63.戦車の出どころ
良い時間になったので、お絵かきは止めてティータイムになった。
当然、いつも通りに絵のモデルのシュークリームを食べる。
「美味しいですね。クララ様は、こんなスイーツを自分で作られるんですね。
ところで、これシュークリームって名前なんですか?
初めて見ました」
エドワードの護衛のアランが頬張りながら聞く。
彼は、絵の教室の時には見ているだけだったので、初めて味わったのだ。
「このパフ(シュー生地)が、シュー(フランス語でキャベツ)みたいだからシュークリームなんですよ」
クララが答える。
(英語でパフケーキというのは知っていたけど、本来の意味はクリーム入りキャベツだったとは知らなかったわ。
地球での言葉との相関がよく分からないけど、シフォンケーキと言い、シュークリームと言い、転生者の疑いはドンドン深まるわね)
キャサリンは、食べながら思っていた。
みんなで食べて談笑していると、ファビオが現れた。
「みなさん、お待たせしました。
白馬の騎士が、ソフィアさんを迎えにやってきました」
「白馬になんて乗って無いじゃん」
「いやあ、クララさん。
俺の純粋な心が、白馬なんですよ。
そんな心を持った騎士と思っていただければ、幸いです」
「また、訳の分からないことを」
ソフィアが呆れていると、ファビオはお菓子ではなくキャンバスの方に歩いて行く。
「おお、今日はみんな石ころの絵を描いたんですね」
デッサンは白黒なので、確かに石ころに見えなくはない。
「石ころじゃないよ。
シュークリームというお菓子だから」
クララに否定されても、ファビオは怯まない。
「おおっ、この絵はすごく上手いな。
クララ先生の絵かな?」
「違うよ、それはエレナさんだよ」
「なるほど、エレナさんはこんな才能を隠し持っていたんだ。
うおおっ!
この力強い絵は、ソフィアさんですよね?」
クララは、ちょっと呆れている。
「そうだけど、よく分かったね」
「それはもう、絵のタッチひとつひとつに力強さが宿ってますよ。
ソフィアさん、この絵をいただく訳には参りませんか?」
急に話を振られて、ソフィアがヤレヤレという感じで答える。
「そんな絵でよければ、くれてやるが、何の値打ちも無いぞ」
「いやいや、大事に飾らせていただきますよ」
この後、実際にファビオは応接間にこの絵を飾り、意外と評判が良かったそうだ。
クララ達は帰って行ったが、キャサリンとソフィアはファビオからの伝言を見て、夕食は食べて帰ることを家に連絡していた。
図らずも、皇室の夕食に招かれる形となった。
皇帝陛下、皇后陛下、お猿のキキ、エドワード、キャサリン、ファビオ、ソフィアの順に並んで座った。
(お猿のキキは、エドワード様より上座に座るのね)
キャサリンは、少し呆れてしまった。
夕食の席で、エドワードはファビオに尋ねる。
「今日は、工作場の査察だったんだよね。
どうだった?」
「いやあ、どこの工作場にも戦車を組み立てたような痕跡は、ありませんでした。
あんな大きいものを作ったら、目立つはずなので隠し通せるものではありません。
地区の間を通り抜けたという、目撃情報はありません。
剣地区のどこか広い場所で、組み立てられたのでしょう」
「広い場所って言っても、外から見えない必要があるのよね」
キャサリンの質問に、ファビオは真剣な面持ちになる。
「工作場で無く建物の中で組み上げた場合、外へ出せません。
高い塀に囲まれた大きな庭で組み立てたのではないかと、考えています。
外から見えない大きな庭となると、4つの公国の公爵か、少なくともかなり上位の伯爵の家という事になります」
「つまり、それは4つの公国のうちどれかが、裏切っているという事なのか?」
エドワードが尋ねる。
「その可能性は高いですね。
というか、皇室を恐れていないことや、剣地区の市街地で戦おうとする所など、公国レベルのバックが無いと、辻褄が合わないでしょう。
どこかの公国が裏切っているなら、かなりヤバイですね」
「ファルマイト公国はターゲットになっている訳ですから、残り3国のうちのどれかですわよね?」
キャサリンが、自分達では無いことをアピールする。
「まあ、裏切っている国が一つとは限らないですけどね。
下手すると、残り3国がみな敵の可能性もある」
自慢げに話すファビオを、ソフィアがたしなめる。
「いいのか?
そんな話を私たちに聞かせて。
軍事機密のように思えるんだが」
「陛下御夫婦と皇子に聞かせるのに問題は無いでしょう。
後は、皇子の婚約者とその直衛騎士ですよ。
逆に、どの公国が敵か味方かは重要です。
味方であるファルマイト公国の代表ともいえるキャサリン様に、不信感を持たれては一大事です。
ここは、包み隠さずお知らせすべきと存じます」
ファビオの言葉に、皇帝もうなずく。
「ワシもファビオの意見に賛成だ。
ソフィア殿、そなたも公爵令嬢の直衛騎士。
そのように忌憚なく意見を述べる姿勢、素晴らしいことだ」
「恐れ多い言葉をありがとうございます。
恐れながらお聞かせ願いたいのですが、4つの公国は帝国の平和の礎のはず。
そこが盤石でないとしたら、大きな危機のように思えるのですが?」
ソフィアの質問に、皇帝陛下は言い難そうに答える。
「今回の一連の事件は、相当根が深いと思っている。
エドワードが狙われる動機が、分からんのだ。
長男と次男は、東西の防衛の要で、命を賭して頑張ってくれている。
3男から6男までは、すでに爵位と領地を持って独立しておるのだ。
7男のエドワードは、ファルマイト公国に婿入りすることになるだろう」
「そうと決まったわけでは無いと思いますよ」
異議をさしはさんだファビオに、皇帝陛下は理解できない様子だ。
「しかし、エドワードは領地を含めて貴族としての生活基盤がないぞ。
婿入りするのが、普通の道だと思うのだが?」
「今のままなら、そうかも知れません。
しかし、それでもゲオルグ殿下の治める2つの地方のうちの一つは、誰が領主になるか未確定です」
「つまり、そこを狙うものにとっては、エドワードは邪魔者という事か」
「そうです。
そして、帝国の東は魔人の国、西は竜の国です。
同時に攻め込んできた場合、長男次男のお二人同時にお亡くなりになる可能性があります。
というより、それを狙っている者がいた場合、エドワード様、次にゲオルグ殿下が狙われることになります」
「ええっ?
どうして、いきなり俺が狙われることになるんだ?」
エドワードは、驚きを隠せない。
次回更新は、10/15(木)になります。
ポイントとブックマーク有難うございます。
ついに、過去作品比ほぼ最高ポイント達成しました。
モチベーションが上がります。




