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後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりを受けて我が家が没落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜  作者: さくたろう/「悪女矯正計画」1&2巻発売中
第2部 第1章 今、蘇る、地獄のサバイバル

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その聖女、怪しいですわ!

 ロスは愕然とした。

 傍らの男へ感じていたごくわずかな信頼は完全に砕け散る。


「……アーサー。迎えと言うのはその娘のことか?」

「お前を見習って、俺も少しだけずる賢くなってみたんだ」


 案内された先には、あろうことか今一番会いたくない相手シャルロッテが、廊下の一角に置かれたソファーで、軍人の見張りの下ではあるものの、悠々と座っている。


 一晩中狭く暗く冷たい部屋に閉じ込められていたロスとはえらい違いだ。

 まだこちらに気がついていない彼女を見つめ、アーサーは苦笑した。


「なぜお前と一緒にいようとするか、一向に口を割らない。お前にじゃないと話さないと言っているんだ。聞き出せたら、帰っていいぞ」 

「断る」


 エリザベス・ベス中尉に精神をすり減らされていた方が幾分かましというものだ。

 きびすを返そうとしたが、あえなく見つかってしまう。

 

「ロスさん!」


 弾む声。

 シャルロッテは立ち上がり、ロスに飛びつこうとする。

 躱すが、彼女の笑みは崩れない。


「会いに来てくれるって、分かっていました」

「俺はまるで分からなかった」

「やっぱりわたしたち、運命の糸で繋がっているんですね!」


 ロスは思わず身震いをした。彼女の性格を良くは知らなかったが、どうやら最も苦手とする部類の女のようだ。そんな糸、いち早く断ち切ってしまいたい。

 

「なぜ君が、俺に固執するのか知りたい奴がいる。双方の身の潔白のためにも、真実を話してくれ」


 シャルロッテは不思議そうな顔をした。


「あなたを愛しているから」


 まるでそれ以外の理由はないとでもいいたげだ。だが、ロスは信じてはいなかった。


「会ったのは過去に一度だけだ。熱烈に愛される覚えはない」

「誰よりもあなたを知っているのはわたしです」


 まるで暖簾に腕押しだ。無駄骨だったかと、アーサーがため息をつく音が聞こえた。だがシャルロッテは気にしていない。


「どんなあなたでもわたしは受け入れます」


 ロスは眉を顰める。


()()()()を知ってるって言うんだ?」

「あなたの一番深いところに触れて分かりました。感じた罪悪。強い後悔。深い情念。

 そう、例えば()()()()さんの……」


 どくり、と心臓が脈打った。


 未だ、治らない傷のように、膿んだ過去。遠い昔に過ぎ去った彼女。陰りのある笑顔。ロスを呼ぶ声。細い指先。窓辺に立つ、儚げな後ろ姿。もうこの世界にいない人間。死に際さえ会えなかった。


 見上げるシャルロッテの瞳が、和やかに細まる。

 反対に、ロスは反吐が出そうだった。


「なぜ君が彼女を知っているんだ」


 シャルロッテは笑う。 


「だって、わたしは“聖女”ですもの。なんだって分かります。魔法が使えるんだもの」

 

 こみ上げる胃液を寸前で押しとどめる。


 別に、おかしな話ではない。

 あの晩、ロスが酩酊状態だったとして、本当に一晩一緒にいたのであれば、限りなく可能性は低いが、酔いに任せてオリビアの話をしたのかもしれない。偶然知った情報を、さも全て知っているかのように話すのは、詐欺師の常套手段だ。


「君は聖女じゃない。魔法なんてものは、この世に存在しない」


 あの血の海の中からこの娘を救い出したのは、普通の少女として、平凡な日常を過ごせればいいと、そう思ったからだ。ありもしない虚像の中で、生きて欲しかったからではない。

 だがロスの独善的な願いは、彼女には少しも通じはしなかった。


 目の前の少女は、今も自分が聖女であり、おかしな魔法が使えると信じ込んでいるらしい。


 早々に会話を切り上げようと、本意では無いが軍に加担してやる。

 

「なぜ君が俺といるのか、ブルース中尉が知りたいそうだ」

「あなたを愛しているからです」


 同じ質問に、同じ答え。


 どうやら話す気はないようだ。

 無駄な質問を重ねては意味がない。ならば、と他のことを尋ねた。

 

「シャルロッテ。君の靴のサイズはいくつだ?」

「……へ?」

 

 突然の話題の転換に、シャルロッテの笑みが崩れる。


「靴のサイズを聞いている」

「さ、36ですけど……」

「42の靴を履く女をどう思う?」

「どう、って……?」


 こいつは何を言っているんだとでも言いたげに、シャルロッテの目が丸くなる。

 答えたのはアーサーだった。


「大抵の女性は36から38だろうな。42は相当でかい女だぞ。めったにいない」

「ああ」

「……お前は何を確認している?」

「下手人だ」


 シャルロッテの瞳は動揺する。存外、顔に出やすいらしい。


 ヴェロニカが行方不明になった地点には、女物の靴跡が残されていた。だが彼女の靴とは種類が違う。

 馬屋にもヴェロニカの靴跡にまじり、そいつの気配がした。


 奇妙な点は、地面のへこみや歩幅、何より大きさからして、どう考えても――。

 

「あの要塞めいた集落で、君は誰のために銃を撃った」


 初めは、いつかのヴェロニカのようにロスを助けに無茶をしたのだと思った。

 だが、どうにも腑に落ちない。あの射撃は、敵を撃つと言うよりも、音を出すためだけに行われたのではないか。事実銃口は、天を向いていた。


 シャルロッテがロスの後を付いてきた理由が、愛情ではないとするならば、答えは一つしか無い。


「俺に殺されては困る人間が、あの場にいたんだろう」


 襲撃に気がつかせるために銃を撃った。


 少女の表情が強張るが、逃がすものかと追い詰める。


「女物の靴を履き、女物の服を着た、だが若い男だ」


 鍛え抜かれた人間特有の歩き方をする者。

 追跡者をあえて誘い出すように、痕跡を残す周到さ。

 おそらくあの集団のリーダー格だ。


 側で聞いていたアーサーが息を呑む音が聞こえた。

 シャルロッテの瞳が揺れる。


 ロスは三度、同じ質問をした。

 

「なあシャルロッテ、真実を教えてくれ。君はなんのために俺の側にいる?」

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