第5話「女の人VSジン」
僕たちの能力を見る。
神様は確かにそう言った。
場所は、神様の家の裏。
ここは少し広い空間となっていて、四方にある家と同じ色をしたブロック塀が他の住人宅を守るようにして何段も積んである。
空間の真ん中。そこの地面には魔法陣が描かれていて、その上に槍を持った女の人とジンが向かい合う形で立っていた。
僕と神様は魔法陣から離れた所で、二人の姿を見る。女の人と向かい合って立つジンの顔は少しだけ怯えているようで、表情が強張っていた。
「よいか?加減するんじゃぞ!」
神様が叫ぶ。
魔法陣からは光が放たれていて、二人をドーム状に囲んでいた。暴れて、他住人宅の家を壊さないようにするためだとか。
うん。見るからに今から戦う雰囲気だものね。予防は必要だよね。
「準備はいいか、餓鬼!」
「……戦いは好きじゃねぇんだけどなぁ」
言いながら、女の人は槍を構える。
それを見てジンも渋々ではあるけれど黒色のパーカーの内側に手を入れて、そこから一枚の紙切れを取り出しそれを構えた。ん?紙切れ?
「ほぉ、レスター殿の武器はあれか」
神様が興味深く頷く。
[なぁ、なんだあれ?あんなのであの姉ちゃんに勝てるのかよ?]
肩に乗るクロの声を聞く。
「あれは魔封術を使うための札じゃよ」
[?]
「魔封術?」
クロの言葉に反応。したわけではなく、神様が僕の様子に気付いて教えてくれた。
「魔封術の札。古代からある武具の一つで、一枚持っているだけで地水火風闇すべての魔法が使えるという優れものじゃよ」
[へぇ]
「……………」
感心したようにクロが頷く。
古代の武器。
それって、地球が箱詰めにされる前の武器って事かな。
そうだったら凄く興味がある。
「おぬしの武器はそれか。せいぜい破られないように気を付けておくんだな!」
女の人は地面を蹴って、素早い動きでジンに近付き槍を振るう。その槍の刃をギリギリの距離でかわして、ジンは持っていた札を横一線に払い口を開いた。
「炎閃!」
札を横一線に動かしたと同時。ジンが言葉を紡いだと同時にその札から一筋の炎が飛び出し、勢いよく女の人を襲う。
炎を間近で浴び、女の人は表情を歪ませてすぐにその場から離れた。
[お! なかなかやるじゃんあいつ!]
一線を描いた炎は次第に消え失せ、女の人は槍を構えなおす。槍を器用に回し、女の人は舌打ちをした。
神様は、ジンの姿をじっと見つめている。
「ふむふむ。どうやら、わしの目は間違っていなかったようじゃな」
「?」
一人納得して、ほほほと顎髭を触りながら笑う。
神様は何を考えているんだろう?
「この私に一撃を喰らわすか。私を見たら大抵のクズどもは逃げ出すんだがな」
「逃げる場所なんて何処にもねぇだろ。だったら戦うしかねぇよ、嫌でもな!」
言いながらジンは札を振り上げる。
札からは光が放たれ、その光はジンの身体をすっぽりと覆った。
それを見て、神様は目を見開く。
「おおっ!」
「神様?」
「あれは光の魔封術! 数居る魔封術使いの中でも数人しか使うことの出来ない希少な魔法じゃ!」
「[………………]」
なんか、凄く興奮してるよこの神様。
あの魔法、そんなに珍しいものなのかな。
僕にはただの光の魔法にしか見えないけれど。
「ふん。妙な事をしおって。そんな魔法が私に通じる……っ、!」
槍を構え、女の人はもう一度ジンに攻撃を仕掛ける。
しかしそれよりも早くジンは動き出し、一瞬にして女の人の背後に回った。気配を察して振り向くよりも前に懐からもう一枚札を取り出してそれを勢いよく振り降ろす。
「封縛!」
そして、バチンッと大きな音と共に札を女の人の背中に張り付け、声と同時に発動した魔法が女の人の身体を締め付けた。
札からは無数の糸のようなものが伸びるように出てきて女の人に巻き付く。巻き付かれた事で女の人は動きを封じられてバランスを崩してその場に倒れそうになった。
「………っ、この!」
最後の足掻きか。倒れる前に女の人は槍を器用に持ち変えて、刃の先端をジンの顔めがけて振り上げる。
咄嗟に反応したジンだったけれど完全にはかわしきれなくて、彼の頬には一筋の傷が出来てしまった。そこからは少量の赤い血が流れる。
「そこまでじゃ!」
神様の言葉で、女の人はピタリと止まる。次第にジンの身体からも光が消え、魔法陣の光も消えた。
地面に尻餅をついて、ジンは深く息を吐く。
僕はすぐにジンの元に駆け付け、大丈夫かと口にした。
「ああ、うん。平気へーき。ちょっと疲れたけど」
「レスター殿」
「?」
言いながら、力なく笑う。
そこに神様もやって来て、ジンに声を掛けた。
「魔封術、確かに見せて貰ったよ。いやはや、君の力は想像以上だったわい」
「………そりゃどーも」
「おい! この術を早く解け馬鹿者! 動けぬではないか!」
「そう慌てるでない。魔封術は精神力を多く削る術なのじゃ。しばしレスター殿を休ませてやれ」
神様は言う。
その言葉に舌打ちをして、女の人は目を閉じた。
表情を見ればイラついいる事がすぐにわかる。
「ジン、お札…ちょっと見せてくれませんか?」
「ん? ああ、いいぜ」
ジンに札を見せて貰う。
札には、魔法陣と見たことがない記号が書かれていた。
隣から神様も札を見つめて、これにも興味深く"ほぉほぉ"と頷く。
「魔封術の札は術師を選ぶ。この札はレスター殿にだいぶ身を委ねておるのぉ」
「わかるのか?」
「うむ。ここに書いてある言葉を見ればよくわかる。レスター殿も札を使いこなすまでにはかなり苦労したじゃろ」
「!」
神様の言葉に、ジンの肩が震える。
二人の会話を聞いても何がなんだかさっぱりだけれど、確かにこの札からは強大な力を感じる。
持っているだけでその力に気圧されそうだ。
「では、次はケアテイカー殿じゃ」
「ん?」
ほほ。と笑って、神様は僕を見る。
あ、そうか。僕もやるんですよね。
ちょっと忘れかけてた。
「レスター殿、そろそろ動けるかの?」
「ああ。動くだけなら」
「なら、そこに居る死神と端っこに寄っておれ。ケアテイカー殿の相手はわしがやろう」
「「………ん?」」
え?今、神様何て言った?