サバイバル開始ですわ!
「ロス。こんなところで会うとは奇遇だな」
まるで旅先で、偶然知り合いに会った時のような暢気な表情を、アーサー・ブルースは浮かべた。
階級は中尉。
ロスが暗部にいた頃、最もこき使った人間の一人だ。
普通であれば、ロスはこの男を好かなかっただろう。
だがまだ一般兵の頃、幾度も共に死線を乗り越えてきた。同じ釜の飯を食らった中、性格は互いに知り尽くしていた。ミーア・グルーニャと名乗っていた少女の取り調べを、共に行った相手でもあり、義理堅さ故か、ロスが軍に残れるよう上層部を言いくるめ、尽力した人間でもあった。
身分が違いすぎる故、友人だと言い切ることには抵抗があったが、それでもヴェロニカに「数少ない友人の一人」と伝えたのは、他に適切な言葉が見つからなかったためだ。
アーサーはロスと、そして小屋からおずおずと出てきたシャルロッテを交互に見つめた。
「昨晩一緒に消えた相手と、薄暗い小屋の中で何をしていた? お熱いことだ」
――こいつは俺が、死体の山の中で逢瀬をするとでも思ってやがるのか。
あらゆる回答を考えた後、ロスは言った。
「……散歩だ」
「ここは国賊の拠点だ。散歩にしては趣味が悪いな」
やはり反乱勢力の一味であったらしい。兵士たちは、この拠点を一網打尽にする気だったのか。
予期せずとして、ロスはそれを皆殺しにした。それもひとりの女のせいで。
真実であるが、言い訳としか思えない、端から見れば信じがたい阿呆のような理由だ。
最悪の想定が頭を巡る。
もしやアーサーはロスが反乱を企てたうちの一人と考えているのではないか。加えて、このシャルロッテと一緒にいるのもまずい。
裏付けるように、彼は言う。
「状況からしてお前を逮捕しなくては。大人しく従うよな?」
(従ってたまるか)
内心そう毒づきながらもロスは言った。
「白状すると森の中に妻がいる。喧嘩をして、逃げ出したのを探しに来たんだ。見つけ出すまでは、帰れない」
そのためにわざわざこんな労力を注ぎ込んでいるのだ。
「……あの人が?」
ヴェロニカは、社交界では有名人だ。同じく貴族のアーサーも、当然彼女を知っている。
アーサーは驚いたように目を丸くしたが、頑なにも首を横に振る。
「だがどこにも行かせる訳にはいかない。お前が嘘つきだということを、俺は散々知っているからな。おい」
アーサーは兵の数人を呼び寄せる。
「クオーレツィオーネ夫人が森にいるらしい。探して、保護をしろ」
これで問題あるまい、とでも言うようにロスに向かいアーサーは肩をすくめて見せた。
*
集落の裏口らしき場所からヴェロニカとミシェルが外に出てすぐ、国軍が集落内に入っていくのが見えた。
あと少しで見つかるところ、間一髪だ。ヴェロニカは胸をなで下ろした。
「さすが我が国の軍隊ね、あのならず者の男たちを捕まえに来たんだわ」
……一歩遅かったようだが。ならず者は皆死んだ。
ヴェロニカは、ロスとシャルロッテが兵士たちに捕らえられる姿を、木に隠れながら遠巻きに見つめていた。
心配はしていなかった。
理由を話せばすぐに釈放されるだろう。
それにロスは、軍に知り合いが多い。まさか牢にぶち込まれはしないだろう。
隣にいる少女に声をかける。
「あなたは帰っていいのよ」
兵士のところに行けば保護してもらえる。
しかし彼女は首を横に振る。
「面白そうだから、一緒にいるわ。あたしの無断外泊はしょっちゅうだから、家の人も心配しないし」
さっきまで誘拐されてたというのに、ミシェルはもうカラカラと笑う。つられてヴェロニカも笑った。
「見た目と違ってファンキーなのね、あなたって」
明るく楽しい道連れは心強いものだ。
「だけどヴェロニカさん、旦那さんが心配じゃないの?」
「心配なのはアルテミスよ」
だが先ほどのロスの様子からして、アルテミスは無事なのではないかと思った。もしあの白い犬が亡き者にでもされたなら、あの男はもっと怒っているはずだ。
「数日くらい、帰らなくっても平気よ」
ロスにはメッセージを残した。
どんな反応をするかこの目で確かめられないのが残念だが、ヴェロニカの無事は伝わったはずだ。父と妹にも、すぐ伝えられるだろう。
「だけど……どうやって生活する気なのよ?」
「そんなの決まってるじゃない?」
なおも訝しげな表情を浮かべるミシェルの問いに、ヴェロニカは微笑みを返した。
「――森の中で、サバイバルよ」




