90.桜吹雪がお見通し
「まさか、ダイナマイトを人間に向けて爆発させてくるってこと?」
キャサリンは、血相を変える。
「ええ。我が軍の被害は甚大です。
あの塔の視界に入る場所にいる集団の頭上には、火のついたダイナマイトが瞬間移動してくるので、国境に近付けないのです」
「塔の上から少々の攻撃があったとしても、数で押すだけの軍がいるんじゃないのか?」
エドワードが疑問を持っている。
「国境の正面には、巨人たちが普通の人間には扱えないような強力な弓を持って待ち構えています。
帝国側は連邦軍なので、今ここにいる軍隊は諸侯の配下なんです。
先頭で進む軍は間違いなく壊滅するので、どの軍も先頭に立ちたがらないのです」
「あの塔が何とかなるだけで、そんなに戦況が変わるのか?」
エドワードの質問に、ソフィアは姿勢を正して報告する。
「ええ。帝国軍には、大量の投石器と弩弓を積んだ戦車が準備されています。
塔からのダイナマイト攻撃が無ければ、その攻撃力は国境にいる巨人たちの火力を上回りますから」
「ダイナマイトで投石器やらの攻城兵器を転がす訓練をしていましたけど、逆にやられちゃってる訳ですね?」
キャサリンも、ダイナマイトが大々的に戦争に使われてしまって、残念そうだ。
「とにかく、しばらく帝国軍の攻勢は無いと聞いて、お嬢さまの命の危機を感じました。
巨人は、子供を好んで食べると聞いて、単独でも国境を乗り越えて駆けつけてきたのです」
「本当に、ソフィアが来てくれて助かったわ」
「そう言ってもらえると、頑張って来たかいがあります」
「でも、ソフィアさんにはダイナマイトの洗礼が無かったのね」
ララが不思議そうに聞く。
「ええ、ダイナマイトも無尽蔵に持っている訳では無いでしょう。
私一人には石で対応してきましたが、何とか避けて柵をよじ登って、国境を越えてきました。
巨人たちが何人か追いかけてきましたが、森の中で振り切れたようです」
「フーン。
確かに、ノルド公国には十分な量のダイナマイトは備蓄されていないはずね。
じゃあ、少人数なら忍び込んだり、国境を行き来したりできるのね?」
何か思いついたかのようなキャサリンに、ソフィアがあわてて注意する。
「お嬢様、無茶はしないでください。
私一人だから、頭上の石も避けられたのです。
私は、帝国軍が国境を解放するまでの間、お嬢さまをお守りするために、ここに来たのですから」
「そんなに心配しなくても、大丈夫よ。
この中で、石が降ってきて真っ先に石に当たるのは私だってことを、私こそが一番分かっていますから」
「なら良いのですが」
ソフィアが、まだ心配そうだ。
戦闘の音を聞いて、さっきの検問所からも追っ手がかかるかも知れない。
とにかくキャサリンたちは、素早くそこを離れた。
何キロも早足で移動して、キャサリンはヘトヘトになった。
深い森の斜面に、入り組んだ大きな木の根っこが張っていて、洞穴のような空間がある。
その中に隠れて、入り口を汚した布で覆った。
ララが隠密魔法をかけて、自信満々の様子を見せる。
「さっきは視界を遮るものが無かったり、大きな爆発音がしたりして、私の魔法が破られたみたいになっていたけど。
今度は、しっかり隠れているし、大きな音さえ出さなければ、完璧よ」
「こんな洞穴で、入り口を汚れた布でカモフラージュしているんだから、魔法が無くても見つかったりしないだろう」
エドワードの何気なく否定的な言葉を聞いて、ララが一生懸命アピールし始める。
「あんた、分かって無いわね。
さっきのスキンヘッドも、匂いで見破ったって言ってたじゃない。
追跡部隊は、絶対に犬を使ってくるわよ。
部隊に犬の獣人を混ぜて、追跡してくるかも知れないわ」
「まあ確かに。
犬の鼻とかをごまかそうと思ったら、魔法ぐらいしかないか」
「あたいの魔法の偉大さが、分かれば良いのよ。分かれば」
妖精のララは、鼻を大きくして胸を張っている。
寝床を作って落ち着いたところで、ソフィアが持って来た携帯食をみんなで食べて、寝ることにした。
「私は、もう明日のお昼ごろまで起きないですからね」
キャサリンは、高らかに宣言すると、毛布をかぶって動かなくなった。
スースーと寝息を立てている。
ソフィアがそばに居ることで、本当に安心して寝ることが出来る。
どれだけぶりの事だろう。
「お姉ちゃん、よっぽど疲れてたんだなあ」
ヴェンデリンがしみじみと言うのを聞いて、エドワードが感慨深げだ。
「本当に今日は、色んなことがあったからな。
お互い、よく無事でいられたもんだ」
「うん、僕はお兄ちゃんたちがもう少し遅かったら、殺されちゃってたよ。
本当に、助けに来てくれてありがとう」
「いや、キャサリンがどうしても助けに行くって、聞かなかったからな。
ところで、トーヤマのキムさんっていうのは何なんだ?
二人でだけ通じる話をされて、ちょっと悲しかったぞ」
「前に、キャサリンお姉ちゃんが教えてくれたんだ。
昔、エドっていう町があって、そこに住んでいる遊び人のキムさんの肩から背中には、桜吹雪っていう模様が入っているそうなんだ」
「エド?
俺の名前にも何か関係があるのかな?」
「エドの王様の名前が、エドワードだったのかも知れないね。
それでキムさんは、悪いことをしている人を懲らしめる時に、上半身裸でやっつけるんだって。
悪い人が、また悪いことをしたり、悪いことをした覚えが無いって白を切ったりしたら、その桜吹雪を見せて窘めるそうなんだ」
「肩から背中に模様って、お前の龍のウロコみたいだな」
「そうなんだよ。
だから、だからキムさんみたいにウロコを見せて良いことをすれば、良いことのトレードマークにできるってお姉ちゃんが教えてくれたんだ」
「そうか。それでヴェンも、ウロコを恥ずかしがらなくなったんだな」
「うん。それで、それでね。
お姉ちゃんが、色んなキムさんの話を教えてくれたんだ。
キムさんが、下町でお酒を飲んでいたらね……」
夜更けまで、ヴェンデリンがキムさんの武勇伝を語る。
意外と面白い話に、ソフィアもララも釘付けになってしまった。
翌朝、まだ早い時間に、ソフィアの持って来たカバンから大きな音が鳴り響く。
笛の音だ。
ピッピッピッピ
続けて、キャサリンの大声が響く。
「朝です、朝です。朝ですよ。
朝です。朝です。起っきましょう!」
全て、ソフィアのカバンの中から聞こえてくる。
「ええっ? 何? 何?
何が起こったの?」
ヴェンデリンが跳び起きる。
「すみません。
お嬢さまに頂いた目覚まし時計を、ずっとカバンに入れていたのですが、解除するのを忘れていたようです」
ソフィアが謝る。
「かなり大きな音だったぞ。
近くに敵がいたら、ヤバかったんじゃないかな?」
エドワードが、ソロリと入り口の布を開いて、外に見回りに出た。
やはり、気付かれていたようだ。
複数の足音が近付いてくる。
次回も予定通り、12月1日(火)15時に更新の予定です。
あと少しで、当初プロットのエンディングです。
是非、最後まで読んで下さいね。




