92.3つの選択肢
状況を整理する。
こちらの戦力は、6人?
と言っても、お猿のキキは妖精のララを運ぶだけの役割だ。
そのララは隠密魔法が使えるが、魔法探知機のようなものがあるために、お役立ち度は絶賛降下中だ。
国境から一定の距離を離れてからは、テレパシーもつながらないので、帝国側との通信も出来ない。
最強の戦士ソフィア。
1対1なら、巨人にも勝てる貴重な戦力。
子供としては最強だが、敵の精鋭には敵わないエドワード。
そして、子供とは思えない強力な攻撃魔法を放てるヴェンデリン。
この3人は、普通に戦力だ。
最後に、ばくやく令嬢のキャサリン。
戦いでは戦力にならないと本人は言っているが、ピンチに怖気づかずにとっさの判断が正しい。
戦力の3人が連携して戦うためには、軸となるのは間違いなく彼女だった。
今、彼女たちが位置するのは、ナードハート帝国本国と連邦国家の一つノルド公国の国境のノルド公国側だ。
国境から、十数キロメートルという所だ。
国境から2キロメートルほどの所に、巨人たちが建てた巨大な建物、バベルの塔がそびえ立っている。
その塔の最上階は、展望台のようになっていて、辺り一帯を見渡せる。
そこに、巨人の国の王が数名の側近を連れて指揮を執っている。
そして、ここから見える範囲に石や火の点いたダイナマイトを瞬間移動させてくる。
キャサリンたちが巨人から逃げる時にも、森の切れ目にダイナマイトを送り込んできた。
どうやら、巨人の王の見える範囲は20キロメートル以上あるようだ。
下手をすると、キャサリンたちは森から出られないことになる。
夜陰に乗じて森から出て、街を目指す手もあるが、地理が全く分からない。
とは言え、帝国軍が攻めてくるまで一カ月間、森に隠れ続けるのも無理だろう。
敵が、魔法探知機を持っている以上、ララの隠密魔法もかえって位置を知らせることになりかねない。
取れる手は、3つだ。
一つ目は、ヴェンデリンが商隊に混ぜてもらった、国境近くの街に逃げ込むこと。
二つ目は、一カ月間森の中に隠れ続けること。
三つめは、帝国軍の侵攻を待たずに、国境を越えて逃げること。
国境に近付くに連れて警戒は厳重になる。
国境の近くに建つ塔に近付かないと始まらない三つめは、誰も支持しなかった。
全員が無事に帝国に帰ることが出来るようには、とても思えない。
二つ目も、キキとララの二人だけなら隠れていられるかもしれないが、特にソフィアが隠れるのは無理だろうという事で、多数決で否決された。
驚いたことに、反対の人は手を上げるように言われて、キキが手をあげた。
キキは意外と、色々理解しているようだ。
最終的に、全く土地勘が無いとは言え、少しずつ街に近付いていって達成できそうな、一つ目の手を取ることにした。
夜を待って、6人は再び北に向かって動き始める。
数キロ戻ると、ダイナマイトで木々が吹っ飛んだ跡地に、巨人たちが野営地を築いているのが分かった。
そこには、夜でも煌々(こうこう)と明かりが灯されて、多数の巨人たちがワイワイと騒いでいた。
数十人レベルの巨人たちは、どうにかなりそうもない。
「こんな所に近付くのは、命とりだな」
エドワードの言葉に皆うなずき、大きく迂回していくことにした。
その日の夜通し移動したが、昼の間に隠れられそうな場所もない。
結局、朝のうちに南に引き返して、元の岩と岩の間の隙間に潜り込んで、交替々々で休みを取った。
夜になって、再度街へのアタックをすることにした。
「昨夜は、まず北に行ってから西に行きました。
今晩は、北西に向かって進みましょう」
ソフィアに先導されて進んでいくと、数時間で森の端まで来た。
そこは街道だった。
森の端に沿って街道になっており、その先は一面隠れる場所の無い麦畑だ。
まだ育っておらず、ソフィアどころかキャサリンやエドワードでも、伏せても隠れられない。
「あたいが、この先の様子を見てきてあげるよ」
言うが早いが、ララが隠密魔法を自分にかけて、街道沿いにフワフワと浮かびながら飛んで行く。
少し行った所で、松明を持った兵士たちが走ってくるのが見える。
「こっちから、魔法をまとった何かが飛んでくるぞ」
先頭の男が言う。
「おお、妖精だ。捕まえろ!
高く売れるぞ」
ララは、あっという間に捕まってしましまった。
ロープで、ぐるぐる巻きにされてしまう。
「申し訳ありません。
全員一人欠けることもなく帰りたいので。
みなさんは、ここで待機していてください」
そう言うと、ソフィアは満足そうに引き返していく兵士の一団の背後から近づく。
まず、松明を持った兵士数名を、後ろから素手で殴って気絶させた。
松明の火を足で踏んで消してしまうと、辺りは真っ暗になった。
「な、なんだ?」
「森の中から、山賊が現れたのか?」
「軍隊相手に狼藉を働くとは、何者だ?」
口々に騒ぐ兵士たちを次々と、投げ飛ばして黙らせる。
彼女は片目をつぶっていたので、一人だけ暗闇に目が慣れていた。
兵士たちも少しずつ目が慣れてきたころには、妖精のララは奪い返されていた。
しかし、数が多い。
残った者たちがソフィアを取り囲んで、剣を抜く。
ソフィアの背後に立った二人が、いきなり気を失う。
エドワードとヴェンデリンが、彼らの後ろから一人ずつ倒したのだ。
彼らも子供だが、一般兵士相手なら互角以上に闘える。
「こ、こいつら何人いやがるんだ!」
焦った兵士たちは、ソフィアに打ちかかるが、全員一撃のもとに叩き伏せられた。
全員をロープでふん縛った。
数えると、全部で15人いた。
「この街道は、僕が捕まってから運ばれてきた道ですけど、数えきれないほど野営地がありました。
この道沿いに進むのは、危険だと思います」
キャサリンは口に手を当てて、シーッのポーズでヴェンデリンの言葉を遮る。
「私たちは、とにかく街に向かわないといけません。
この人たちのように、次々と立ちふさがるものは倒して、隠れながら進んでいきましょう」
倒れている兵士たちに聞こえるように言うと、街道を先頭に立って北に進む。
しばらく行くと回れ右して、さっき縛った兵士たちのいない所を通って、南に向かう。
「お嬢さま、やはり町に向かうのは無理と判断しましたか?」
聞いてくるソフィアに、キャサリンはため息をつきながら答える。
「仕方ないですわ。
警備隊をやっつけてしまいましたし。
それに、隠密魔法が全く通じないことも分かってしまいましたから」




