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ばくやく令嬢しか勝たん  作者: 御堂 騎士
第5章 食事は貧相で不自由だけど、ちょっとうれしい森での共同生活
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98.神の鉄槌

 巨人の王キムパーク・オルセン。

 彼が少し足りない朝食を取り終わったころに、東の空が薄明るくなってきた。

 日の出が近い。


 ノルド公国は帝国の北側にあるので、少し寒い。


 だが、巨人たちが現在住んでいるボルケーノランドは、寒いなんてものでは無い。

 夏でも、地面が凍っていた。

 火山の近くにしか住めない気候だ。




 王である彼を最前線に引っ張り出されることに、最初は怒りを感じていたが、夏になって日の出前から温かい気候で暮らせることに少し満足している部分もある。


「ここは、本来我々の土地だったんだよな?」

 側近の一人に声を出して聞く。


「はい、もちろんです。

 少なくとも、この場所は死守したいものです」




 バベルの塔は、高さ10メートルを超える5角形の台座の上に建っている。

 朝食を済ませた王たち3人は、この台座の上から国境の方を見降ろしながら、万能感に浸っていた。


「壮観ですね」

 一人の側近がつぶやく。


 木の柵は高さ3メートルほどの簡単な作りで、大きめの巨人だとまたいで越していくことが出来る。


 粗末な作りではあるが、長さは数十キロにもおよび、最低限の国境防衛を可能にしている。




 その陰に弓を持った巨人たちが待機しているのが見える。

 3メートルの高さの柵は、座れば体を隠すには十分なものだ。


 木の柵から数十メートル離れた所に、規則正しく高さ10メートルの見張り台が整然と並んでいる。

 石の城壁に比べて木の柵では防衛力が弱いように思えたが、この無数の見張り台があることで、戦闘能力は段違いに上がっている。


 見張り台には数名の弓兵と管理者1名が配置されているが、屋根がついているので、高い所からは見えなかった。




「ノルド公の奴、最初は食えんやつかとおもったが、我らの地を守るためにこれ程の防衛線を引くのじゃから、まあ可愛いものよの」


「王の威厳に、打たれたのでしょう。

 帝国をやっつけた暁には、それなりの褒美ほうびをくれてやってはいかがでしょうか」


「うむ、それもそうじゃな」

 王は満足そうに答えて、円柱状の塔を見上げた。


「それもこれも、我らが築いたこのバベルの塔あってこそですがね」

 側近の一人が自慢げに言う。


 彼の親族が設計した塔だ。

 怪力の巨人たちが巨石を運んで、1週間で土台を作り、円塔の石積みの部分はもう一週間で完成させた。


 そこから上の居住区や展望台部分は木で出来ていて、ノルド公国の工兵隊が作ったものを塔の上に載せていた。


 展望台に行く階段も梯子も無いので、側近の一人が使える瞬間移動テレポートでしか出入りできない構造だった。






 それは、王たちが瞬間移動テレポートで搭最上階の展望台に着いた直後の出来事だった。



 パン、パパーン


 日の出に合わせて、乾いた爆発音が何発か響いた。


 バベルの塔の正面にある、見張り台の土台の支柱が一つ、この小爆発で外れて落ちていった。


 ドスーン


 落下音が辺りに響く。


 見張り台は、スローモーションのようにゆっくり倒れていく。


 失った支柱の側に倒れたこともあるが、ロープで誘導されるように隣の見張り台に激しくぶつかる。


 ドカーン


 衝撃を受けた隣の見張り台も、土台から重要な支柱を何本も抜かれている。

 大きな衝撃を受けて、立っていることは出来ない。


 一つ目よりも、かなり早い速さで倒れていく。

 その隣の見張り台に、さらに激しくぶつかる。

 隣の見張り台も倒れるが、ぶつかった見張り台もバラバラに壊れていく。


 ドッカーーンッ


 次々と、将棋倒しのように見張り台が隣の見張り台を、なぎ倒して崩壊していく。


 ドッカーン、ドッカーン、ズズーン、ドッカーン


 激しく連続に起こる衝撃音が、時間と共にその間隔を縮めていき、頼りにしていた見張り台が崩壊していくのを、みな口を開けてポカーンと見ていた。




 ノルド公国の兵士たちも、巨人たちも、目の前で何が起こっているのか分からずに、ひとつの高さ10メートルの巨大なドミノ倒しを、見つめる他なかった。


 永遠に続くかと思われた衝撃音の連続は、15分ほどで収まった。




 バベルの塔から国境側を見て、左半分に配置されていた数百の見張り台が、きれいさっぱり無くなって、木材の瓦礫がれきが散らばっているだけだった。






「い、一体、何事が起ったんだ?!」

 ノルド公国軍の国境守備隊の司令官は、工兵隊の隊長を呼んで聞いた。


「こ、こんな見事な破壊工作が出来る者は、収容所から脱走した『ばくやく令嬢』以外考えられません」


「ばくやく令嬢だと?」


「はい、少し前に国境守備隊の検問所が襲われて、龍人の少年が奪われました。

 私は、その実況見分に立ち会ったのですが、石造りの頑丈な建物の壁が見事に破られていました。

 しかも、ただ破壊するのではなく、人が通れるくらいの大きさの穴が開いていたのです」


「それは、すごいことなのか?」


「私たちの知っている爆薬は、量を増やせば頑丈な建物の壁を吹っ飛ばすことは出来ますが、建物も吹っ飛びます。

 壁に穴だけあけて、中の者が無事などと言う事態は考えられません。

 恐らく、私たちが知らないような最新式の爆薬を使用したとしか考えられません」


「それが、今回も使用されたというのか?」


「はい、何百という見張り台を爆破する量の爆薬を用意しようとするならば、現在我が国が持っているダイナマイトを全て使用しても不可能でしょう。

 彼女以外に、そんな量の爆薬を秘密裏に用意できる者がいるとは思えません」


「ばくやく令嬢というのは、そんなに凄まじいことをやってのけたのか!」


「しかも、時間差を置いて、見せつけるように一つ一つ破壊していくいやらしさ。

 一つ残らず瓦礫がれきになるまで破壊し尽くす、その執着性。

 どれを取っても、普通の人間に考えつくような所業ではありません。

 まさに、人の皮をかぶった悪魔にしかできないことです」


 司令官は、それを聞いて黙り込んでしまった。


 本当は、爆薬は支柱の木を一本外すレベルの小爆発にしか、使用されていない。

 それも、エドワードに持たせていた威嚇いかく用の爆発玉だった。



 別に見せつける為に一つ一つ破壊したわけではなく、将棋倒しの要領で破壊したから順番に倒れていっただけだ。




 工兵隊の隊長は、現代で言う物理の天才と言われるような人物だった。

 だが、結果の重大性、ばくやく令嬢の先入観から判断を狂わせていた。


 ばくやく令嬢の凄さのせいにしておけば、説明が簡単になるという事も多分にあるのだろうが。




 それを伝え聞いた兵士たちは、準パニックの状態だった。

「今朝の大爆発は、ばくやく令嬢の仕業らしい」


「ばくやく令嬢が、ノルド公国最強の見張り台を一つ残らず爆薬で吹っ飛ばしたらしいぞ」


「これから、ばくやく令嬢が巨人の王に食われそうになった仕返しに、国境一帯の守備隊を全員焼き殺して、巨人の王はバラバラにして食べようとしているって話だ」


「お、俺は、『立ちふさがる障壁は、人だろうと塔だろうと全て木端ミジンコにしてやる』って脅迫が届いたって聞いたぞ!」


 うわさ話に尾ひれがついて、ドンドン広がっていった。


次回更新は、予定通り明日12/15(火)です。


ブックマークありがとうございます。

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