93.狭まっていく可能性
警備隊が持っていた魔法探知機を試してみる。
方位磁石の針のようなものが、魔法が使用された方向を指す。
魔法を使わなければ、体内で高めた魔力などには反応しないようだ。
隠密魔法を使うララから少しずつ離れてみると、100メートルほど離れると方向が怪しくなり始めて、150メートル離れると検知しないことが分かった。
ヴェンデリンに火の玉の魔法を、手のひらの上でキープしてもらった。
その横でララに隠密魔法を使ってもらって、二人の間に距離を取ってもらうと、針が揺れ動いた。
この探知機の感度が、あまり良くないことが分かった。
元々、複数の魔法を検知することは、考慮されていないのだろう。
「現物が手に入ったのは、ラッキーでしたね。
これで、隠れ続けることが出来る可能性が、グッと上がりました」
キャサリンは満足そうだ。
「こうやって、実験して確かめておけば安心できるね。
さすがお姉ちゃんは、すごいや」
感心するヴェンデリンの横で、エドワードが自分の事のように胸を張っている。
「そうだろう、俺の婚約者だからな!」
(なんだか、美少年二人に褒められて誇らしいですわ。
こんな生活も良いかもとか、思ってしまいそう)
逃亡生活に少し慣れかけたキャサリンは、思い直して次の作業に入る。
ソフィアの持っていた目覚まし時計の声を、キキの猿の鳴き声に差し替えた。
「ああ、せっかくのお嬢様の声が……」
お屋敷に帰ったら、また新しいのをあげるからということで、ソフィアをなだめたキャサリンは、隠密魔法を使うララから離れた位置で、目覚まし時計を作動させる。
「キキッ、キキッ、ウキキ」
声がすると、魔法探知機は方向が乱される。
「やはり、作動している魔法自体に反応するみたいですね。
魔法具を作動させても、そちらを検知するから、特性を知っていればそんなに怖くありませんわ」
「私が持って来た時計が、みんなの役に立つという事で納得しておくことにします」
ソフィアが、元気なく答える。
そしてもう一つ、大きな発見があった。
この辺りの捜索部隊は、もれなく魔法探知機を持って捜索していた。
敵が魔法探知機を動作させると、検知できるのだ。
こちらの魔法探知機も、検知されていることは予想できる。
当然、魔法を検知して捜索部隊が近付いてくると分かるので、やり過ごすことが出来た。
場合によっては、目覚まし時計を作動させてキキに運ばせて、あらぬ方向に誘導することも出来た。
敵はキキを見つけても、森に住んでいるお猿さんと思っているので、気にも留めない。
3日間ほどは、それで少し落ち着いて隠れることが出来た。
街への街道の捜索が、順調に? 進んだのだろうか、森の中への捜索隊の頻度が増えてくる。
夜通し、捜索隊がやって来るので、おちおち寝ることも出来なくなってきた。
このままでは、何日も持たない。
「しかし、どの捜索隊もこの探知機を持っているんだから、すごいよな。
巨人たちにこんなものは作れないから、ノルド公国にも君のお父さんみたいに発明家がいるんだろうな」
エドワードが感心しているが、キャサリンは何かに気付いたようだ。
「これだけの部隊に行き渡っているという事は、よほど沢山作っていますわね。
最近開発されたにしては、行き渡り過ぎていますし。
どうして、国境近くの警備隊は探知機を持っていなかったのかしら?」
それを確かめたいキャサリンの提案に従って、一同は国境の方に移動していった。
道々、キャサリンが思いついたように言い出した。
「でも、よく考えたら、街に逃げ込んでも、ここにいるより大変かもしれませんでしたわ」
「街に行ったら、店もあるし、食事も普通に取ることが出来るんじゃないか?」
エドワードが当然のことように答える。
「私たちは今、お金をあまり持っていませんわ。
ソフィアとヴェンの手持ち分くらいでしょう。
それに、知り合いも一人もいないんじゃありませんこと?」
「確かに、あの街に知り合いは、いないや。
でも、僕を警備隊に通報した商人たちは、僕の顔とかを知っているよ」
ヴェンデリンの言葉を聞いて、エドワードが顔をしかめる。
「味方になってくれる知り合いじゃ無くて、敵に回る知り合いしかいないってのか。
指名手配の貼り紙も、されているかも知れないしな。
こりゃ、確かにヤバイな」
「それに、街中でキャンプは張れませんね。
恐らく、宿屋に泊まると通報される危険性が高いので、匿ってくれる知り合いがいなければ、立ち行かない所だったかもしれません」
ソフィアも話に入ってくる。
「まあ、街に向かわなくて正解という事ね。
あたいも、さっきみたいに追い回されるから、街には近付けないわ。
早く気付いてくれて良かったみたい」
ララは、一人喜んでいる。
国境に近付いていくと、いきなり警備隊に出くわしそうになった。
先頭に立っていたキャサリンが持つ探知機に反応が無かったので、かなり近くでララが気配に気づいたのだ。
彼らは、魔法探知機を持っていない。
キャサリンは、ララに言って隠密魔法を使用してもらった。
目と鼻の先まで来ているのに、警備隊はキャサリンたちに気付かずに素通りして行った。
「これで間違いないですわ。
国境近くの警備隊は、探知機を持っていません」
「どういうことだ?」
確信ありげなキャサリンに、エドワードが質問した。
「恐らく、もう少し国境に近付けば分かると思いますわ」
キャサリンは、妙に自信満々だ。
魔法探知機を持って先頭を歩いていたキャサリンが声を上げる。
「やはり、思っていた通りでしたわ」
「えっ? 何か分かったの?」
不思議そうな顔のヴェンデリンに、キャサリンが探知機を見せる。
針が国境の方を向いて、ピクリとも動かない。
反対側で、ララやヴェンデリンが魔法を使ってみても同じだ。
「国境の柵の周りに、強力な結界が張ってあるとのことでした。
この結界は、魔力も範囲も大きいから、遠くからでも魔法探知機の針を吸い寄せてしまうんです。
これなら、安心して隠密魔法を使って休むことが出来ますわ」
ここ数日、安心して寝ることが出来なかった一行は、すぐに近くの川で捕まえた魚を料理して食べると、隠密魔法を使って、交替々々に睡眠をとった。
しっかり休養して、みんな万全では無いが、そこそこ元気にはなった。
国境に近付いたおかげで、ララも国境の向こうの妖精とテレパシーで連絡を取り合えるようになった。
「これで、随分状況が改善したな」
ホッとした様子のエドワードを、ララが窘める。
「いいえ、国境の向こうでは、状況悪化しまくりみたいよ」
次回更新は、12月7日(月)15時の予定です。




