それからのことですわ!
【survival】生存。残存。困難な状況を越えて生き残ること。
ヴェロニカが全ての真相を知ったのは、婚約式が中止になった日から、数週間も経ってからだった。
なぜなら、一同は即座、入院させられたからだ。
まず最も軽傷だったのはヴェロニカとチェチーリアだった。山歩きと続いた戦闘で細かい傷がいくつもできており、また健康状態を調べるために数日の入院となったが、幸いにして元気そのものだった。
次に軽傷だったのはグレイだ。いつかオオカミに噛まれた傷の様子についても詳しく診られていた。チェチーリアが修道院で培ったという応急処置が適切だったため傷の治りが早く、また感染症の心配もなく、重症化はしなかったようだ。
チェチーリアのおかげだと病室を訪れた彼はやや照れくさそうに言った。
それよりも長く入院したのはヒューだ。監禁生活で神経は摩耗しており、ただでさえひょろりとした体はさらに痩せていた。
それでも若さ故か、めきめきと回復していき、ヴェロニカとチェチーリアが父のついでに見舞いに行くといつも上機嫌だった。話してみると驚くほど陽気な少年で、常に冗談を言っていた。酷い目に合わされたというのにけろりとしていて、それがヴェロニカには好ましかった。
誰よりも病院にいたのはカルロだった。
何週間にも及ぶ牢獄での暮らしで、父はすっかり消耗してしまっていた。が、それでも娘たちが見舞うと笑顔で対応していた。今まで会えなかった時間を埋めるように、一家は朝から晩まで話し続けた。
「おいで、私のスターダストたち」
見舞うと父はいつもそう言って娘達を抱き締めた。「もう子供じゃないのよ」とヴェロニカは言ったが、本心では久方の親子のひと時を喜んだ。
ヴェロニカが森での生活を話す間中、父は穏やかな笑顔で聞いてくれ、それにとても嬉しくなった。数年ぶりに、家族の温かな時間が戻ってきたのだ。
だが、いなくなってしまった者もいた。
ロス……彼は姿を消してしまった。最後に見たのはやはり婚約式の日で、以来行方も知れない。
彼は恐らく最も重症で、森での戦闘で受けた傷が癒えもしない間に受けた拷問により、かなりの深手を追っていたはずだ。ヴェロニカは彼が心配だったし、何より会いたかった。
ようやく知れたのは、見舞った際、意外にも王国の裏事情に詳しいヒューが教えてくれたからだ。
「ロスさんは、軍の病院に入ったみたいですよ。事情を聞かれたみたいですが、どういう手品を使ったのか、一切おとがめなし、のようです。それに、オレたちのことも、上手く説明してくれたみたいですね」
ヴェロニカは納得した。それで誰も此度の事情を聞きに来ないらしい。普通であれば、一切の真実を明らかにするため、調査する誰かが来てもおかしくないはずだ。
「すごい人ですよ。どうして我が国が異国人を重用しているのかずっと謎でしたが、会って分かりました。絶対に信頼を裏切らない、と思わせてくれる妙な魅力のある人ですね。魔神のように強いし」
ヒューの心からの称賛が、印象的だった。
*
ヴェロニカが遂にロスを捕まえたのは、父が退院して数日後だった。ひょっこりと彼が屋敷に訪れたのだ。
「見舞いだ」
とぶっきらぼうに差し出された菓子を受け取るや否や詰め寄った。
「どこ行っていたのよ!」
「俺がどこに行ってたか、知る必要があるのか?」
あまりの冷たい返答にあっけにとられながらも、ヴェロニカは言う。
「あるわよ! 恋人なんだから」
「ちょっと待て」
ロスが目を見張る。
「恋人だって? いつそうなった」
「はあ!? キスを何度もしておいて、今更他人のつもりなの!?」
嘘でしょ、信じられない、とヴェロニカは怒りを露わにする。
「お前は俺で――」
ロスは何かを言いかけて、言葉を飲み込んだ。
玄関先での言い合いに、何が起きたのかとカルロとチェチーリアが顔を出し、ロスに気づくと交互に挨拶したからだ。
「やあロス君、久しぶりだね。心配していたんだよ。どこに行っていたんだい?」
「ロスさん、こんにちは。退院したと聞きましたが、今までどこにいらしたんですの?」
お節介なクオーレツィオーネ一家。
これにはロスも閉口したようだ。諦めたようなため息を一つ吐くと答えた。
「一応は、俺も軍人だからな。職務を全うせよとの上からのご命令で、今回の件の始末に追われていたんだ」
「おとがめなしだったんでしょ?」
「まさか! 最悪なことに、財産のほとんどを没収された。残ったのはアルテミスくらいだ」
「賄賂ってこと? それで黙らせたのね?」
「そうとも言う。ともかく、片付けはあらかた終わった」
「じゃあ、ケリがついたのかい」
ロスが姿を見せたということは、それらの仕事が終わったということだ。
カルロが尋ねると、ロスは頷いた。
「ああ。全貌が知れた」
「じゃあ、中に入れば?」
少し伸びた髪の先を指でいじり、目を合わせないまま促すヴェロニカの言葉に、ロスは首を横に振る。
「あいにく、まだゴタゴタが残っててな。ゆっくり寄る時間はない。ここで話して帰るつもりだ」
三人の顔だけ見てすぐ帰るつもりだったらしい。なんとも素っ気ない。
ヴェロニカはつまらない気持ちになった。本当に久しぶりに会えたのだ。話したいことは山のようにあった。
「じゃ、来週よ! 我が家で快気祝いをするからあなたも来なさい」
命令するように告げ、少し考えてから付け足した。
「そこで決着よ」
困惑する彼だが、本当に時間がなかったのか頷く。
「分かった」
去って行くロスの後ろ姿を見ながら疑問を感じたのか、チェチーリアが不思議そうに尋ねてきた。
「なんの決着ですの?」
妹の大きな目を見つめながら、ヴェロニカは微笑んだ。
「さて。わたしたちのエンディングがハッピーかバッドを迎えるか、についてかしらね?」




