたことを思いだす。


(ネリアたちといっしょにマウナカイアかぁ……)


 ユーリはマウナカイアで楽しそうにしているネリアを想像しようとした。


 彼女は赤茶色の髪もきらめくペリドットの瞳も夏の日差しを浴びて健康そうで……いい感じに情景を思いうかべたところで、強い光をはなつ薄紫の瞳が脳裏をよぎる。


 流れる銀糸のような髪を背に流し、みるものに強烈な印象を残す怜悧な美貌と、きょうは真正面から向きあった。


 臆せず堂々と彼にむかってものが言えた。どうやら「わっはー」が効いたらしい。


 そんな自分をほめてやりたいが、目を閉じてネリアを思いうかべようとすると銀髪の魔術師がドンと立ちはだかる。


 何度やっても楽しそうなネリアは「きゃー」とどっかにいって、銀髪の魔術師がドン……。


 そのうち低くよく通る声さえ脳内再生してしまいそうだ。ちがう、僕が思い浮かべたいのは……。


 銀髪の魔術師がドン。


「あいつのこういうところが嫌いなんだよ!」


 まだまだ好き嫌いの多いユーリは自分の枕をボスっと投げ、ふてくされるとブランケットにくるまった。

お読みいただきありがとうございました!

ユーリも本編ではちょっと(だいぶ?)大人になりました。

もしも興味を持たれましたら『魔術師の杖』本編もどうぞ。

挿絵(By みてみん)

赤の錬金術師:ユーリ・ドラビス

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