表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ばくやく令嬢しか勝たん  作者: 御堂 騎士
第5章 食事は貧相で不自由だけど、ちょっとうれしい森での共同生活
84/543

84.ヴェンデリンの逃避行

 時間は、キャサリンとエドワードの婚約披露パーティーにさかのぼる。


 その夜、ヴェンデリン母子はその婚約披露パーティーに参加していた。


 キャサリンの深紅のドレス姿を見て、ヴェンデリンはウットリと見とれていた。

(キャサリンお姉ちゃん、まるでバラの花のようだ)


 まだ6才で、夢も希望もあるはずだが、彼は人間ヒューマン優位の帝国で、龍人との混血児だ。

 たぐいまれな魔力や、秀でた剣の腕を持っていたが、子供にありがちな万能感をあまり持っていなかった。

 キャサリンたちが仇を討ってくれたが、伯爵家の子供たちにも怪我をさせたり、自分が皆と同じでは無いことを嫌というほど思い知らされていた。


 だから、大好きなキャサリンが誰かの者になるとしても、諦めるしかなかった。

 ただ、昔から優しくしてくれたエドワードに託すことが出来たのは嬉しかった。


(僕は、お姉ちゃんの旦那様にはなれないかも知れないけど、きっと騎士ナイトになるからね)


 優雅なダンスパーティーも、子供の彼にはただただ見守ることしかできない。




「ヴェン、もう子供は寝る時間になるわ。

 帰りましょう」

 母に声をかけられて、彼はキャサリンに少しだけあいさつをして、パーティー途中で会場を後にする。


 素敵なパーティーに出られて、キャサリンの晴れ姿も見れた。

 でもキャサリンは、兄と婚約してしまった。

 少し悲しい気持ちもあったが、すがすがしい気持ちで帰って行った。




 家に帰ってしばらくすると、急な来客があった。

 応接室で、母と長話をしている。


 さすがに子供が起きている時間では、無くなってきた。


 ヴェンデリンが寝巻に着替えていると、彼の母ウリヤーナ夫人が部屋に入って来た。

「ヴェン、すぐに着替えて!

 ある程度長い間のお出かけになるから、大事な荷物もまとめてちょうだい」


 ヴェンデリンは、言われるままに荷物をまとめると、促されるままに馬車に乗って帝都を出発した。


 途中から裏道に入り、1週間ほどかけてノルド公国の国境も越えた。


 ノルド公国に入ってからも、馬車は北へ北へと走って行く。

 突然、こんな長旅をするとは思っていなかったので、少し寂しさを感じた。

「キャサリンおねえちゃんたちにも、あいさつもしていないよ。

 心配していないかな?」


「多分、大丈夫。

 危険から逃げていることは、理解してもらえるわ。

 これから帝都は物騒になるから、私達のような少し目立つ者は離れておかないと、特に危険なの」


 ヴェンデリンは、帝都が危険なら自分がキャサリンを守りたいと言いかけたが、彼女にはソフィアという一騎当千の直衛騎士が付いている。

 そして、ばくやく令嬢と呼ばれるほどに、彼女自身も危険に対するしたたかさを持っている。

(今の僕だと、足手まといになってしまう。

 早く大人になって、お姉ちゃんを守れるくらい強くなりたいな)




 ノルド公国に入ってからも、かなりの距離を移動した気がする。

 北に来たことと標高の高さが相まって、随分寒い。


 もうすぐ冬なのも、あるのだろう。

 パラパラと雪も降っている。


 目的地なのか、人もまばらな山の上の宿に泊まると、馬車から全ての荷物を降ろした。


 夜に、親子で一緒にお風呂に入る。


「ヴェン。あなたも、肩のウロコをあまりに気にしなくなったのね。

 大人になってきたのかしら?」


「そういう訳じゃ無いよ。

 ずっと、みんなと違う事を、気にはしていたんだ。

 だけど、キャサリンお姉ちゃんが『タオヤマのキムさんみたいで格好いい』って言ってくれたんだ」


「タオヤマのキムさん?」


「うん。僕も良くは知らないんだけど、タオヤマのキムさんの肩には、『桜吹雪』っていうみんなと違う模様が入っているそうなんだ。

 それで、遊び人のキムさんは、その『桜吹雪』を見せながら悪い人をやっつけるんだけど、殺したりはしないんだ。

 だから、悪い人たちがキムさんの顔を忘れて白を切ったら、『この背中の桜吹雪が全てお見通しだあ』と言って、たしなめるんだそうだよ」


「へえー、桜吹雪というのも龍のウロコみたいなものなのかしらね?」


「きっとそうだよ。

 僕も、将来は強い騎士になって、僕のウロコを見た人が悪いことをしない戒めにしてくれるような、立派な人になりたいな」


 ウリヤーナ夫人がヴェンデリンを抱きしめる。

「なれるわ。

 きっと、なれるわ!」


「お母さま。力が強いよ。

 苦しいよ」


「ごめんなさい。

 でも、きっとそのキムさんのように立派な人になってね。

 もし一人きりになったとしても」

 ウリヤーナ夫人が泪をこぼしながら、また抱きしめる。


「お母さま、どうしたの?

 何だか、離れ離れになっちゃう前みたいだよ」


 ウリヤーナ夫人が真面目な顔で言う。

「お母さまは大事な話をするために、故郷ふるさとに帰らないといけません。

 あなたは、この宿に隠れていて欲しいの。

 あなたの身に大きな危険が迫っているわ」


「大きな危険が迫っているなら、お母さまと一緒に行った方が良いんじゃないの?」


「いいえ、これから龍の背中に乗って何日も飛んで行くことになります。

 子供のあなたは、落ちてしまうかも知れない。

 ここならば、誰にも見つからずに生活することが出来ます。

 大人しく誰にも知られないように暮らしていて欲しいの」


「僕、お母さまを守りたいよ。

 強い魔法も使えるし」


「お願いよ。

 何カ月もかかると思うけど、ここで待っていて。

 長い時間がかかっても、必ずあなたを迎えに来るから」


「分かった。

 お母さまが大切なお話に集中できるように、大人しくしているよ」


「ありがとう。元気でいてね」




 その夜遅く、ウリヤーナ夫人は山に向かって出かけて行った。


 翌日、大きな龍が町の上を飛んでいたと噂になっていた。


(お母さま、お気を付けて)

 ヴェンデリンは、心の中で神に祈った。




 しばらくの間、ヴェンデリンは一人で暮らしていた。

 宿の主人によると、朝晩の食事代も含めて半年分の宿代を払ってあるそうだ。


 そして、冬を過ぎて春になった。


 母が出発して、半年が経とうとしている。

 ヴェンデリンは、おおむね目立たない生活をしていたが、好奇心にあふれた少年だ。


 ずっと一人で、宿の部屋の中で暮らし続ける訳にもいかない。

 時折、街の雑貨店などの様子を見に行ったりなどもしていた。


 ある時そこで、恐ろしい噂を耳にした。

「エドワード皇子とキャサリン姫の婚約披露パーティーで、二人の命を狙った賊がいる。

 犯人は龍人の親子で、犯行のあった日から姿を消しているらしい」


次回更新は、11月21日(土)の予定です。


皆さま、読んで下さいね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ