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ばくやく令嬢しか勝たん  作者: 御堂 騎士
第4章 ばくやく令嬢 婚約するも、命の危険におびえる
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76.庭園で、二人きりの一日

 結局サナンダは一泊したが、早朝から商談センターがサナンダと取引の話をしたい商人でごった返していると聞いて、早々に引き上げて行った。


 前の晩にエドワードと二人で風呂に入って、裸の付き合いをしたようだが、少しは打ち解けたのだろうか?




 サナンダが去った後、エドワードがしみじみ言う。

「これで、邪魔ものがいなくなったな」


「ええっ? エドワード様、それって?」


 真っ赤な顔で逃げようとするキャサリンに、必死で言い訳する。

「い、いや、違うんだ、キャサリン。

 邪魔っていうのは、変なことを邪魔するという意味じゃ無いんだ。

 なんて言うか、その、あの、とにかく信じてくれ!

 女神ラスナ様に誓って、変なことはしない」




 ちょっと意地悪な顔になったキャサリンが聞く。

「変なことには、お風呂でおかしな歌を歌うことも含まれますか?」


「ええっ? 聞こえてたのか?

 いや、あ、あの、あれはその……」

 今度は、エドワードが真っ赤だ。


 エドワードは、気分が良くなると歌ってしまうくせがあった。

 ファルマイト公国の別邸のお風呂は、広くてとても気持ち良かったのだ。


「いいでしょう。

 神様に誓ったんですから、絶対ですよ。

 あっ、歌は別に歌っても良いですから」




 歌と言えば、数日前に驚くことが起こった。


 アン夫人が、アイリーンを寝かしつけるのに、ばくやく令嬢の子守歌を歌っていたのだ。


~ねんねんねこねこ ねこがーた

 ねこねこねんねん ねこがーた

 立てば爆薬、座ればドカン

 森もお山も吹き飛ばすー

 鬼も悪夢も木端微塵

 ねんねんねこねこ ねこがーた~


(まさか、自分の身内が唄っているのを聞くことになるとは)

 キャサリンは、ばくやく令嬢の名前が世の中に浸透していることを、実感せざるを得なかった。


 と同時に、爆薬が戦局を左右するこの時期に、油断は禁物だと自戒の念もこめた。

(ばくやく令嬢がダイナマイトに深くかかわっていることは、周知の事実だという事ですから)




 そして、エドワードがコッソリ ウサギのアジーンに餌をあげていた。

 クララが、アジーンをエサで手懐てなずけたことを、どこかで知ったみたいだ。


 アジーンは、エドワードには近寄らないが、サナンダには懐いていた。

 もしかしたら、アジーンでウサギ判定をしているのが、バレたかも知れない。


 ソフィアがいなくなってからも、そういった何でも無いことが主な出来事な位、平穏な日々が続いていた。

 少し、油断もしていたのだろう。






 ソフィアが出発して一週間後、いよいよ帝都の北方で総攻撃の日が来た。

 帝都から約一週間の距離の場所なので、彼女は最前線に到着しているだろう。



 総攻撃が始まれば、成功しようと失敗しようと戦時態勢は強まることになる。


 その報せが届くと、帝都の門の出入りが今より更に大変になることだろう。


 アン夫人が、その前にアイリーンを連れて、門の外のダイナマイト商談センターの宿舎に行きたいと言い出した。


 ずっと家に帰れないノーベル公爵に、久しぶりに娘の顔を見せてやりたいそうだ。


 公爵は、倉庫のあるセメンタイト、自由都市カサイを経て、今日一日だけ商談センターに宿泊するが、明日にはまた東に向けて出発する。


 帝都の門を出入りする間も惜しくて、別邸に顔を出すことも出来ない忙しさだ。

 アン夫人の方で門を出る時間を使って、せめて宿舎ででもねぎらってあげたいらしい。


「一緒に行って、私の顔も見せてあげようかしら」


 キャサリンが言うと、エドワードがすごくガッカリした顔を見せてから、強い調子で言った。

「夜は仕方ないけど、お昼間もアジーンやサナンダたちの相手ばかりして、ちっとも俺の方を見てくれて無いじゃないか。

 たまには、婚約者としてデートを要求したい」


 何だか一生懸命な皇子が可愛かったので、キャサリンはお留守番する事にした。


 アン夫人は、二人のやり取りをほほえましく見守っていたが、キャサリンが行かないと分かると大急ぎで出発した。

 門の出入りは、本当に時間がかかるらしい。




 ダイナマイト商談センターは、帝都の城壁の外だ。

 妹のアイリーンに、もしものことがあってはいけない。


 キャサリンが頼み込んで、公国の護衛部隊ほぼ全てに同行してもらった。

 お屋敷の護衛の戦力は半減してしまったが、もし別邸を攻める位の敵なら、こちらの戦力に合わせて襲撃してくるから、戦力の増減は気にしなくて良いとキャサリンは考えた。


 だが、間違いなく襲撃のハードルは下がっている。




 お屋敷の警備だけで手一杯なので、外出できるだけの護衛はいない。

 その日は、別邸の庭園を二人で散歩した。


 池のそばを歩いていると、エドワードが突然石投げを始めた。

「ほら、こうやって石を投げると、何度も石が跳ねるんだ」


 ビュンッ、タッ、タッ、タッ、バシャン 


 3回跳ねた。


(これは、石の形と、着水角度を調整することで、何度も跳ねさせられるのよね)

 キャサリンは、近くに平たい石を見つけると、うまい角度で保たれるように回転を加えて投げた。


 ビュンッ、タッ、タッ、タッ、タッ、タッ、タッ、バシャン


「ええっ?

 キャサリン、うまいじゃないか!

 どうしてそんなに、何度も跳ねさせられるんだ?」


「それはね、石の着水角度が重要なのよ。

 石はこう持ってね。

 …………」

 などと、手取り足取りキャサリンに教えてもらって、エドワードも7回、8回と跳ねる回数が増えていき、夢中になっている。




 お昼に中庭で、二人並んで座ってサンドイッチを食べると、エドワードがすっかりご機嫌になっている。


 午後からも、同じ庭園で同じ花壇を眺めて、ほんの少しの会話をはさんで散歩するだけだったが、二人は楽しかった。


 お互いに、一緒にいるだけで楽しい時期なのだ。


「やっと、一日中キャサリンと一緒にいれた。

 婚約者として、満足できる日だった。

 ありがとう、キャサリン」

 日頃笑わない男の爽やかな笑顔が、夕陽に映える。


 キャサリンは、胸がキュンとしてしまった。

「い、いえ、こちらこそ、ありがとうございます。

 私の方こそ楽しかったです」

(変なことしないって約束したから、手も握らなかった。

 こういうピュアな所、悪くないですわ)


 二人の心の距離は、一日で随分縮まった気がした。


次回更新は、11月7日(土)です。

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