91.森の中の鬼ごっこ
エドワードが、洞穴の中に駆け戻ってきた。
「ヤバいぞ!
巨人が数人と、普通サイズの兵士がそこそこの数でこっちに向かってきている。
すぐ出発できるように、準備しないと」
言われて、キャサリンは雑嚢(布製のカバン)を肩にかけた。
耳を澄まして、外の様子を窺う。
近くで兵士たちの話声が聞こえる。
「クソッ、巨人の奴ら。
戦いは強いかも知れねえが、自分達では何にも出来ねえんだからな。
女の声を検知したのも、森の中をくまなく探すのも、俺達なんだ。
細かいことは奴らには出来ないのに、威張るのだけは一人前なんだから嫌になっちまうぜ」
「全くだな。
しかし、この辺りなんだよな。
俺達一般人には何も分からんけど、この魔法検知器がこっちだって指しているぞ」
「ゲッ、魔法検知器だって?」
エドワードが、焦る。
「ララ、キキに捕まって、私について来い。
皇子、お嬢さま、ヴェン!
私の方に来い」
ソフィアは、そう言うとヴェンデリンとキャサリンを片腕ずつで抱っこすると、エドワードを背負った。
「何かここ、怪しくないか?」
言いながら、兵士が入り口の布を開けた。
その顔に、ソフィアは頭突きをかませて、そのまま洞穴から飛び出した。
頭突きを食らった兵士は、吹っ飛んで転がっていった。
「うわっ、何だ?」
「奴らだ! 逃走中の皇子たちと龍人の子供だ!」
兵士たちが戸惑っている間に、ソフィアは集団の中を駆け抜けた。
両腕が塞がっていて、闘えない。
一目散に逃げた。
敵もとっさの事で判断できなかったのか、飛び道具が飛んでこなくて助かった。
右手から、巨人が6人走ってくるのが見えたので、左に進路を取った。
木と木の間を、ソフィアはすごいスピードで駆け抜けていく。
しかし、巨人たちも人間が草むらを走るように、木の枝をバキバキと折って、木々を倒しながら走ってくる。
追いつかれはしないが、振り切れもしない。
ほぼ同じ速度で進んでいる。
「まずいな、この先に何があるのか分からない。
当てずっぽうで走って行くと、行き止まりだったり、罠にかかったりするかも知れない」
ソフィアの背中で、エドワードが前方を見ながら話す。
巨人の一人が、走りながら投げ槍を投げてきた。
ソフィアの肩口に、丸太のような木の棒がこすりそうなくらいの距離で飛んで行った。
「あんなのを食らったら、ひとたまりもありませんね」
ソフィアは、少し左右にジグザグのコースを取るように走る。
回避行動のせいで速度が落ちてしまったようで、ジワジワと距離が詰まってくる。
「僕が、敵の足を止めてみるよ」
ヴェンデリンは、先頭を走ってくる巨人の顔面目掛けて、無詠唱の爆裂魔法を放った。
ズドドーン
顔面に爆裂魔法を食らった巨人は、尻もちをつくように転んだ。
「邪魔だ!」
後ろの巨人が、転んだ巨人を蹴飛ばす。
続く者たちは、転んだ巨人をいたわるでもなく走り続けてくるが、次は自分が狙われるかもと思ったのか、速度が少し緩んだ。
そこで、キャサリンがソフィアの肩越しに、煙幕手りゅう弾を投げる。
辺りに煙が立ち込めた所で、ソフィアは直角に曲がって、元いた方向に向かって走り出した。
「こっちに進んだら、あの検問所の方向に戻ってしまいますわ」
キャサリンが、焦って口を出す。
「すみません。
まっすぐ行くと、森の木の密度が薄くなっているように感じられるので、木々が多い方に進みます。
敵を騙すために、木の薄い方向にもう一発煙幕手りゅう弾を投げて頂けますか?」
キャサリンは言われたとおりの方向に、投げる。
そちら側に、煙が立ち上るのが見える。
巨人たちは煙の上がった方に走って行くが、突然立ち止まってブロックサインのようなポーズを取る。
と、その煙の上で閃光が発せられた。
ドカーーン
煙の発生源の真上辺りで、瞬間移動してきたダイナマイトが爆発したようだ。
「バベルの塔からは、ここまで見渡せるんだ」
呆れるように言うエドワードに、キャサリンも忌々しそうだ。
「塔の上から姿が見えたら、あるいは巨人たちが指し示した場所に、ダイナマイトや石を送り込んでくるわけですね。
これでは、森から出られませんわね」
煙は爆風で吹き飛ばされて木々も倒れていて、その辺りは視界が晴れている。
「あっちに進んでいたら、見つかった上に爆風でやられて、タダでは済まなかったな」
エドワードが、ため息をつく。
追撃隊は、倒れた木々の下にキャサリンたちが倒れていないか、隠れていないか、調査している。
「この隙に、ここを離れましょう」
ソフィアは速度を緩めることもなく走り続け、深い森の中の大きな岩と岩の間の隙間に滑り込んだ。
「ハアッ、ハアッ。
こ、ここなら、隠れられるでしょう」
「ソフィア、すごかったわ。
あなたがいなかったら、絶対に捕まっていたわ」
「いえいえ、お嬢さまの煙幕手りゅう弾が無かったら、とても敵の目を逃れることは出来ませんでした」
「あのタイミングで煙幕が効いたのは、爆裂魔法が決まったのがデカかったよな。
やったじゃないか、ヴェン。
お前のお陰で、みんな助かったんだぞ」
エドワードが、嬉しそうに弟を褒める。
「僕も少しは役に立てたのなら、良かったよ」
ヴェンデリンが、心の底からの笑顔を見せる。
遅れて、ララを連れたお猿のキキがやって来た。
「ちょっと、ちょっと。
デカくて速い巨人を振り切るのもすごいけど、森の中の移動では右に出るものがいないと言われるお猿さんを振り切るって、一体どんな運動能力なのよ」
「ハハハ、まあ助かってよかったじゃないか」
ソフィアに言われて、ララが渋々答える。
「まあ、そうなんだどさ」
「元はと言えば、私の目覚まし時計が原因です。
お嬢さまの声が聞けるので、喜んで毎日使っていました。
国境を超える時に、スイッチを切っておくべきでした。
申し訳ありませんでした」
謝るソフィアに、キャサリンが真面目な顔になる。
「でも、ヴェンが逃げてからすぐだったから、敵の数も少なかったと思うのよ。
それに見つかったけど、音のせいでこちらも警戒することが出来たわ。
安心しきっている所に、あの魔法探知機でコッソリ見つかっていたらと思うと、ゾッとするわ」
「考え方ひとつという事だな」
エドワードも同意する。
「問題は、これからは隠密魔法に頼れないことね」
キャサリンは困り果てる。
キャサリンの顔は、深刻だ。
次回更新は、12月3日(木)の予定です。




