73.主人公の性癖に探りを入れる
「じゃあ、キャサリンちゃんもお元気でね」
お別れのあいさつに来たクララが、キャサリンの手を握って泪の溜まった目で見つめてくる。
(な、なんて愛らしいの?
こんな目で見られたら、それはエドワード様もサナンダも、一発で魅了されてしまうわよね。
私も危ないわ。
百合エンドにならないように気を付けないと)
「ぜひ、ぜひ、ご無事でね。
絶対に、前線には近寄らないで下さいね。
龍族は、すごく恐ろしいと聞いています。
もし、クララさんの身に何かあったら……」
キャサリンは、そう言いながら
(もしクララの身に何かあったら、私のゲーム世界での心配事は解消……
いや、そんなことを考えてはダメ!
こういう考えが、クララへの意地悪な行動につながるのよ。
ゲームストーリーの強制力に負けてはダメ!)
必死で、心の奥に浮かぶ悪魔のささやきを打ち消していた。
その言葉に詰まる様子を見て、クララはさらに感激している。
「キャサリンちゃん。安心して!
私は絶対に無事に帰ってくるから」
クララとの泪の別れの後、キャサリンは自分の部屋で、ウサギのアジーンを膝に乗せて幸せに浸っていた。
うさみみのモフモフ感は、まさに至高のメニューである。
クララの連れてきたアナちゃんは、本当によく気が付く。
また、ソフィアがしっかりと教育するので、すごくよく出来るメイドになってきた。
直衛としてソフィアがついているが、彼女は世話係ではない。
アナに身の回りの世話をしてもらうことが多くなってきた。
とてもしっかりしているのを感心していたが、よく考えるとキャサリンの一つ年上だ。
キャサリンも子供らしくないと思われていることが、実感できてしまった。
「でも、ここにアジーンがいるのよね。
リズが言っていたけど、ツノウサギは怖い人や危ない人には近寄らないし、良い人には懐くから、悪人善人の診断が出来るのよね。
サナンダとかも、今度診断してやろうかしら」
ニヤリと笑ったキャサリンは、ふと思い出した。
そう言えば初対面の時、クララはウサギたちに有り得ないほど恐れられていた。
プラスティック爆弾のC-4のことも知っていたことを考えると、アメリカ軍の軍人だったのかも。
マッチョで口ひげな、おっさん軍曹が頭に浮かんだ。
ゲオルグのプロポーズを断ったり、エドワードのイケメンさに興味を示さない様子も、元軍人のおっさんが転生してきたとしたら、辻褄が合う。
まだ11才の子供だから、異性に興味がないだけかも知れないが。
でも、中身がそんな元軍人のおっさんだったら、百合エンドの気持ち悪さ百倍だ。
彼女は前世から、マッチョ好きではないのだ。
うれしいシチュエーションは、理知的な背の高いスマートな紳士が……
頭に浮かんだ、サナンダのイメージを振り払う。
(大体、クララの中身がマッチョのオヤジじゃ無ければ、済む話ですわ)
思わず、部屋の掃除をしていたアナに聞いてしまう。
「クララさんは、日頃の生活はどうでしたか?」
「普通の女の子でしたよ。
ただ、貴族としては変わっていましたね」
(変わっている?
やはり、元軍人の性癖が出ていたんだろうか?)
「どういう所が、変わっていましたの?」
アナは、目をランランと輝かせて、語り始める。
「貴族のお嬢様なのに、美味しいお菓子を色々作ってくれるんです。
この間なんか、色々な形のカスタードプリンを作って、メイドのみんなに振舞ってくれたんです。
私のは、ヒヨコの形をしたプリンだったんです。
とっても美味しかったです。
おめめがチョコレート味なのも、アクセントになっていました。
くちばしを表現するために、わざわざクッキーを焼いて作ってくれるんです」
「えっ? ヒヨコの形のプリン?
名古屋駅に売っている奴を真似したのかしら」
「なごやえち? なんですか、それ?」
「あ、あの、ヒヨコの形のプリンを見たことがあるので、ついお店の名前を言ってしまったのよ」
「へえー。あんな美味しくて可愛いものを、売っているお店があるんですね。
他の人には、ペンギンとかイルカとか色々な形のプリンを出していました。
エレナさんは、自分でクマの形を作って自慢していましたけど」
アナは、夢見る少女の顔になっている。
「何だか楽しそうね?」
「はい、とっても。
孤児院にいる時には、想像も出来なかったほど楽しい日々でした。
あっ、ごめんなさい。
キャサリン様の所にきて、楽しくない訳では無いです。
ここでは、楽しいというより安心できます。
クララ様は、とても良い人なのですが、何だか危なっかしくて」
「どういう所が危なっかしいのかしら?」
「エレナ様もそうなんですが、背伸びしているというか。
私達は、普通に安心して暮らしていけるのを望むのですが。
クララ様は、危険スレスレの所で何かをつかみ取らないと、満足しないような危なっかしい感じがしました。
クララ様と一緒にいて感じる幸せは、どうしてもずっとは続かないような気がして」
(この子、すごく頭が良いわね。
私が持っていた、クララへの違和感を分かり易く言い当てているわ)
「アナさん。
あなた、色々な家事の仕事は一旦お休みして、しばらく私のお側付き専門で働いて下さらないかしら」
「それは、望んでもいないことでございます。
キャサリン様、ありがとうございます」
お側付きのように分かり易い担当に付けば、簡単には首にならない。
アナは、先輩から聞いていた意地悪な貴族たちとは違う、威張らない雇い主の所で働き続けられそうなことに喜んだ。
(クララの事をよく知っていて、この観察力、頭の良さ。
学園編に突入した時に、大きな武器になるかも知れないわ)
キャサリンは、満足げにうなずいた。
彼女は完全に、クララ対策を転生者前提で考えることにしていた。
(マッチョな軍曹は、スイーツを作らないはずよね)




