紀州の追跡者~juvenile~
おや?
妙な物好きもいたものだ。俺の戯言、くだらぬ思い出話を聞きに来るとは
まあ、いい
記憶の容量は限られている
全てを忘れてしまう前に。虚空の彼方に記憶を捨ててしまう前に
時は来たようだ。語ろうか、俺の罪、そして血と憎悪にまみれたその記憶を
最初の記憶は幼少期、保育園のトイレの中。
口の中いっぱいに広がる鉄の味
そして目の前で絶叫する保育士の姿
彼女が綺麗だったとか、どんな容姿だったとかはもはや覚えちゃあいないが、俺の噴出した鼻血でその保育士さんは血塗れになっていたことだけが鮮明に記憶に残っている
なぜ俺がトイレで大量の鼻血を噴出したのかは今でも分からない。すまないな。だって記憶なんてそんなもんだろう?
次に思い出すのは公民館のトイレ、おっと‥‥またトイレだな
汚い話で申し訳ない。
これも幼少期。目の前には顔を真っ青にした祖母が俺に必死に手を伸ばしていた
その手の先にいる俺は、トイレの洗面台に登り白いブリーフ一枚で踊り狂っていた
後から祖母に聞いたのだが、不思議なことにその洗面台は、子どもの俺が登れる高さでは無かったらしく、なぜ俺がそこにいたのかも不明であり、必死の想いで祖母が俺を洗面台から降ろしても俺は一心不乱に踊り狂っていたそうだ。まあ子どもの頃なんて誰でもこんな奇行はするもんだろう。
記憶の容量は限られている
本題に入ろう。そうあれはよく晴れた日、何を思ったかデッキブラシを真上に放り投げ、取り損ねて頭に直撃し、流血した俺の目の前に現れた女の子
それが「かよちゃん」だった
「大丈夫?」と言いながら汚いものを見るかのようにハンカチを差し出してくれた。
あの蔑んだ目。まだ小さいのによくあんな目を人に向けることができたもんだ。
おっと、邪魔が入った。悪いが今日はここまでだ。
この続きはまた今度にしよう