81.巨人族の王
特殊部隊『黄色い熊』のメンバーが、キャサリンたちを巨人のエサにするつもりは無いと言うが、巨人たちは薄ら笑いを浮かべている。
何という事だろう。
確かに少佐たちは、自分たちが食べられないように頑張ってくれるだろうが、彼ら以外の兵士を見る限り、巨人たちに恐れおののいている。
『黄色い熊』の実力は非常に高いものがあるが、彼らだけで何とかなるものなのだろうか?
キャサリンは、大きな不安を抱いた。
森を抜けると、高い塔が目に入る。
「あれが、我らが王キムパーク・オルセン様の築いた守りの要、バベルの塔だ」
不審に思ったキャサリンが聞く。
「バベルの塔?
バベルというのは?」
「意味は知らねえな。
塔を設計した技術者が命名したそうだ」
巨人から聞いた彼女は、前世の記憶からある意味の不吉さを感じていた。
(その技術者は、前世で地球人だったのかしら。
バベルの塔?
超能力少年が住んでいなければ、神の怒りに触れて崩れてしまいそうなネーミングね)
※バベルの塔
旧約聖書に出てくる、巨大な塔の名前。
一般的に、人類が天にも届く高い塔を作って神に挑戦しようとしたので、神は塔を崩したと言われている。
塔の近くに行くと、塔の周りにはいくつかの建物が建っていた。
見慣れた兵舎が3つほどと、見たことも無い大きなテント状の建物が二つ。
恐らくテント状の建物は、巨人族の棲み処なのだろう。
非常に背が高く、普通の建物の10倍の大きさの扉が付いている。
テントの一つから、同行していた巨人よりもさらに一回り大きな巨人が3人出てきた。
「おお、余の昼飯を連れて来てくれたのか?」
「違います。オルセン王。
彼らは、大切な人質です。
この者たちが、この砦のどこかにいるという情報だけで、敵はここに攻め込むことを躊躇します。
さらに彼らを殺すと脅しをかければ、関係者とそれ以外の者の間で意見が分かれ、軍隊としての足並みがそろわなくなるでしょう」
少佐が分かり易く説明したが、巨人の王は納得いかないようだ。
「貴様らは、余の実力が分かっておらんようじゃ。
余がここにいる限り、敵がここに攻め込むことは不可能じゃし、軍隊として機能することも無い」
「本当にそれ程の圧倒的な力をお持ちなら、我々も子供のお守りを1週間以上するような任務に就く必要は無かったのですがね」
「余は、そんな任務を頼んではおらんぞ。
それよりも、その子供2匹。
うまそうではないか」
「おいおい。あんないたいけな子供たちを喰っちまう気みたいだぜ」
ノルド公国軍の兵士たちがざわつく。
「私たち、食べられちゃうの?
こんな人生の終わり方なんて……」
キャサリンが、絶望的な気持ちになるが、エドワードが元気づける。
「大丈夫だ、キャサリン。
僕がきっと何とかする」
「ハハハハ
絶望しなくても良いぞ。
余の様な高貴な者の血肉となるのじゃ。
光栄に思って構わないぞ」
「お言葉ですが、オルセン王。
あなたのその言動は、まさに我らノルド公国軍とボルケーノランド軍との協力関係にわずかながらでも、亀裂を生じさせる可能性を持った危険なものです。
ここは、自重ください」
「貴様ーッ!
生意気にも、余に意見をするのかっ」
巨人の王は、手近にあった木の杭をつかむと、『黄色い熊』の隊長バブンスキー少佐目がけて、投げつけた。
ゴオオオオ
轟音を伴って、杭が少佐の頭にぶつかるように見えたが、彼はいつの間にか50センチほど移動しており、杭は少佐の後ろの木を数本なぎ倒して止まった。
「あなたは、真正面からの殺し合いの戦闘が得意だそうですね。
私は、相手の後ろから気付かれることも無く目的を達成する隠密行動が得意です。
私を敵に回した場合、夜寝ている間に命を失うこともありますよ」
少佐は全く動揺を見せずに、うっすらと笑みを浮かべる。
「ま、まあ、今日の所は貴様に免じて、小人のガキの命は助けてやる」
王とその側近と思われる巨人3人は、テントの中に戻っていった。
大きくて重そうな木の杭を、軽々と投げつける巨人の王。
それを何事も無かったかのように受け流す特殊部隊の隊長。
自分たちの意志でどうにか出来るものではない世界が、そこにあった。
「あいつら、本当に何とかならないんですか?」
ノルド公国の一般の兵士たちが、『黄色い熊』のメンバーに訴える。
「我々が忠誠を誓うノルド公が、選ばれた道なんだ。
好き嫌いで語るべきでは、あるまい」
「しかし、奴らのテントに食事を運んだ兵士が何人も行方不明になっているんですよ。
絶対に奴らに食われたんだ」
「証拠はあるのか?
滅多なことは言うものでは無いぞ。
しかし、友軍の兵に手をかけたというのであれば、たとえ一国の王と言えども見過ごすわけにはいかないな。
心にとめておこう」
バブンスキー少佐は、渋い顔をしながら答えた。
彼女らは、3つの建物のうちの一つに連れていかれた。
兵舎ではなく、倉庫兼捕虜収容所のようだ。
捕虜や人質は、他にいないのだろう。
中は閑散としていた。
子供の人質が収容されるからといって、増員はしないつもりのようだ。
兵士はまばらにしかいないし、練度も低そうだ。
あの王たちが、人質を食べたいと言った時に、ここにいる兵士たちは断るだけの勇気は持っていなさそうだ。
特殊部隊が次の任務のためにこの場を去れば、キャサリン達にも直ちに命の危険が迫ってくることが実感できる。
特殊部隊『黄色い熊』は、人質を引き渡すと国境の方に戻っていった。
また帝国に潜入するのだろうか?
あんな強力な特殊部隊が、再び帝国内に潜入していくことにも、キャサリンは戦慄した。
その場合、第二次世界大戦のヨーロッパ戦線の末期に行われた、グライフ作戦のような任務に就くのだろう。
※グライフ作戦
ヨーロッパでもっとも危険な男と呼ばれたオットー・スコルツ〇ニーが指揮した作戦行動。
(一応、第二次世界大戦までの存命で無い人物はOKと、なろう小説ガイドラインに書いてありますが、念のため一部伏字にします)
第二次世界大戦の終盤にピンチに陥ったドイツ軍が、フランスのアルデンヌ地方で最後の反撃を試みた。
その支援のために、特殊部隊が中心となって実行されたのがグライフ作戦。
アメリカの軍服を着て敵を攪乱するという、戦時国際法を無視したゲリラ作戦であるが、数々の伝説を持つ「ヨーロッパでもっとも危険な男」の風説も相まって、当時の連合国軍を戦々恐々とさせたと言われる。
次回更新は、11月16日15時の予定です。




