65.第四の攻略対象
皇帝陛下が、エドワードをたしなめるように言う。
「砦の戦力強化も良いが、可能性が高いのはドサクサに紛れた暗殺だろう。
戦というのは、武器を使った戦争だけじゃないぞ」
「その対策は、国力の強化や人心の掌握といったものですか?」
「それもあるな。
ただ、暗殺を恐れるなら信頼できる者で周りを固めることが重要だ。
信頼できる騎士団の派遣なども考えられるな。
だが犯人は、それを狙って手薄になった帝都で内乱を起こすつもりかも知れない。
中々難しい所だ」
エドワードもついこの間暗殺されそうになった。
神妙な面持ちで、皇帝陛下の言葉を聞いていた。
「皇帝陛下、ご安心ください。
東西の砦には、ありったけのダイナマイトを送りました」
ファビオの言葉にキャサリンは動揺する。
「ファビオさんは、平和利用勉強会の先生だったじゃないですか。
いきなり、戦争にダイナマイトを使おうとされるんですか?」
「いや、戦争を起こさないために送ったんだよ。
砦にダイナマイトが沢山あっても、今は抑止力にならない。
だから、今のうちに送った」
「抑止力にならないなら、まさに戦場で使うためじゃないですか。
どういうことか、説明して下さい」
エドワードの抗議に、ファビオは落ち着いて肉を食べ続ける。
「砦にタップリのダイナマイトが備蓄される頃合いに、帝都の騎士団は演習を行う」
「演習なんかしたって、意味が無いのではありませんか?」
キャサリンは疑問に思う。
「城壁の上から、ダイナマイトの付いた矢を弩弓で放ったり、投石器で爆薬を飛ばしたりする。
速度の遅い破城槌のような攻城兵器を、爆薬でひっくり返す。
この演習の様子を伝え聞いた敵軍は、ダイナマイトをタップリ備蓄した砦に、果たして攻め込んでくるかな?」
「なるほど、確かに抑止力になりますね。
実際には使用せずに、その脅威を見せつける訳ですね」
確かに、それなら直接戦争に使用している訳では無い。
キャサリンこと明神さくらの知っている世界でも、実際の戦争は中々起こらないが、あちこちで軍事演習をやり合っていることがニュースになっていた。
「でも、敵もダイナマイトを手に入れようとするでしょ?
砦の城壁の破壊に使えますから」
エドワードの疑問には、皇帝陛下が答える。
「ノーベル公爵は、着々とダイナマイトの増産を進めてくれている。
そして、その半分を帝国に納める約束になっている。
市場での在庫は少なくなり、価格は吊り上がり、公国は儲かる。
その上に、帝国は圧倒的な量を確保できる。
怪しい公国への流通を絞ったりも可能だ。
上手く立ち回ることで、戦争は回避できるんだ」
「しかし、人を殺す目的の武器によって平和になるって、なんだか抵抗があるんだよなあ」
「エドワード様、ダイナマイトは人を殺す武器にはしないで欲しいです。
土木工事や、障害物の撤去などに使って下さい!」
キャサリンが、珍しく強い調子で言う。
「エドワード、そういうことを一生懸命考えることは、大切なことだ。
安定を望むものが圧倒的な武力を持てば平和は保たれる。
ただそれは、虐げられた者の状態も固定化することと引き換えなんだ。
だから為政者は、圧倒的な力と様々な民の不満を溜めないことを両立しないといけない」
皇帝陛下は、嬉しそうに述べる。
(なるほど、こうやって毎日帝王学を刷り込まれているんだ。
陛下。戦いのドサクサに婚約者を殺さないように、人の命の大切さもしっかり教育してやって下さい)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
数日後、キャサリンの家の前にファルマイト公国から来た馬車が着いた。
降りてきたのは、ダービー子爵親子だ。
彼らは、帝都から少し離れた位置にあるダイナマイト商談センターに赴任するためにやって来たのだ。
ノーベル公爵お気に入りの出来る男ダービー子爵が、帝都における爆薬販売流通の責任者としてあいさつに訪れた。
というよりも、ダイナマイトの開発者であり販売体制を色々と考えた、キャサリンの話を聞きに来たという方が正しいだろう。
キャサリンは身構える。
何故なら、赴任してくるダービー子爵の長男 サナンダ・トレント・ダービーは、ゲーム『愛の弾丸娘』の攻略対象なのだ。
出来る父親は本国で宰相だったが、その知力を買われて帝都での爆薬関連の責任者となる。
当然その息子は、知力に関して非常に高い。
理知的で整ったルックスの通り、成績は学年トップ。
いつも、すかした感じで女性に興味なしというキャラだ。
彼は異性への興味が薄く、公国の繁栄を第一に考えて勉学に励んでいた。
しかし、彼の父の仕事は公爵家の意向によって大きく左右される。
悪役令嬢のキャサリンは、彼に宿題や魔法の課題をやらせたり、使いっ走りにしたり、やりたい放題だった。
ゲームの中で、主人公クララは図書館で彼と出会う。
サナンダは、亜人や獣人の帝国内での差別に問題意識を持っていて、その問題について記述された本を読むのが趣味だった。
ゲームでの悪役令嬢キャサリンは、怠惰で勉強しないキャラで図書館には絶対に近寄らない。
だから、悪役令嬢の目から逃れるためにも図書館で本を読んで息抜きしていた。
そこで、獣人たちの悲恋を描いた問題作「シバミオとニャリエット」を読んでいたクララを見つけて声をかけるのだ。
主人公クララは、そんな問題作だからではなく物語の主人公 柴犬系獣人のシバミオのキャラが好きで読んでいただけだが、彼女がハーフエルフであることを含めて勘違いされる。
サナンダの好感度を上げると、クララの行動がやり易いように悪役令嬢キャサリンの妨害など、他の攻略対象の好感度を上げるために影でサポートしてくれる。
もちろん彼の好感度を大きく上げれば、サナンダとのハッピーエンドもある。
エドワードやゲオルグに比べてイベントが少なく、彼とのエンディングに持ち込むのは難易度が高く、サナンダエンドを見たかどうかがやりこみプレーヤーの指標のように言われていた。
実直なキャラが人気だった。
だが、キャサリンの側に立ってみれば、要所要所で邪魔をして来るお邪魔キャラだ。
キャサリンと、どうにかなるルートは無かった。
出来るだけ遠ざけておきたい。
父のダービー子爵とは、ビジネス上無関係ではいられない。
(なんで、ついてくるのよ。
ダービー子爵だけで来ればいいでしょ。
私はすでに婚約者がいて、息子を紹介する必要も無いんだから。)
キャサリンは、警戒を強めながらダービー親子を出迎えた。
総合評価ポイントが、過去作を含めて最高を更新しています。
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次回更新は10月19日(月)です。
ページビューが沢山あるのも嬉しいです。
ぜひ、続けて読んで下さいね。




