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線の上の冒険者  作者: aki.
11日間の試練編
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第7話「11日間の試練-その後-」

 





 その後の僕たち。






「さて、そろそろおぬしたちに新たな試練を与えようかの」

「「え?」」




 11日間の試練・最終日。


 あれから僕とジンは、神様の手伝いという名の雑用をこなし"11日間の試練"の残りの日数を何不自由なく過ごしていた。



 だけど神様の家での生活は、お世辞を抜きにしても快適とは言い難く苦労しかしていない。その理由は雑用ばかりやらされていたからとかではない。


 僕たちは、雑用の他に神様と死神さんの二人による"お稽古"に参加させられていた。雑用を片付ければお稽古をし、また雑用を片付ければお稽古をし。そんな生活を拒否権もなく続けさせられ、休む暇もなく今日という日を迎えている。


 そして今日も、今やっている雑用が全部片付けばお稽古が待っているのかとジンと二人で溜め息混じりに廊下を掃除していると、そこで突然の神様からの再び試練与える発言。



 それを聞いて、僕たちは顔を見合わせ頭に"?"を浮かべた。




「試練?」

「そうじゃ」

「え、試練って終わったんじゃねえの? …もう最終日だけど、1日でどうやれと?」



 無理しかない。

 ジンは言って、持っていた雑巾をバケツに放り投げる。


 しかし神様は首を横に振って"11日間の試練"は関係ないと言った。



 関係がない…?



「11日間の試練はもう終わったじゃろ? わしがおぬしたちに与えるのは別の、期限無しの試練じゃ」

「期限無しの試練…」



 雑巾をバケツの中に入れる。


 時間をだいぶ浪費して雑巾掛けをしたため、廊下は僕たちの姿が映り込む程ピッカピカになっていた。




「おぬしたちは旅人じゃったな」

「はい、そうです」

「それが何だ?」



 リビングに移動して、神様が淹れてくれたお茶を飲む。


 神様は僕たちが旅人だという事を確認すると、顎髭を触り灰色のローブの袖の中から一枚の紙を取り出した。


 それは、この箱詰め地球の地図。

 地図をテーブルに広げて、神様はとある国を指差す。



「おぬしたちには、この国へ行ってもらいたいんじゃ」

「ここは?」

「何故この地球が箱によって姿を変えたのか。何故この地球が箱に詰められたのか。その謎が眠っとると噂されている国じゃよ」

「!」



 神様の言葉を聞いて、僕は目を見開いて驚く。


 神様が指を差す国があるのは、僕たちが今居る国からだいぶ離れた所にあった。



「それを、何で僕たちに?」

「ほほ。おぬしたちならば成し遂げられると思ったからじゃ」



 神様は笑う。



「わしはな、ずっと待っていたのじゃ。おぬしたちのような者がこの世に現れるのを」



 11日間の試練を越えられて、且つ強い者をの。そう言って、神様は地図を服の袖の中へ戻す。


 するとそこへ、大きな丸太を持った死神さんが帰ってきた。重そうな一本の太い丸太を軽々と肩に担いで運んでくる死神さんの姿は、なんだか見ていてとても勇ましい。





「戻ったぞ」

「おお。おかえり」

「これは何処に置けばいい?」

「相変わらずおぬしは想定外の大きさの丸太を持ってくるのぉ…。それは風呂に使うから外に置いておいてくれるかの」

「わかった」



 頷いて、死神さんは外へ歩いていく。出会った当初からだけれど、神様と死神さんは仲良しだ。


 試練が無事に終わってしばらく経ったあと、僕は興味本位で神様と死神さんの関係について聞いてみた。

 二人はどうやら、最初は敵同士だったらしい。長い戦闘の末、神様が死神さんを打ち負かし、死神さんはそれからは神様に従順な(しもべ)になったんだとか。


 なるほど。

 だから死神さんは神様に対してあんな反応なのか。納得。




「…おほん。それと、おぬしたちにもう一つ。これは試練ではなく、わしの個人的なお願い事じゃ」

「「?」」



 お願い事…?



「お願い事って?」

「…実はな」



 神様のお願い事。


 それは、ここから国境を越えた先にある四つの国。その四つの国に各一人ずつ"神の呪い"に掛かった人物が住んでいるという。しかもその人は呪いに掛かった実感がないまま普通に生活していて、知らない間に呪いの力がその身体を蝕んでいるのだとか。

 僕たちには、その四つの国でその呪いに掛かった人たちを救ってほしい。との事だ。


 呪いに掛かった人たちを救うには、呪いを具現化して倒さなければならない。神様は呪いを具現化させる道具を別の部屋から持ってきて、僕たちにそれを渡してくれた。




「これは?」

「それは呪いを具現化させる道具じゃ」

「……………」



 神様から貰った呪いを具現化させる道具。名前はない。


 付けるとするなら、……"呪い具現化装置"ってところか。



「あー、…神の呪いって、つまりは…じいさんが掛けた呪いって事?」

「いや、わしは人間は呪わん」

「じゃあ、なんで"神の呪い"なんて名前を…?」

「ふむ。それはな、…呪いを掛けたのがわしの妹じゃからじゃよ」



 溜め息混じりに神様は言う。



 神様の妹。

 神様と同等の力を持った彼女は、神様とは違って人間の事があまり好きではなかった。


 いつかは人間を滅ぼしたいと常日頃から思っていた彼女がある日、適当な人間を四人、適当に選んだ四つの国から捜しだし呪いを掛けた。


 本人はそれを"暇潰し"と称し、その後もその呪いを掛けた四人の人間を観察しては徐々にその人間の中に宿らせた呪いの力を強くして遊んでいるという。



 話を終えた神様は眉を下げて、顎髭に触れた。



「わしの妹は気性が荒い性格でのぉ。わしの話をまったく聞いてくれんかった。じゃからわしは妹から離れ、この国で呪いを消し去る方法を捜していたのじゃ」

「…で、見つけたのがこれ?」

「そうじゃ。それさえあれば、妹の呪いを消し去る事が出来る。呪いを完全に消すには具現化されて倒すのが一番じゃ」

「…………………」




 神の呪いに掛かった人たちを見つけて、呪いを具現化して、その呪いを倒す。


 うん。お願いがハードだ。

 考えると、これは11日間の試練と先ほど神様から言われた新たな試練よりも難しいんじゃないか。



「置いてきたぞ」

「ごくろうさん」



 死神さんが戻ってくる。


 僕はお茶を飲んで、神様の言葉を頭の中で復唱した。箱詰めになった理由、神様の妹、呪い、四つの国、呪いに掛かった四人。


 うーん。

 やることが一気に増えて、しぱらくの間は混乱してそうだな。



「そうじゃ死神。おぬし、ケアテイカー殿たちの旅に同行してはくれんか?」

「は?」



 言われて、首を傾げる死神さん。


 神様から簡単に話を聞いて、すぐに彼女は二つ返事で了承した。さすが従順。決断が早い。



「決まりじゃの。では早速」

「ちょっと待て」

「なんじゃ?」



 話は終わり、その場から離れようとする神様。しかしそれをジンは止めて、ジンは僕が持っていた呪い具現化装置をテーブルに置いた。



「話は聞いたけど、俺ら"行く"なんて一言も言ってねぇけど」

「…行かぬのか?」

「そりゃ、聞いた以上はほっとけねぇとは思う。だけどそれって、この前ポッと出会った赤の他人の俺たちに任せてもいい事なのか?」



 ジンは言う。



「さっきも言ったじゃろ? わしの妹はわしの話をまったく聞いてくれんのじゃ。じゃからおぬしたちにお願いしとる」

「話を聞いてくれないからって、それだけで他人にハイ丸投げってのはどうかと思うんだけどな。てめぇの妹のやった事なら、兄であるてめぇが片づけなきゃ意味ねぇだろ」

「貴様! 神に何て口を!」



 聞き捨てならなかったのか、死神さんが前に出てジンに向けて槍を構える。


 それを見て、ジンは舌打ちをして頬杖をついた。いかにも不機嫌って表情。その様子に僕は首を傾げて頭に"?"を浮かべた。



「死神。よい。レスター殿の言葉ももっともじゃ」

「神」

「じゃがの、レスター殿。確かにこれはわしら家族の問題。しかし家族でもどうしても片付けられない事というのがあるのじゃ。わしも、もっと若さと力があれば妹を止められると思うのじゃがのぉ」

「………………」



 息を吐く神様。


 気分が若干落ちてしまった神様をしばし見つめて、ジンは溜め息を溢す。そして、呪い具現化装置を手に取って立ち上がった。



「どうしてこう、家族ってのは厄介なんだ…」

「ジン?」

「じいさん。俺は、あんたの願いは聞かない。妹の事はあんたがてめえで何とかしろ。俺はこの呪いの件を雑用の延長として片付ける。雑用って事なら協力出来るからな」

「レスター殿…」

「お前はどうする、ケアテイカー?」



 言って、ジンは僕を見る。


 僕の答えは決まっていた。



「うん。僕もやるよ。ジンみたいに雑用の延長っていうのは嫌だけど、神様の話を聞いてたら放っておけないよ」

「だってよ。じいさん良かったな。ケアテイカー殿が代わりにやってくれるそうだ」



 少しだけ嫌みが混じった言葉で、ジンは神様に言う。


 しかしその言葉には刺というものが一切なく、神様は眉を下げて小さく笑った。






 +




「よいか。呪いは強い。油断はするでないぞ」




 神様の家を離れる時に、神様に言われた注意事項。


 呪いに油断は禁止。

 "呪い"という字を見るだけでもわかる事だけれど、神様からのせっかくのご忠告だからこの言葉は頭に厳重に残しておこう。



 そして、場所は空にある二本線の上。僕の魔法で地面のある所からここまで頑張って登ってきた。


 三人分はさすがにキツイ。




「う、わ。久しぶりだからさすがに怖ぇな。ケアテイカーはいつもここを歩いてんだよな? 怖くねぇの?」



 線の下を見ながら、ジンは言う。



「慣れちゃえばどうって事ないよ。それに風の魔法があるから安定して歩けるし」

「…まぁ、落ちる心配はねぇけどさ。風の魔法が使えねぇ奴がここ歩いたらヤベェよな」

「大丈夫だ。おぬしの魂は私のものだ。おぬしの魂を刈るまではおぬしは絶対に死なせんよ」

「…………、そりゃどーも」



 ジンの後ろから死神さんが何か物騒な事を言った。それを聞いたジンは眉を下げて表情を強張らせる。


 魂は私のもの? 何それ?



[なぁ、腹減った]

「ん?ああ、そういえばもうお昼だね。何食べようか」

「おい、何こんなとこで突然飯の話すんだよ。まさか食うのか? ここで?」

「うん」

「うん。じゃねぇよ。こんなとこで食えるわけねぇだろ。線の上だぞ?」

「私は一向に構わない」

「まじか」

「じゃあ、そうだな。…何かあったっけ?」

「おい、本当に食うのか!?」

「つべこべ言うな。男が廃るぞ」

[おい、早く! 飯!]

「ちょっと待ってクロ。今出すから」

「…………まじか」



 ぐー。と、お腹が鳴る。


 音が鳴ったのが誰のお腹だったのかわからないけれど、僕たちはそこでお昼休憩を取る事にした。



 お昼開始の時から終わりの時まで何やらジンが騒いでいたけれど、ご飯が美味しかったのであまり気にはしなかった。









ここまで読んでいただいてありがとうございます!

"11日間の試練編"はこれにて完結です。


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