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ばくやく令嬢しか勝たん  作者: 御堂 騎士
第5章 食事は貧相で不自由だけど、ちょっとうれしい森での共同生活
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83.お猿のキキと妖精のララ

 扉の向こうは通路だった。

 夜だからなのか、誰もいない。


 途中の扉からキツイにおいがする。

「これは、精製純度の低い硝酸アンモニウムですわね」


※硝酸アンモニウム

 爆薬の材料、肥料として利用される化学物質。

 純度が高いと無臭と言われる。

 2020年ベイルートでの爆発事件では、2000トン以上の硝酸アンモニウムが爆発し、地中海を隔てて240キロ離れたキプロスでも爆発が観測されたという。

 キャサリンの前世で、明神みょうじんさくらのいた自動車機器メーカでは、この物質をエアバッグのインフレータに使用して、暴発事故を起こしたこともあった。

 そのため、彼女は硝酸アンモニウムには敏感だった。




「えっ、この部屋はその何とかいうのが置いてあるのか?」


「ええ、大量にね。

 肥料としても使えますけど、恐らくダイナマイトに対抗して爆薬として使用する目的なんでしょうね。

 こんな大量の爆薬の原料を砦の地下に隠しているなんて、危険ですわ。

 場合によっては、吹き飛ばして差し上げないと」


 その部屋の中には、大量の硝酸アンモニウムの他にも、いくつか化学物質が蓄えられていた。


 彼女はその中から、硝酸カリウムを探し出して、見張りの兵士から奪った雑嚢ざつのうに入れた。


雑嚢ざつのう

 雑多なものを入れる袋。

 歩兵の装備として一般的な、布製のカバン。




 二人は、地上に上がる階段を見つけて、上っていった。


 上がった所には厨房があった。

 誰もいないのを確認して、キャサリンは厨房に忍び込んだ。


「お、おい、さっさと逃げなくて良いのか?」

 エドワードが心配そうに聞く。


「巨人に見つかったら、本当にエサにされてしまいますわ。

 こちらも、ちゃんと準備して逃げないと。

 この建物の中なら、見つかっても相手も人間ですから、なんとでもなるでしょ?」


 かまどに火を入れると、さっきの倉庫で手に入れた硝酸カリウムに砂糖を混ぜて、フライパンで炒め始めた。

 作った煙幕手りゅう弾(スモークグレネード)雑嚢ざつのうに納める。




 硝酸アンモニウムには、燃料用の油を混ぜて固めて、団子状にしたものを幾つか作って、エドワードに渡す。

「これは、小型爆弾です。

 敵を驚かせる位の威力しかありませんが、いざという時にこの導火線に火を点けて、投げて下さい」


 厨房にはマッチもあったので、エドワードに持たせる。


「さすが、ばくやく令嬢だな。

 敵の倉庫に爆薬の原料があったのを見つけて、即席の武器を作るんだから、大したものだ」


「武器というほどのものではありませんわ。

 驚かせたり、隠れたりすることしかできませんから」


「いや、敵地のど真ん中で、こんなモノを手にいれられるなんて、本当に心強いよ。

 キャサリンさまさまだよ。

 でも、爆薬の量を増やして、武器にすることも出来るんじゃないか?」


「あまり強力だと、万一の時に自分たちが危険です。

 それに、私の爆薬は人の命を奪うモノじゃありません。

 命を助けるためのモノなんです」




 そこからは、特に問題なく建物から外へ出られた。

 魔法の照明を使ったサーチライトのようなものが、暗闇を照らしていたが、物陰から物陰に移動していき、森の中に逃げ込んだ。




 とにかく、夜の間に進める限り進んだ。

 行きに通ったけもの道を進んだので、楽々と数キロは進んだが、この道では国境を越えられなかった。




 国境の柵の周りに詰め所のような建物があり、周りを兵士が巡回している。


「国境を全て警備する訳にはいかない。

 砦の反対方向に進んでいけば、きっとどこかに通れるところがあるはずだ」


 エドワードの言葉にキャサリンがうなずき、国境から離れて少し進んだ所で、小さな猿に道を塞がれた。


「キキッ、キキッ」


「この子、私たちに何かを訴えているわ」


 キャサリンに言われて、エドワードが近付いてみる。

「こ、こいつは、お猿のキキだ」


「えっ? 皇帝陛下たちに飼われていた?」


「ああ、いつも服を着せられていたから、一瞬分からなかったけど、顔とか仕草が完全にキキだ」


「ご名答!」


「えっ? 今キキがしゃべった?」

 キキの方から言葉のようなものが聞こえて、キャサリンが驚く。


「残念だけど、こいつは話せないよ」

 キキの背中から、妖精フェアリーが顔を出す。


「あたいは、ララ。

 あんたのお陰で豊かになった、カーボン村の近くに住む妖精フェアリーさ」


「それで、その妖精フェアリーが、何の用なんだ?」


 エドワードの質問に、ララが呆れたように答える。

「あんた達を助けるために来たに、決まってるじゃないか。

 キャサリンさんがさらわれたと聞いて、カーボン村の村長が一帯の特殊能力持ちを集めて、竜車に乗せて送り出したんだ。

 私たち妖精フェアリーは、テレパシーの能力を買われたんだよ」


「テレパシー?

 まさか、味方と通信できるってこと?」

 キャサリンの顔が嬉しさで、あふれる。


「そうだよ。

 妖精フェアリー同士は通信できるんだ。

 とにかく、『キャサリンとエドワードは無事ですよ』っと」


「でも、よくこんな所にいる俺達を見つけられたな」


「そりゃあ、アンタ達の痕跡を追って来たら、たまたま出くわしたんだよ。

 国境を超えるのに、小さな猿なら忍び込めそうってことで、キキの背中に隠れてこっちに来たのさ。

 キキは、アンタ達の気配を感じたみたいだよ。

 あたいは、キキとも話が出来るからね」


 キャサリンは、満面の笑みをララに向ける。

「今通信できるって言う事は、味方があの国境のすぐ向こうにいるってことですか?」


「うん、そうだよ。

 あっ、ちょっと待って。向こうから返事が来た。

 なになに?

 『無理せず隠れて、助けを待て』だってさ」


 キャサリンたちは、国境の向こうには簡単に帰れそうにはないが、味方と連絡を取り合うことが出来るようになった。


次回更新は、11月19日(木)の予定です。


ポイントが少しずつ増えていて、とても嬉しいです。

こんな後書きまで読んで下さっている方、本当にありがとうございます。

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