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線の上の冒険者  作者: aki.
11日間の試練編
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第6話「神様VS冒険者」

 





「さぁ、ケアテイカー殿! 手加減は無しじゃ! 何処からでも来るがよい!」

「えー…」




 ジンと女の人…死神さんの戦いが終わって、次は僕と神様の番。まさか神様と戦うなんて思ってもみなかったから、今少しだけ困惑しています。


 …というか、あの女の人って死神だったんですね。

 さらっと言われたから危うくスルーするところだった。



 もう、なんでジンは死神さん縛っちゃったんだろう。おかげで神様と戦う羽目になってしまった。





「…………」



 神様の向こう。ブロック塀の近くの地面に死神さんとジンは座っている。何か話しているようだけれど、生憎とここからでは声までは聞こえない。


 死神さんの身体を縛っていた術は僕と神様が戦いの準備をしている間に解いたようだ。だったら予定どおり、僕と死神さんを戦わせてほしい。



[おーい! 負けんじゃねぇぞー! お前の力、ジジイに見せてやれ!]



 魔法陣の外から、クロが叫ぶ。


 クロよ。神様を"ジジイ"と呼ぶのはやめなさい。僕にしか聞こえてないから別に大丈夫だけど。



「…………」



 僕の力は神様に通用するのか。

 わからないけど、やらなきゃいけない。


 僕は意を決して右手を前に伸ばし、その手に風を纏わせる。シュルシュルと糸状に纏わり付く風は次第にその力を増大させ、頃合いを見て、僕はそれを神様目掛けて勢いよく飛ばした。


 物凄い早さで神様の元へ飛んでいく風の力。しかしそれは神様に当たる寸でのところで消え失せてしまう。



[え! 何で今の当たらねぇんだよ!?]

「ほほ、良い風じゃな。顎髭を整えるにはちょうどよいわい」

「…………っ」



 どうやら風の力は神様には効かないようだ。


 ならばと僕は再び右手に風を纏わせ、今度はそこに炎の力も加える。

 纏わり付く風が炎の渦に変わり、それも神様目掛けて勢いよく飛んでいった。渦が神様の身体を包み込み、魔法陣の外でそれを見ていた死神は目を見開く。



「神!」



 炎の渦は力を増していくけれど、これ中に居る神様には絶対効いてないような気がする。


 生の肉が一瞬にして丸焦げになるような温度の炎のはずなのに、中からは神様の声はおろか肉が焼ける音も聞こえてはこない。


 僕は三度(みたび)右手に風を纏わせ、身を構える。



 …と、次の瞬間僕の背後に気配。


 気付いて振り向いた時にはもう僕の身体は宙に浮いていて、勢いよく地面に叩き倒された。



 目の前には神様。

 神様は僕を見て笑っていて、その顔を見て僕は口元を引きつらせる。




「勝負あったな、ケアテイカー殿」

「………はい」



 魔法陣の光が消え、神様の手を取って立ち上がる。


 魔法陣の外から死神とジンがやって来て、死神が神様に近付いた。クロは僕の胸に跳び込んでくる。



「神、怪我はないか?」

「大丈夫じゃよ。この通り無傷じゃ」



 死神の言葉に、神様は胸を叩いて応える。


 確かに炎の渦は神様の身体を包んだ。けれど、神様は無傷で渦の中にから脱出して気配を殺しながら僕の背後に回った。思った通り、最初の風の力と同じで炎の渦も神様には効いていなかったようだ。



 僕の力は全力だったのに、残念だったな。




「お疲れさん」

[残念だったな。もうちょいだったのに]



 ジンのあとにクロが続く。


 ひょい。と肩に飛び乗って、僕はクロの頭を撫でた。どの辺が"もうちょい"だったんだ。



「ほほほ。二人とも実に強かったのぉ」



 死神と話していた神様が僕たちの方を向いた。



「これで、わしの試練は終わりじゃよ。おぬしらは合格じゃ」

「合格?」



 神様の言葉に僕とジンは顔を見合わせる。


 合格とは…?



「じゃが、合格と言ってもまだまだ11日間の試練は続く。おぬしらには残りの時間、ここで寝泊まりをしながらわしの手伝いをして貰おうかのぉ」



 顎髭を触りながら言う。


 合格とは何だ。と聞いても、この様子だと答えてくれそうな気はしない。



「試練は終わりって、…俺らに与えられた試練の事か?」

「そうじゃ。レスター殿の"神様と管理人に逢う"という試練とケアテイカー殿の"神様に逢う"という試練。どちらも達成された。おぬしらの魂は今回も守られた、…ケアテイカー殿は初めてじゃが」



 ほほほ。と笑う。


 ジンは首を傾げて、頭に"?"を浮かべた。



「俺の試練も達成ってどういう事だ?俺、じいさんには会っても、管理人にはまだ…」

「ん?なんじゃ、気付いていないのか?」

「ケアテイカーなら、おぬしの隣に居るぞ」

「は?」



 ジンは僕を見る。


 そして死神の言葉を理解したのか、ジンは目を見開いて声を張り上げた。



「え!?お前がケアテイカー!?」

「あー、…はい。どうも」



 凄く驚かれる。


 肩に乗っているクロが何故か誇らしげに"にゃあ"と鳴いた。



「ほほほ。さっきから名を呼んでおったのに、レスター殿は面白いのぉ」

「ただ普通に馬鹿なだけだろ」



 うん。まぁ、確かにあれだけ神様がケアテイカーって何度も僕の事を呼んでいたら普通は気付くよね。


 思いながら僕は神様と死神の言葉に耳を傾け、目の前で少しだけ興奮しているジンを見て眉を下げた。




 こうして、神様が僕たちに与えた"11日間の試練"は終わりを迎えた。

 でも神様の言う通り、まだまだ試練の日数は残っている。


 それまでは僕はまだこの国を出る事は出来ず、出ようとしても、国境がそれを許してはくれないそうだ。



 うーん。

 出られないのならば仕方がない。




[なーんだ。試練を突破したらすぐに出られると思ったのに。…しっかり11日間は過ごさなきゃいけねえのかよ]

「そうだね」

[しかも残りの日数はジジイの手伝いって。あいつはケアテイカーを何だと思ってんだ?]

「まぁまぁ。残りの日数宿屋でだらだら過ごしてるよりいいじゃない。前にも言ったでしょ。休暇だと思えばいいって」

[ぬー]



 項垂れるクロ。


 そんなクロを宥めながら、僕は家の中に戻る神様たちのあとを追って歩き出した。





「そういえば、神様」

「なんじゃ?」

「さっき、神様が持ってきたあの白い箱はなんだったんですか?」

「ん? …ああ、あれな。あれはただの空箱じゃ」

「え」






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