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線の上の冒険者  作者: aki.
11日間の試練編
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第3話「神と名乗る爺」

 





「なんか悪いな。飯までご馳走になっちまって…」




 席を移動して、ご飯を食べ直す。

 僕とクロの前には、先ほど頼んだお肉とミルク。落ちてきた人の前にはサラダとミルク。


 落ちてきた人は申し訳なさそうに表情を歪ませて口を開き、それを聞いた僕は気にしないでいいと笑った。気にしてはいないけれど、もちろんあとでたっぷり迷惑料は貰う。



「お兄さんは、この国の人?」

「いいや、違う」

「…さっき怒鳴ってた人は?」

「さっき?…ああ、聞こえてたのか。できれば忘れて欲しいんだけど、さっきのはあれだよ。…えーと」



 お肉を食べながら話を聞く。


 とても言いづらそうにしているけれど、話したくない内容なのか。



「あー、と…。あ。そ、それにしてもさ!」



 あ、話をすり替えた。

 やっぱり話したくはないんだ。だったら強制はしないでおいた方がいい。


 落ちてきた人(灰色の髪の毛のツンツン頭のお兄さん)は、テーブルの上に頬杖をついて周りを見渡す。この酒場はえらく客の回転率が悪い。それほどここは居心地が良いのか。それとも常連客が新規さんを入れないようにしているのか。



 後者だった場合、この酒場はヤバい。




「今回も、ここに居る全員が試練を受け取ってるんだよな」

「…11日間の試練の事ですか?」

「ああ。神様に与えられた試練をどうたらってやつ。俺はこの国に住んでもう長いし、慣れちまったから何とも思わないけどさ。…ここに居る奴らは今頃困惑してんじゃないかなって」



 お兄さんの言葉を聞いて、ミルクを飲む。



「お兄さんは、今回で何回目なんですか?」

「さぁ?そんなんいちいち数えてねぇよ」



 言いながら、お兄さんはサラダを一口。近くにあったドレッシングを大量にかけて、食べた瞬間ちょっとむせていた。


 うーん。と、僕はコップの中に残ったミルクを見つめる。軽く波打つ白色のミルクは僕の頭を少しだけ冷静にさせた。




「おぬしたち、ちょっといいかい?」



 するとそこで突然、声が掛かる。


 声に反応して僕とお兄さんは顔を上げた。見るとそこには白髪のお爺さんが立っていて、お爺さんは僕たちの顔を見て笑いながら胸まである白い顎髭をゆっくりと撫でている。


 一見して、この場所には不釣り合いなお爺さんだ。



「知り合いか?」



 お兄さんが聞いてくる。


 生憎と僕の知り合いにはお爺さんは一人も居ない。

 というか、僕には知り合いと呼べる人はこの世でほとんど居ない。寂しい。



「おぬしたち、見たところによるとわしを捜しているようじゃな」

「「は?」」



 顎髭を触りながらお爺さんは言う。


 言っている意味がわからず、僕とお兄さんの頭には"?"が何個も浮かぶ。いや、まぁ、確かに捜しているけれど、お爺さんの事は捜していない。



「…じいさん、俺らよく見てみ?誰かを捜してるように見えるか?」

「ん?…。んー。……見えるのぉ。おぬしたちの頭ん中にはきっちりとわしの姿がある。じゃからおぬしたちはわしを捜してるはずじゃ」

「わけがわからん」

「あの、人違いじゃないですか?」

「人違いではないぞ。わしはおぬしたちだとわかっている上で声を掛けているのじゃ。ケアテイカー殿。ジン・レスター殿」

「!」

「!?」



 お爺さんの言葉に僕は少しだけ肩を震わせ、お兄さんは目を見開く。


 そんな僕たちの反応を見て、お爺さんは満足そうに目を細めて頷いた。



「じいさん、何で俺の名前…!」

「ほほほ。わしはなんでも知っておるぞ。おぬしの名も、生まれも、先ほどの男との件もの」

「っ…」



 お爺さんは笑う。


 僕の事はともかくとして、お兄さんの事も知っているなんて。まさかとは思うけど、いや、でも…まさか流石にそれはないだろう。



「うーむ。おぬしたちはまだわしの事を理解していないようじゃな。では、ここで問題じゃ。おぬしたちの今回の試練はなんじゃったかな?」

「え?」



 僕たちの試練?

 僕の試練は"神様に逢う"事。


 お兄さんに与えられた試練は何なのだろう?お爺さんに質問されたって事は僕と似たような試練なのかな。



「僕の試練は"神様に逢う"です」

「…俺の試練は、"神様と管理人に逢う"だ」

「えっ」

「?、なんで驚く?」



 お兄さんは首を傾げる。


 僕とお兄さんの試練の内容を聞いて、お爺さんは言葉を続けた。



「では、次の問題じゃ。わしは何故おぬしたちの元へ来たのかの?」

「は?そんなのわかるわけ…」

「!、待ってお兄さん!」

「あ?なんだよ?」



 お兄さんの言葉を遮る。

 不服そうにお兄さんは僕の顔を見て、僕はお爺さんに聞いた。


 できれば、間違っていて欲しいけれど。



「お爺さんは、その…まさか…?」

「…ほほ。流石に気付いたようじゃな」



 お爺さんは笑いながら顎髭を触る。


 お爺さんの反応に、僕は息を吐いて小さく笑った。

 まさか本当に酒場に居るとは…!



「…どうした?」



 お兄さんは、まだわかっていない様子。


 ミルクを飲み干して、それまで床でくつろいでいたクロがテーブルの上に乗った。その直後、お爺さんは僕たちに自分の名前を口にする。



「そうじゃよ、ケアテイカー殿。わしがおぬしたちの捜している神様じゃ」



 酒場は相変わらずざわざわと騒がしい。



 神様じゃ。と、自己紹介をして数秒。その言葉を聞いた僕は頭を抱えて、お兄さんは再び目を見開いて勢いよく席を立った。







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