冷めた星
いよいよ。故郷の星を離れる日は予報通りの快晴だった。
マントルが止まりはや3世紀。我々人類には地熱のない枯れた星に留まる理由がなかった。
二度と吸えない地球の空気を吸い込んで、ホテルから宙港に向かうバスに乗る。バスに揺られながらこの星の思い出を振り返り時間をつぶす。
少年期。特筆すべきことはない。次。
青年期。そこそこの勉強でそこそこの教養を身に着け、そこそこの運動でそこそこの身体機能を身に着けた。次。
壮年期。趣味の楽器を始める。文字通り明け暮れた。楽しみがわかってきたところで例のニュースが飛び込んできた。それから世論に流されるまま冷凍睡眠の契約を結び、楽器とともに眠った。急ごしらえのホテルには楽器を置いておく場所がほかになかったからだ。そして3世紀経った今日、42年ぶりという晴天の中音の出ない楽器を持って、
着いた。手をかざし手続きを済ませる。しかしどうやら楽器は持っていけないようだ。正確に言うと追加料金を払えない。しばし楽器を見つめる。もちろん楽器は何も言わない。
これを捨てるのか。まあ仕方がない。また次のを買えばいいか。所詮はものだ。追加料金より安く次の星で買えるだろう。ゴミ箱に入れるには少し大きいからどこかへ捨てないと。そうだ、バス停の近くのガラクタの山へ捨てよう。
そして私はガラクタの山へ楽器を思いきり投げた。
どこかで楽器が鳴った気がした。






