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ばくやく令嬢しか勝たん  作者: 御堂 騎士
第5章 食事は貧相で不自由だけど、ちょっとうれしい森での共同生活
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99.爆薬を着た悪魔

 国境守備隊の兵士たちが浮足立っている。


 ノルド公からは、見張り台群が目に見えるレベルで壊された場合は、前線を巨人の軍に任せて撤退するように、指令を受けている。


 現状は、目に見えるなどと言うレベルでは無い。

 バベルの塔から国境側を見て、左半分、西側に配置された数百もある見張り台が一つ残らず崩壊してしまったのだ。


 巨人たちにバレないように撤退準備をしながら、ノルド公に向けて報告の早馬を出した。




 各部隊の隊長に、作戦コードE(エスケープ=離脱)の秘密指令が下った。


 巨人たちに気取られないように、どうやって前線から引くか、それが当面の課題だ。

 当然国境の向こうの敵に撤退を知られるのが、最悪パターンだ。


 ノルド公国の者はみな、どうやって逃げるか、いつ逃げるかで頭が一杯だった。




 そんな時、崩壊を逃れた見張り台の一つの屋根の上に設置された、魔法の拡声器スピーカーから、大音響のキャサリンの声が鳴り響いた。


「ガッガガー

 みっなさーん。今すぐここから逃げて下さいねー!

 これからこの一帯は、大爆発に巻き込まれて、不毛の地になりまーす!

 もう一度言いまーす!

 今すぐ、ここから逃げてくださーい!」




 規律を重んじる軍隊である。

 表向きは平静を保っているが、キャサリンのアナウンスの後、みるみる兵士たちが減っていくのが見て取れた。


 各部隊の隊長たちも、撤退に好都合なので見て見ぬ振りをしたため、本当に公国軍の兵士たちは、まばらにしかいない状態になった。




 巨人の王が、バベルの塔の最上階から下の様子を見ながら苦々しげに言い放った。

「この腰抜けどもめが!

 小人たちは、最後まで戦う気概を見せんのか?」


「小人たちは、体が小さいだけではなく、肝も勇気も小さいのでしょうな。

 ハッハッハ」


 しかし、彼らが鎮座するバベルの塔と並んで帝国軍数万の軍勢を国境線に釘付けにした要塞を、一瞬で壊滅した敵だ。


 彼らが心の底では頼りにしていた防衛線は、瓦礫がれきの渦に姿を変えていた。


 側近の一人が発言する。

「あれを吹っ飛ばしたのは、ばくやく令嬢とか言うらしいですな。

 人質として『黄色い熊』が連れてきた、あのいたいけな少女でしょう」


「うむ。余の威光の前に、委縮いしゅくしておった姿が思い出されるわい」


 ばくやく令嬢を舐め切っている王の態度に、もう一人の側近が苦言を呈する。

「あまり油断は召されぬよう、お願いいたします。

 ばくやく令嬢は、人の皮をかぶった悪魔だと兵士たちは噂しておりました。

 見かけに騙されないようにお願いします」


「あの子供の見かけは、偽りだと申すのだな?」


「はい。あのゆっくりと一つ一つ確実に見張り台を爆破していく様子を、ご覧になったでしょう。

 正々堂々と闘う我らのような武人には、あのようなやり方は想像も出来ません」


「あの娘は、見せつけるために何百という見張り台を、わざわざあんなにゆっくりと破壊していったというのか?」


「正直言って、信じられないような悪魔の所業です。

 さらに奴は、自分たちを食おうとした巨人の王をバラバラにして、逆に食らってやると豪語しているとのことです」




 王の頭の中に、幼いころ聞いた母の言葉がよみがえってきた。

「王子、将来南の国の人間たちと関係を持つことがあるかも知れません。

 その時は、くれぐれも油断しないようになさい。

 奴らは、こちら側を向いている時は恐れたような顔をしていても、向こうを向いている時は、油断させたとほくそ笑んでいるような者たちなのです」


 まさに、ばくやく令嬢は王の前では恐れたような顔をしていた。

 だが、わずか数週間後には、数万の軍勢が攻めあぐねるような要衝の守備の要を、完膚かんぷなきまでに叩き潰して見せた。


 そんな本物の悪魔が、自分たちをバラバラに吹っ飛ばして食ってやると言っている。

 背筋にヒンヤリと寒いものを感じた。




 王は、膝がガクガクと震えそうになった。

 立っていては、まずい。

 動揺をごまかすために、話をしながら椅子の方に歩き、優雅に座って見せた。


「余らを食らうとは、笑止千万。

 何やら龍人の子供も合流して、人数が増えておるらしいでは無いか。

 歯向かってくる小人を黙らせて、逆に食らってやれば、ノルドの奴らも落ち着くだろう」


「さすがは、我らが王です。

 見張り台の崩壊で、国境の向こう側に偵察隊が出てきています。

 まず奴らをらしめて、思い知らせてやりましょう」

 そう言うと側近の一人が、ダイナマイトの束をつかんで、かがり火の火を移して投げる。

 放物線上に飛んで行くダイナマイトの束が、落下方向に軌道を変える瞬間、パッと消える。


 続きの軌道は、帝国の偵察部隊の頭上で描かれた。


 ドッカーーンッ


 大爆発で偵察部隊は大きな被害を受けた様子で、後続の部隊はやって来なかった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 キャサリンたちは、以前捕らわれていた地下の収容所にいた。


「ほんっとうに、失礼しちゃいますわ」

 キャサリンが、プンプン怒っている。


「まあまあ、作戦が上手くいっているんだから良いじゃないか」

 エドワードが、なだめる。


「私の目覚まし時計が、あんなに大きな声を出せる物だったとは驚きました」

 ソフィアが、感心している。


 目覚まし時計の音を出す部分は使用したが、残った時計部分を調整しながら、キャサリンが愚痴をこぼす。

「障害物は木端ミジンコって言うのは、昔言った覚えがありますが、障害物は人であろうとも吹っ飛ばすとかまでは、言った覚えはありませんわ。

 さらに言うに事欠いて、人の皮をかぶった悪魔だとか、いくら何でも酷いと思いませんこと?」


 見張り台にいた兵士たちはふん縛って、近くの森に転がしておいた。

 崩壊の派手な見た目と違って、死者はほとんど出ていないと思われる。


 死者の発生をいとわなければ、ソフィアやエドワードの弓の腕前で、隣どころか先の見張り台の兵士も射ってしまえば、一晩のうちに半分ではなく全ての見張り台を制圧できただろう。


 ただ、これ程の混乱の中で、そのようなことが伝わるはずもなかった。




「しかし、お嬢さまの恐ろしい『うわさ話』のお陰で、随分と迅速に避難が進んだでは無いですか。

 今後の被害が少なくなることで、悪い噂も上書きされていきますよ」


 ソフィアが優しく言うが、キャサリンは納得いかないようだ。

「大体、巨人の王たちを私たちが食べちゃうって、どうやったらそんなデマが生まれてくるのよ。

 あんなモノ、食べたいとは全く思わないわ。

 アイリーンの可愛いほっぺたなら、食べたいと思わないことも無いですが」


「妹のほっぺを食べたいのか?」

 エドワードが、イタズラっぽく少し焦ったように聞く。


「本当に食べたいわけないでしょ!

 例えですよ。

 巨人の下らない肉なんかより、ああ、クララの作るスイーツが食べたいですわ」


 あのカスタードクリームのほんのりした甘さや、生クリームのくちどけの爽やかさ。

 思い出すだけで、唾液が口の中にあふれてきた。


次回更新は、木曜日の予定です。


97.での爆破予告で、少しPVが増えたのは面白かったです。


読者の皆さまに一本取られた感じです。

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