64.次期皇帝の継承順位
どうしてエドワードの命が狙われるのかについて、ファビオが解説する。
「平時であれば、エドワード様の皇位継承順は7位といった所でしょう。
ところが、激しい戦争が起きた場合、3位くらいまで上がってしまいます」
「どういうことか、全く分からないぞ。
もしかして、キャサリンの実家の実力のせいか?」
エドワードが聞く。
「その通りです。
ダイナマイトで大儲けするであろうファルマイト公国は、恐らくこの1,2年で最大最強の公国になるでしょう。
そして、キャサリン様は魔法学園卒業まで結婚をお待ちになりますよね?」
「ええ、そのつもりですけど」
「つまり、キャサリン様が卒業するまで、今から8年以内に皇位継承順位最高位のお二方が亡くなるほどの戦乱が起きた場合、年齢や生まれた順では皇位継承できません。
戦争に勝たないと、いけませんから。
最強のファルマイト公国のバックを持ち、同年代の剣術大会で毎回優勝を飾るようなエドワード皇子が、皇后陛下の養子になっている訳です。
普通に、次期皇帝となることに異議を唱える者はいません」
「戦乱時に、皇位継承順位がエドワードの次になりそうな者が怪しいという事か」
皇帝陛下が、考え込む。
「その推理を正しいとすると、一番怪しいのは今最強の軍隊を持つモロイン公国の長女と婚約している、4男のジョン皇子とその関係者です。
次に怪しいのは、戦場の狂犬ハイデルベルク伯爵の娘 クララと結婚する場合のゲオルグ皇子になります」
「ゲオルグ兄さんが、クララにご執心なのは意外と鳴り響いているんだな」
エドワードの言葉に、皇后陛下が口を隠しながら答える。
「わたくしの所にまで噂が届くくらいですから、相当有名ですね」
(なるほど。だから、クララ達が帰ってから話し始めたのか。
というか、エドワード様もクララを追いかけていたような気が……)
「でも、それはあくまで推理なんですよね?
もっと分かり易い動機は、考えられないのですか?」
キャサリンには、戦争が起きたら等の仮定を基にした、そんな複雑な貴族の上下関係はさっぱり分からない。
「いくつか考えられます。
例えば、亜人の地位向上を狙った者の犯行とか」
「ファビオ、それは私のような者が怪しいという事か?」
ソフィアに聞かれて、ファビオは即座に否定する。
「ソフィアさんを疑うことは、有り得ません。
ソフィアさんは、今の待遇に不満が無いでしょ?
でも、それなりの地位にいても、人間純血の考えに凝り固まった人が邪魔で仕方無い人もいるんですよ」
「まさか、それはウリヤーナ夫人とヴェンデリンのことを言っていますか?」
キャサリンは、ずっと行方不明のヴェンデリンのことが心配だった。
「もしウリヤーナ夫人の母国であるリエリー公国がバックに付いているなら、十分あり得る話になってきます。
実際、少し前に人間純血派の筆頭だったリックドム伯爵が、失脚していますからね」
「それで、どうして俺が狙われるんだ?」
エドワードには、本当に分からない。
「その場合、エドワード様で無くても良かったのかも知れません。
今一番目立っている貴族は、婚約を披露したお二人です。
他にも色々な動機が考えられますが、お二人はターゲットになりやすいのです。
目立つ貴族を狙うだけなら、クララさん達も危なくなりますけどね。
彼女たちが狙われた場合、亜人の地位向上の線は薄くなります」
「クララさんもハーフエルフですからね。
でも、それだとクララさんを追いかけていた人を狙うのは亜人の地位向上に逆行しますね。
エドワードは、ゲオルグと同じ位追いかけていたみたいですけど」
皇后陛下が、微妙な笑みを浮かべながらスープを食べ終わる。
お猿のキキも上手にスプーンを使って、スープを飲んでいる。
躾が行き届いているのか、大人しく座っている。
ゲオルグの式典で問題を起こしてなければ、本当に人間と同じ知能なんじゃないかと思ってしまう所だ。
(正直、こんなに行儀良くしているなんて驚きね。
お猿さんをディナーの席に座らせるような皇室なんだから、本当は亜人位気にも留めないんでしょうね)
「お母さま。俺がクララを追いかけているとか、誤解を招きます。
キャサリンもいるんですから」
エドワードが早口に抗議する。
(やっぱり、クララを追いかけていた自覚はあるんだ)
「オホホホ、ごめんなさい。あくまで噂ですよ。
キャサリンさん、気にしないでね」
「は、はい」
(気にしないのは無理ですけど。
私の場合、命がかかっているので)
メインディッシュの肉料理が運ばれてきて、セットされる。
「今回の事件は、犯人が亜人の地位向上を狙う者たちだったり、単に皇位継承順位を上げたいだけの者だったら、捕まえてお終いなんですよ。
でも公国が丸々バックに付いていたりしたら、事件の解決は戦争につながりかねませんね」
ファビオの言葉に、皇帝陛下は考え込む。
「つまり、その場合犯人の目星がついたところで、捜査は打ち切りという事か」
「これは、森に住む水牛の肉ですね。美味い。
ただ、戦争の火種は消さないといけません」
それだけ言うと、ファビオは肉を頬張る。
「戦争を起こしてでも地位向上を狙う者がいる、という事ですか?」
皇帝陛下が肉を切る手を止める。
「そうだよ、エドワード。
平和な時代が続いているから、戦争の大変さが分かっていないんだろうな。
帝国の平和が脅かされれば、近隣諸国も巻き込まれて本当に悲惨なことになるんだがな」
みな、メインディッシュを食べ始める。
「とにかく、大きな戦争は避けないといけません。
まず、東西の砦に陣取るご子息の安全の確保が重要です。
そして、長時間かけて不満分子の一掃が必要ですね」
ファビオは、うまそうに肉を食べる。
「安全の確保っていうのは、兄上たちが殺られないように砦の戦力を上げるってことですよね。
戦力で上回っていれば、敵は攻撃してこない。
具体策は、砦の武装強化ですか?」
エドワードは肉を切る手が止まっている。
戦争になるかもと思うと、いけないと思いつつ心が躍るようだ。
それが、声に表れている。




