61.皇子の全快祝い
正式に婚約した2日後、キャサリン達はお城に集まった。
皇子の全快祝いのホームパーティーを、お城の中庭で開くことになった。
さすがに、お城の外で襲撃をされたばかりなので、しばらくはエドワードの外出は許されそうになかったからだ。
少人数で集まって開く簡単なパーティーだ。
キャサリン、ソフィア、エドワード、クララ、エレナ、クララの兄、エドワードの直衛騎士のアランの7人が大きな丸テーブルを囲んで、並んで座った。
まず、クララが新しく出来た兄を紹介する。
「実はハイデルベルク家の娘になって、急に兄が出来ました。
オットー兄さんです」
「こんにちは。オットーです。
妹は知らなかったようですが、この場で初めて会う方はいらっしゃいませんよね」
オットーに言われて、クララは驚く。
「ええっ?
みんなオットー兄さんのこと知っているの?
この間初対面だったのは、私だけ?」
「オットーさんは、僕たちも参加した勉強会の一員だったんだ」
エドワードが解説する。
「勉強会って、何の?」
不審げなクララに、オットーが答える。
「爆薬の平和利用勉強会っていうのがあったんだ」
「爆薬の平和利用?
爆薬を平和に利用するなんて出来るの?
爆薬って、何でもかんでも吹っ飛ばすためにあるものでしょう」
「い、いや、み、道を造ったり、その、あの、色々役に立つんだよ」
オットーは、しどろもどろだ。
「兄さん。全然勉強できていないんじゃない?」
クララに責められて、オットーは小さくなっている。
「ただ吹っ飛ばすだけの道具と考えたら、戦争にしか使えなくなってしまいます。
そうじゃなくて、例えばその爆発力を動力に使ったりとか、新しい使い方をみんなで考える勉強会だったのですわ」
「ああ、キャサリンさんのその説明だったら分かるよ。
兄さん、しっかりしてよね」
「ご、ごめん」
「ハハハ、もうクララの方が上の立場みたいになってるんだな」
エドワードが、からかう。
(勉強会に呼ばれていたことからも、このオットーさんも私の夫候補だったのよね。
万一婚約破棄されたときは、また繋がりが出来るかも知れないわ。
オットーさんが夫になって、子供が出来てオットーさんがお父さんになったら、ギャグみたいね)
勉強会の時は、上級貴族の中でもイケてる男子ばかり集めてあったので今一だったが、こうしてみると一般的にはイケてる部類だ。
「もし皇子に捨てられたときは、よろしくお願いします」
思わず、口に出してしまった。
「俺は、キャサリンを捨てたりなんかしないからね!」
横からエドワードが言い切る。
「さて今日は、俺の快気祝いに集まってくれてありがとう。
見てもらって分かるように、俺はすっかり元気だ。
キャサリンとの婚約も、両家の間で契約書も取り交わした。
多分婿養子に入ることになるから、俺も尻に敷かれてオットーさんの事を笑えなくなるかもな」
友人たちの砕けた雰囲気のパーティーなので、エドワードが陽気に挨拶する。
「エドワード様、そんな尻に敷いたり致しませんわ」
キャサリンの小さな声を聴いて、女性陣がブーブー抗議する。
「エドワード様ひどい!
体も治って、キレイな婚約者も出来て、調子に乗っているんじゃない?」
「い、いや、その。ごめん、クララ」
「謝るなら、キャサリンさんにでしょ!」
「ごめん、キャサリン」
「い、いえ、そんな謝っていただくようなことでは……」
(でも、やっぱりクララさんとは仲が良いですわ)
「まったく。
婚約者がいるのに、それ以外の女性の尻に敷かれるなんて、皇家の一員として恥ずかしく思っていただかないと。
我々、護衛の者も恥ずかしいですよ」
護衛のアランのわざとらしい言葉に、エドワードは悔しそうだ。
「俺、そこまで言われるほど、ひどかったか?」
ひとしきり大笑いした後、お茶をいただくことになった。
スイーツは、クララ作のシフォンケーキ、お茶は皇室御用達の高級品だ。
まず、毒見役のソフィアがケーキをフォークで小さく切って、口に運ぶ。
みんなが注目する前で、突然ソフィアが苦しみだす。
「ご、ゴフッ、ゴホゴホッ」
「えっ、まさかこんな自作のケーキにまで毒を?」
クララが焦る。
「ち、違います。
甘い食べ物をあまり食べ慣れていない上に、みんなの注目を浴びながら食べたので、せき込んでしまっただけです。
心配させて、すみません」
ソフィアが謝る。
「良かったあ。
今回のケーキは絶対大丈夫と思って油断していました。
もし、ソフィアさんが毒にやられていたら、
『どうしてお前が毒見をしなかったんだ?』
と言って、ファビオ団長に毒入り団子を食わされる所でした」
アランが真剣に言うが、周りのみんなには大うけだった。
「確かにあの団長なら、それ位やりそうだな」
エドワードが、笑いながらケーキを食べ始めた。
「どお? 美味しい?」
クララに聞かれて、エドワードが答える。
「うん。こんな美味しいのは、クララの作るお菓子だけだ。
宮廷お菓子職人を上回るなんて、すごいな」
(やっぱり、エドワード様の胃袋は相変わらずクララにつかまれていますわ)
キャサリンは、ため息をついたが、一口食べて笑顔になる。
口の中でスッと溶けて、ほのかな甘みが口の中に残る。
とても上品な味だ。
(私の胃袋も、つかまれそう)
「本当に美味しいです。
クララさん。ノーベル家の専属料理人になるつもりは、ありませんか?」
「キャサリン様とエドワード様はご夫婦になるんだから、確かに専属料理人になったら、ずっとこのメンバーでスイーツを食べられるね」
クララが、ナルホドという顔をしているのを見て、エレナが否定する。
「クララ様、もう伯爵令嬢なのですから、料理人にはなれませんよ。
貴族としての自覚を持っていただかないと」
「でも、貴族料理人ってカッコ良くない?
対立する貴族を、一緒にまとめてパーティーに招いて、美味しいスイーツで仲直りさせるの。
このストーリー良いわね。
帝都で流行っているナロー小説を、私も書こうかな?」
「だから、冗談でもおやめください。
ただでさえ、クララ様は目立つんですから」
エレナがハーッとため息をついて、脱力している。
確かに、帝都ではハーフエルフの貴族は初めてだし、聖女だし、教会の入り口の絵も彼女の作品だ。
目立って仕方ないだろう。
(ゲームの中で主人公クララは、ちょっとおっちょこちょいだったけど、慎ましくて大人しい女性のはずだった。
随分印象が違うわ。
やっぱり中身は転生者で、逆ハーレムを築くつもりなのでは?)
キャサリンは、また少し警戒心を強めた。




