表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
線の上の冒険者  作者: aki.
11日間の試練編
3/94

第1話「11日」

 






 11日。


 それが今、僕に与えられている時間だ。



 この国に迷いこんだ人たちも同じ。

 迷いこまなくてもこの国に住む人は年齢や性別、その他関係なく1年に1度"11日"という時間が設けられ、各々に与えられた試練をクリアしなければ最終日に死神に魂を刈られて死んでしまう。


 それがこの国のルール。

 絶対的義務とでも言った方がいいかもしれない。

 逃げる事も出来るだろうけれど、もしそんな事をしたら魂を刈られるよりももっと恐ろしい事がその身に降り掛かるらしい。



 "11日間の試練"。

 僕は、とんでもない時期にこの国へ来てしまったらしい。





 +






「…お前さんも災難だったねぇ。こんな時にこの国に降り立つなんて」



 雨宿りの際、隣に立っていたお婆さんに言われた。

 ザアザア降りの雨の中、雨宿り先として入った雑貨屋。色々な物が売っていてこんな時じゃなかったらゆっくりと吟味したいところだ。


 ベッタリと肌に張り付いたシャツが気持ち悪い。




「…お婆さんも、11日間の試練を?」

「ああ。…私はこれで35回目さね」



 足元の黒猫(名前はクロ)が身体をふるふると震わせて水滴を落とす。店内に水溜まりが出来て、それに気付いた店員さんがタオルを持ってきてくれた。


 濡れたフード付きマントを脱いで、濡れた茶色の髪の毛と服をタオルで拭く。雨水でビショビショのマントは、後で洗濯して乾かそう。




「あの、…僕、この国に来てまだ日が浅いからよくわからないんですが、…11日間の試練って一体何なんですか?」

「11日間の試練、というのは…この国に古くから行われている"神様の選別"だよ」

「選別?」

「神様自らがこの国に降り立ち、この国の住民を視て、そして個人の生き死にを決めるのさ。11日、というのは選別の時間なんじゃよ」



 雨はまだ止みそうにない。


 そのあともお婆さんは話を続けて、僕にこの国の事と"11日間の試練"の事をわかりやすく教えてくれた。




 +



[…、はぁ。11日かぁ。えらい立ち往生だなぁ]



 時間が経ち、お婆さんは迎えにきた旦那さんと一緒に店を出ていった。

 旦那さんは、雨が降り始めたというのに一向に帰ってこないお婆さんを心配して捜しに来てくれたらしい。


 なんて良い旦那さんなんだ。



 そして帰り際、お婆さんが僕を見て言った。



 頑張って。と。優しい口調で。




 11日間の試練。

 試練というのは、人によって内容が違うらしい。

 今回のお婆さんの試練は"りんごを食べる"のようだった。




「うーん、しょうがないよ。来ちゃったものは諦めるしかない」



 足元で喋ったクロに、僕はまだまだ止みそうにない雨をじっと眺めながら応える。ぴょん、とまだ若干濡れた身体で僕の肩まで飛んで、クロは大きく欠伸をした。



[相変わらずだなぁ。もうちょっと慌てたらどうなの?]

「慌てたって状況は変わらないでしょ。…11日の辛抱だよ」

[11日。11日あったらどれだけの事が捗ると思ってんだよ。ケアテイカーの仕事は1日でも無駄にしちゃいけないんだから、11日も過ぎたら]

「うー、耳元で仕事の話はしないでよ。休暇だと思えばいいんじゃない」

[休暇って…]

「まぁ、この国を出るためには嫌でも11日過ごさなきゃいけないんだから、うだうだ言っても仕方ないよ」



 言いながら、クロの顎に触れる。


 顎に触られるのが好きらしく、ゴロゴロと喉を鳴らして"やめろ"と言いながらも顔は崩れてにやけていた。気持ち良さそうで何より。




「それにしても、この国には神様が居るんだね。ビックリだよ」

[…ちょっと、本気で言ってんの?神様なんて居るわけないのはお前が一番よく知ってるだろ]

「それはそうだけど、…ならこの国に伝わってる神様ってのは何なの?」

[さぁね。どうせその手の類が大好きな奴が勝手に作ったんだろうよ]

「………うーん」




 言葉を聞いて、顎に手を添える。


 お婆さんの話だと、"11日間の試練"はこの国で長い間続いている伝統みたいなものらしい。1年に1度だけ行われ、何人もの住民が試練をこなせずに死神によって魂を刈られている。


 この国に降り立った瞬間、僕に与えられた試練は"神様に逢う"だった。でも、この世に神様なんてものは存在しない。もちろん死神も。


 それはわかってる。

 わかってるからこそ、驚いてるんだ。この国には神様が居るんだって。純粋に驚いている。


 もし本当にこの国に神様が居るんなら、試練を理由に逢ってみたいな。なんで試練なんてものをやっているのか。とか、なんで僕の試練を"神様に逢う"なんてものにしたのか。





「…あ、雨止んだみたいだ。やっと宿に帰れる」



 気が付くと、人口太陽の光が地面を照らしていた。


 ぴょん。と再び足元に降りて、クロが猫らしい鳴き声を上げる。

 それを見て、僕は口元を緩ませた。



[そんじゃ、さっさと行こうぜ。宿に帰って、これからの事を考えないとな]



 そう言って、先にさっさと店を出ていくクロ。


 僕は店員さんに雨宿りさせてくれたお礼を言って、店内で小物を1つ買ってからクロの後に続いた。





 この日から、僕の忘れられない11日間が始まる。







ここまで読んでいただいてありがとうございます!


読んでみて「良かったよ」と思っていただけたら、下にあります☆マークをポチッと押してくださいませ。


☆が集まれば集まる程、執筆意欲が増して嬉しさも倍増します!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ