97.そのころノルド公国は……
巨人の王キムパーク・オルセン。
彼は、朝食をとるためにバベルの塔から降りてきた。
決まった時間に塔の最上階からいなくなると、そこを付け込まれるかも知れない。
毎日、違う時間に降りてくるようにしていた。
その日は、日も昇らない真っ暗な時間に降りてきた。
巨人のタイタン族は、平均身長が5メートルを超える。
特に王族は体が大きく、彼の身長は8メートルを超えていた。
体が大きいので、食事の量も莫大だ。
側近の2名と共にする食事の量は、人間の30人分に匹敵する量だった。
「余こそ最強の戦士にして、守りの要だ。
余たちが、この塔の上から戦場を支配しているからこそ均衡が保たれておるのに、食事はどんどんショボくなっていくのお」
王が、少し元気を失っている。
側近の一人が、声をかける。
「足りませんか?
また、その辺の兵士を2,3人捕まえて喰っちまいますか?」
もう一人の側近が、それを否定する。
「それは、今は止めましょう。
攻勢の中なら、少々のやらかしや粗相は見逃されますが、守勢が続く中で味方を食うのは、連携が取れなくなります」
「連携?
小人たちと連携など、不要じゃろう。
2,3人食って元気を出せば、また国境の向こうで大暴れしてやれるぞ!
ワッハッハ」
王が豪快に笑っているのを、ノルド公国の兵士たちは眉をひそめて聞いていた。
彼ら巨人族は、元々このノルドの地は自分たちの領土だったわけで、ここまでは攻めてきて当然と思っていた。
そして、南に構える帝国を倒せば自分たちの時代がやって来ると信じていた。
ただ、自分たちの力を過信しすぎていた。
巨人族の力単独で帝国を倒すことが出来ると思っていたので、味方の軍勢の状況など気にもかけなかったし、味方の兵士を取って食うことも拙いことだと思っていなかった。
それに比べて、ノルド公国をまとめるズラタン・コルネリウス公爵は強かな男だった。
今回の巨人の侵攻も、ノルド公国への侵略が始まるや否や密使をつかわして、巨人たちと協定を結んだ。
上手く言いくるめて、ほとんど被害を出さなかった。
彼は、この世界の空に昇る3つの月がこの年、一直線に並ぶことを知っていた。
東の魔人たちは、そういう風習でもあるのか、3つの月が一直線に並ぶと攻めてくる。
そのタイミングに合わせたかのように巨人たちが攻めてきたので、チャンスと見て巨人族と手を結んだ。
さらに、西の龍人たちが祭祀の道具を盗まれれば国境を越えて攻めてくることを利用して、西方にスパイを送り込んで、龍人たちの神器を盗ませた。
帝国に3正面戦争を仕掛けたのだ。
最初は、彼の思い描いた通りの展開となった。
しかし、大きな誤算があった。
ダイナマイトの発明だ。
西の龍人との戦いも、東の魔人との戦いも、前線に戦力の少ない帝国が持ちこたえることが出来るようになった。
さらに、自分たちの攻撃も跳ね返されてしまった。
聡い彼は、直ぐに戦後処理の事を考え始める。
巨人の王をおだてて、最前線に位置させてバベルの塔を築かせた。
そして、手持ちのダイナマイトを与えておいた。
ダイナマイトでのし上がっていくであろう、ファルマイト公国の令嬢を誘拐させて、最前線で人質とした。
そして、画一的な構造の見張り台を無数に建てて、国境を簡単には破れないように固めた。
とにかく、負けるにしても善戦しなくてはならないし、戦力を減らすわけにもいかない。
そのためにやれることは、全てやりつくした。
現地の司令官に、3つの出来事があった場合にはすぐ連絡するように命令してあった。
3つのこととは、巨人の王の死、バベルの塔の崩壊、見張り台群の目に見えるレベルでの壊滅で、このうち一つでも起これば、すぐに終戦の準備に入る。
戦後は、巨人族の戦力に致命的な打撃を与えるために行った謀だと言う予定だ。
ファルマイト公国に嫁がせたアン夫人をはじめとして、帝国の各貴族には血縁者を送り込んである。
次期皇帝候補たちにもしっかり取り入っており、エドワードの暗殺未遂などにも無理やり共犯になるように嵌めてある。
戦いの正面には巨人たちを立たせて、実はノルド公国軍の主力は温存してあった。
戦後にノルド公国が分割されることの無いよう万全の策を打っていた。
巨人族は、高さ10メートルの無数の見張り台が5メートルおきに建てられていくのを、最初は訝しげに見ていた。
しかし、小競り合いでその威力を目の当たりにして、再び戦線が均衡したことを感じ取っていた。
頑張れば、また攻め直せる。
今度こそ、帝都まで攻め込んでやる。
そう思っていたが、ノルド公国の軍隊は攻め込むつもりは全くなかった。
コルネリウス公爵の指示通り、巨人の王の機嫌取り以上の行動は、一切しない。
帝国との秘密の交渉が少しでも有利に進むように、巨人たちが粘ってくれれば、それでよかった。
出来れば、休戦までこの国境線の維持を成し遂げたいが、巨人たちはその時は邪魔になる。
巨人たちは痛手を受けるが、国境は破られないのが理想だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一方のキャサリンたちは、その前の夜に見張り台の一つをコッソリ無力化した。
正確に5メートルおきに建っている上に、高さも揃っている。
見張り台の居住部は、長い渡し板でもあれば、つながりそうだった。
ロープを持ったララが、隣の見張り台まで飛んで行き、二つの見張り台をつなぐ。
そして、ロープを伝ってやって来たエドワード達が、その見張り台にいる兵士たちを倒す。
次の見張り台との間をつなぐロープは、前の見張り台の土台を結わえたロープを使用する。
土台の要となる柱を失った見張り台は、今にも倒れそうだ。
だが、隣の見張り台とロープでつながっていることもあり、何とか倒れずに威容を保っている。
キャサリンたちは、一晩のうちに次々と見張り台を無力化していった。
次回は、12月14日(月)15時投稿の予定です。
次は爆破もありますので、ぜひ読んで下さいね。




