第4話「神様の家にて」
所変わって、ここは酒場からだいぶ離れたお爺さん…神様の家。
神様にも家があるのか。と驚いたけれど、まぁ酒場に居るくらいだから家もあるか。という事で僕はそこで無理矢理納得した。
「さぁ、どうぞ。粗茶じゃが」
「…どうも」
家に入るや否や、リビングに案内されてお茶を出される。僕の隣に座るお兄さんもこの状況に困惑しているようだった。
お茶を飲んで、心を落ち着かせる。
クロは僕の膝の上で眠っていた。呑気な猫である。神様は今、別の部屋に移動中でここには僕とお兄さんの2人だけだ。
「なんで俺、こんなとこに居るんだろう」
お兄さんが言う。
それはもっともな台詞だ。
なんで僕たちはここに居るんだろう。
そりゃ、神様に逢って厚意で家に連れてきて貰ったんだけれど僕もお兄さんもノリノリでついてきたって言うよりは半ば強制的に連れてこられたって感じだし。
……うーむ、神様は一体僕たちに何の用があって僕たちをここに連れてきたんだ。
「……そういえば、お兄さん」
「…ジンでいいぞ」
「…、ジンの試練の話。神様はわかるんですけど、管理人に逢うってどういう事なんですか」
神様が席を外している今、聞きたかった事をお兄さん…ジンに聞く。聞いたところで彼にもわからないだろうけれど、この疑問は無視せずに聞かなければいけなかった。
僕のその質問に、ジンは顔を僕の方に向けて肩を竦める。
「さぁな。俺にもさっぱり」
「…ジンは、管理人って誰だかわかってるんですか?」
「管理人っていや、あの…空にある線の上に居る奴の事だろ?あー、と。オンライン・ケアテイカー…だっけ?そいついつも空に居るって噂だろ?会いに行くってだけで難題だ」
言って、ジンは椅子の背もたれにずるずると背中を預けて項垂れる。
ふむ。どうやらジンは管理人の存在は知っていても、その正体が僕だとは気付いていないようだ。
さっき酒場で神様がめっちゃ言ってたのに。聞いていなかったのかな。
「でもま、まだ時間はあるんだ。気長に捜すしかない」
「?、ジンは旅人?」
「ん?ああ。…事情があって、最近はずっとこの国に入り浸りだけどな。…でも、いつかはこの国を出て、また旅をしたいとは思ってはいるけど、なかなか金が貯まらなくてな」
はぁ。と溜め息。
外の国に行くには、莫大なお金が必要不可欠。僕は管理人だからお金を持っていなくても国境は越えられるけれど、…そうか、当たり前すぎて忘れていたけれど普通の人はお金を払うんだ。
「いやぁ、すまんの。探すのに手間取ってしもうたわ」
神様が戻ってくる。
手には、手のひらサイズの箱が二つ。その箱を僕とジンの前に置いた。
……何これ。
「何だこれ?箱?」
箱を手に取り、まじまじと見つめる。特に怪しい所はない様子で、僕も箱を手に取り、頭に"?"を浮かべた。
「その箱を開けてみよ」
「「?」」
顔を見合わせる。
神様は笑っていた。
断る事も出来なさそうなので、僕は渋々神様の言う通りに箱を開ける。
箱の中には何も入っていなかった。
僕のあとにジンも恐る恐る箱を開ける。同じくそこにも何も入ってはいない。
何も入っていない事を伝えようと神様の方に顔を戻せば、そこに神様は居なかった。代わりに居たのは黒くて髪の長い女の人。身の丈程の槍を肩に抱えて、女の人は僕たちを睨み付けている。
「誰…?」
「あの、…神様は?」
「………………」
僕たちを睨み付けたまま女の人は動かない。しばらくの間、睨まれ睨み付けられの状態が続き、そのあと女の人は突然舌打ちをした。
突然の舌打ちに吃驚して僕たちは肩を震わせる。
何この女の人、怖い。
「ん。なんじゃおぬし、来ていたのか」
そこに、神様が女の人の背後にある窓からひょっこりと顔を覗かせる。僕たちに何も言わずに勝手に外に出ないでください。
神様の声を聞いて、女の人は神様の方に顔を向ける。神様も睨み付けるのか。と思って見ていると、女の人は神様の顔を見た瞬間、それまで浮かべていた表情を一瞬にして崩し、何故か頬を赤く染めた。
「か、神!そこに居たのか…!何処に行っていたんだ!」
「ほほ、すまんのぉ。そこの二人の試練のための準備をしておったのじゃ」
「?。準備?二人?…ああ、ここに居る餓鬼どもの事か」
言って、女の人は再び僕たちを睨み付ける。
見ただけでわかる。
この人は神様に従順だ。
「……ん?でも何でおぬしここに来たんじゃ?まだ日数は残っておるぞ?」
窓から顔を覗かせながら、何かしら作業をしている神様。
神様の言葉を聞いて、女の人は肩から槍を降ろし、柄の底を床につけた。ドスンと重そうな音が僕たちの両足に響く。
「そ、それは!えーと、…うむ、そうだな…」
何て答えようか。うーん、と悩む女の人。顎に手を添えて悩むその姿は、先ほどの怖い雰囲気を忘れさせる程の勢いでがらりと変わっていた。
「あ、あれだ!おぬしの手伝いをしようと思って来たのだ!…あー、何か私に手伝える事はないか?」
「手伝い?…おお、それならちょうどよい。おぬしにとっておきの良い仕事があるぞ」
「!、本当か!?」
嬉しさのあまり、槍から手が放れる。またもドスンと重そうな音を立てて槍全体が床に倒れた。槍が倒れた影響で床に何個かヒビが入る。
神様も女の人も床がちょっと傷付いた事には気付いていないようだ。
いや、ただ気にしていないだけかもしれない。
「それは何だ!?もったいぶらずに早く話せ!」
ウキウキが止まらない様子の女の人。それはまるで飼い主の命令を待っている犬のようだ。
もし彼女に尻尾があったなら、今頃ぶんぶんと振られているだろう。
「まぁそう慌てなさんな。相変わらずおぬしはせっかちじゃのぉ」
神様は笑う。
これは"せっかち"で片付けてもいいものなのか。
「おぬしには、そこの二人の相手をして欲しいんじゃ。能力を見るためにの」
「「能力?」」
僕と女の人の声が重なる。
僕たちの相手。と聞いた瞬間、女の人はあからさまに嫌そうな表情を浮かべて顔を僕たちの方に戻した。
神様の言葉を聞いて、僕とジンは再び顔を見合わせ頭に"?"を浮かべた。