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後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりを受けて我が家が没落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜  作者: さくたろう/「悪女矯正計画」1&2巻発売中
第2部 第1章 今、蘇る、地獄のサバイバル

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馬屋の匂いは強烈ですわ!

 浅黒い肌に描かれた、異国を思わせる入れ墨を、指でなぞるのが好きだった。

 背中に差し掛かった時、彼は言う。


 ――背中の傷は兵士の恥だ。


 ――わたしは好きよ。


 そう答えて、傷跡のひとつひとつに丁寧にキスをした。


 模様を遮るように付いた無数の銃痕は、彼がヴェロニカを命を懸けて守り抜いた証のように思えたからだ。



 *



「臭っ!」


 叫んだ自分の声で目を覚ました。獣の体臭と糞の匂いが立ちこめる。


「よかった。死んだのかと思った」


 声が聞こえ、ぎょっとしてそちらを見た。ヴェロニカが助けようとした少女が、ドレスの裾が土で汚れているのも気にせず、すぐ隣の地面の上に座り、じっと見つめていた。

 つややかな黒髪に、見かけによらずハスキーな声。着ている服は上等なもので、金持ちの娘のように見えた。


「あなた、無事?」

「……まあ、そう」


 少女は頷く。その声に、どこか聞き覚えがあるように思えたが、初対面のはずだった。

 こわばった表情を浮かべているが、怪我はないようだ。


「ここはどこなの? ……ひどい匂いだわ」


 言いながら、原因はすぐに分かった。四方を壁に囲まれた屋根のある小屋で、中に数頭の馬がいたからだ。


 どうやら馬屋にいるらしい。

 殴られた頭がズキリと痛む。


 立ち上がろうとしたところで、ようやく違和感に気がついた。体が動かないのだ。

 縄が体に食い込むほどにきつく、結ばれていた。


「嘘、もしかして縛られてる?」

「そうだね」


 縛られる心当たりはない。だが一つだけ思い浮かんだ。


「もしかして、わたしたち、誘拐されたの?」 

「……あんた、ここに来る前のこと、覚えてないの?」


 ふて腐れたように、彼女は話す。それが本来の性格なのか、こんな場面で気性が荒くなっているせいなのかは分からない。


 ヴェロニカは答える。


「覚えてるわ。あなたが男たちに取り囲まれてて、助けに入ったら、昏倒させられて……っていうか」


 また別の違和感に気付く。


「どうしてわたしだけ縛られてるの?」


 ヴェロニカの胴体は柱と結びつけられているが、側にいる少女の体は自由だ。


「さあ、暴れそうに見えたんじゃない?」

「なんてこと!」――むかつくわ!


 体をよじるが、簡単にはほどけそうにない。 


「馬屋ってことは分かったけど、一体どこの馬屋なのかしら」


 さあ、と少女は首を横に振る。


「……男たちに連れてこられた時、目隠しをされていたし。森の中ってことは間違いないと思うんだけど」


 話しながら落ち着いてきたのか、少女の口調も女性らしくなっていた。


「あたし、町で攫われたのよ。森に差し掛かったところで逃げようとしたけど捕まっちゃって。そこにあなたが現れたの」

「誘拐される理由に心当たりがある?」

「……家が商人をしていて、小金持ちだからかしら? 身代金目当てかもしれないわ」


 だとしたら、金を貰うまでは身の安全は保証されている。ヴェロニカにしてもすぐに殺されなかったのは、おそらく身なりからどこかの金持ちと思われ、同じく利用価値があると思われたためだろうと納得した。


「逃げ出すチャンスはきっとあるはずよ。待ちましょう」


 言うと少女の目が、わずかに開いた。


「あなたって、すごいのね」


 精神力に対してか、状況をすんなり飲み込んだためか、あるいは危機管理能力のない途方もない阿呆だと思われたのか。

 感心された意図を計りかねるが尋ねる前に言葉が続けられた。


「さっき見たけど、馬屋の外に見張りは二人。だけど周囲には、もっと大勢の男たちがいる。逃げ出すのは簡単じゃないわ」

「そうね。普通はそうよ」


 状況を悲観する少女を元気づけようとヴェロニカは言う。


「あなた、名前はなんておっしゃるの? わたしはヴェロニカ・クオーレツィオーネよ」

「あたしは、ミシェルよ。よろしくヴェロニカさん」

「心配しないでミシェルさん。夫なら、わたしがいないことに気がついたら、必ず助けに来るはずだから」


 言い切ると、ミシェルがクスリと微笑んだ。


「旦那さんを信頼しているのね」


 ヴェロニカも笑う。


「愛しているのよ」


 ロスが自分を探しに来ると、ヴェロニカは少しも疑ってはいなかった。

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