表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりを受けて我が家が没落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜  作者: さくたろう/「悪女矯正計画」1&2巻発売中
第2部 第1章 今、蘇る、地獄のサバイバル

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

98/177

尋問ですわ!

 素直に従ったというのに、ロスはまったく不愉快な取り調べを、一晩中受けなくてはいけなかった。


 窓もない、中央に机だけある、灰色の壁の狭い個室。


 時間の感覚さえ曖昧だ。


 軍の所有物である建物の一室に、この取調室があるのは知っていた。口を割らない相手をじっくりと落とすために使用される場所だということも、もちろん把握していた。

 だが自分で使ったことはない。

 “仕事”は多くの場合、速攻即断であり、畏まった取り調べとは無縁だったからだ。


「話すべきことは全て話した。いい加減外に出してくれ」


 尊大な態度に苛立ったのか、目前の女はピクリと眉を動かした。


「だったらいい加減、本当のことを言え。貴様は家出した妻をかいがいしく探すような、血の通った人間ではないはずだ。金目当ての婿養子だろう」

「お前は俺をどう見てるんだよ」


 対面するのは、捕らえられた時にいたアーサー・ブルースではなく、かつて一時、軍に戻ったときの上司であった、エリザベス・ベスという名の女だ。


「かつて鬼と恐れられた男が、一人の女に執着するとは、あまり見たくない光景だ」

「妻に惚れてて何が悪い?」


 この女、歳はロスよりも下だったはずだ。

 階級はロスよりも随分と上だったが、軍を辞めた今、へりくだる理由はない。


「なあベス・ベス」

「ベス中尉と呼べ!」


 背の高い彼女は、立ったまま机を叩く。一方のロスは座ったまま見上げた。


 一体、どこのベス家が娘にエリザベスという名をつけようとなどとち狂ったのだろう。ロスは彼女の名を呼ぶ度に愉快な心持ちになる。


 彼女にしても貴族の若い娘で、どう頭を打てば軍人になろうと思うのか、大概の人間は疑問に思っており、口には出さないものの、ロスもそのうちの一人だった。

  

「何の罪も犯していない一般人を正当な理由無く長時間監禁するのがベス中尉殿の役割か?」

「何の罪も無いだと? あの死体の山は貴様がやったことだろう」

「正当防衛だ」

「皆殺しがか? おかげで一人も取り調べができなかった」


 なるほどこれは八つ当たりだ。

 どうやらエリザベスの苛立ちは、あのきな臭い団体の捕獲ができなかったことらしい。


「反乱軍を、仕事も判断も動きも遅い軍に代わり始末してやった。礼を言われるならまだしも、文句を言われる筋合いはないな」


 エリザベスはわずかに目を細め着座し、何度も尋ねた質問を、また繰り返した。


「……あの少女と、なぜお前が一緒にいる?」


 言わずもがな、曰く付きの令嬢シャルロッテ・ウェリントンのことだ。


「あの娘に聞け。なんの恨みがあるのか知らないが、俺の後をつけてくる」

「捨て猫を手懐けたつもりかもしれないが、あれは化け猫だぞ」

「その猫は()()()()()()()()に預けたと思ったんだがな、一体なぜまた野生に戻ったんだ?」


 ち、とエリザベスは舌打ちをした。


「訳の分からぬ妄想ばかり繰り返し、正直言って手に余る。寛解を期待し修道院に預けたが、数日前に逃げ出したんだ。新たな生き方を与えたというのに、温かいブランケットの中じゃ“聖女様”はご不満だそうだよ」


 不機嫌な元上司に、ロスもまた、何度も答えた言葉を口にした。


「俺は反乱軍じゃない。国にも大義にも興味はない。あの娘が何者であろうと、俺は関知しない。

 どうせこの建物のどこかに、彼女も捕らえられているんだろう? 二度と関わるなと伝えてくれ」

 

 エリザベスの目が、探るように見つめる。


 彼女が探すのは、あるはずもない虚構だ。

 軍を辞めた男が反乱軍に加勢し、仲間割れを起こした。だが仲間は他にもいるはずだ。あんな王都に近い場所に、戦いの拠点を置くほどには、力のある勢力だ。……と、そう考えているに違いない。

 ――近頃目立った手柄を上げていない彼女は、反乱勢力の一網打尽を目論んでいるのだろう。


 野心はたいしたものだが、ロスの知ったことではない。


 と、ガチャリと部屋の扉が開く。


 廊下の窓から差し込む光が薄暗い部屋を照らし出し、ようやく今が、昼を回りそうな時分であると知った。


「ベス中尉。そろそろ変わろう」


 現れたのはアーサー・ブルースだ。エリザベスの表情はわずかに軟化したが、口調は厳しいまま、アーサーをも問いただした。


「ブルース中尉。あなたはこの男の所在を常に掴んでいたはずだ。トモーロスが語ることは真実か? まるでまっとうな人間のフリをしている」


 アーサーは困惑気味に、引きつった笑みを浮かべた。


「彼はまっとうな人間さ」

「牢にぶち込んでおけばいい、こんな男は」

「脱獄されては今度こそ軍の責任になる。また軍人を殺されるのはごめんだ」

「あれはシドニア・アルフォルトが買収した兵だ。売国奴が、幾人死のうと構わない」

「ベス中尉は手厳しいな」


 一年ほど前にロスがカルロを伴って王都から逃れる際、妨害してくる兵士を数人殺した覚えがある。二人はそれを言っているのだ。

 

 ようやくまともな話ができそうな相手が現れた。エリザベスが出て行くなり、ロスは尋ねた。


「ヴェロニカはいたのか?」

「いや。探しているが、見つからない」

  

 先ほどまでエリザベスが座っていた椅子に、アーサーは腰掛ける。


「本気で探さないと見つからんぞ。数日程度なら、森の中で潜伏できるスキルがあいつにはあるんだ」

「自分の妻になんてことを教えてるんだ?」


 ふと、アーサーは遠くを見つめるように壁をじっと見つめ、


「――初めて会ったのも森だったな」


 次にロスの顔を見て穏やかに微笑んだ。


「あの頃世界は広かったが。いつのまにか、窮屈になったものだ」

「初めから、さほど広くはないさ」

「あの時交わした約束を覚えているか」

「……さあ。忘れちまったな」

「お前はあの時」

「アーサー」


 言いかけた彼の言葉を、ロスは遮った。


「俺は思い出話をさせられるためにここにいるのか? 昨日から何も食べてない。吐くゲロさえないのに、何を出せと言うんだ」


 アーサーはずい、と顔を近づけ、見張りの兵に聞こえないように声を低くした。


「シャルロッテ・ウェリントンについてだ」


 ため息が出そうになる。やはり、あの少女と再び関わるべきではなかった。アーサーは体勢を戻す。


「俺としては、あの娘が生きていることにまず驚いたが……。ベス中尉とお前との間で一体どんな密約が交わされた?」

「今までの仕事に対する、ちょっとしたご褒美だ」 

「しかし、気がつかなかったな。一昨日の晩、声をかけてきたのが例の“聖女”だったとは。雰囲気が大分違った。あれではただの町娘と相違ない」


 思い出したようにアーサーは笑う。


「お前はあの晩、ひどく酔っていたな。覚えているか?」

「……忘れちまった」


 その忘却は本当だった。

 濃い霧の向こう側にあるかのように、思い出せない。


「あの娘が声をかけてきて、お前は席を立ち上がり、そして戻っては来なかった。俺が知るのはそこまでだ。二人分の支払いを済ませ、一人寂しく帰ったよ」


 アーサーがそう言ったとき、伝達の兵が部屋に入ってきた。


 兵が耳打ちをすると、アーサーの切れ長の目が見開かれ、わずかに緩んだ口元と共に、ロスに向けられる。


「おいロス。迎えだ。出ていいぞ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ