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ばくやく令嬢しか勝たん  作者: 御堂 騎士
第4章 ばくやく令嬢 婚約するも、命の危険におびえる
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60.仮想仲良し姉妹

 婚約の書類取り交わしに伴う一連の退屈な行事の後、グラスが配られて、乾杯となった。


「本日は、万全の態勢でお酒とジュースを用意させていただきました。

 皆さま、安心してお召し上がりください。

 それでは、かんぱーい」

 ノーベル公爵の音頭で、みなグラスを合わせた。


 身長が高く頭が一つ抜けたソフィアが、グラスを高く持ち上げてから口に持って行き、赤いワインを飲みほした。

 30秒ほどして、ソフィアが笑いながら、

「ほら、大丈夫ですよ」

 と言うと、みな本当に安心してグラスを傾け始めた。


 会場は、歓喜に包まれた。




 エドワードはキャサリンの隣にやって来て、ジュースのグラスを合わせた。

「「かんぱーい」」


 チーン


 きれいな音が響く。

(このキレイな音は、上等なクリスタルガラスね。

 お父さまが研究して、ファルマイト公国のクリスタルガラスは透明度が抜群だって聞いているわ。

 でも、クリスタルは結晶だけど、ガラスは結晶じゃ無いから、おかしな名前ね)


 などと、彼女は元理系女子らしく、ムードも何もないことを考えていた。




「ついこの間、あんなことがあったんで、ジュースを飲むのも緊張しちゃうよ」

 エドワードが笑顔で話しかけてくる。


「しばらく、サクランボジュースは飲めないんじゃないですか?」


「本当だね。ハハハ」


 公爵家の配膳係は気をつかったのか、エドワード達のジュースはリンゴジュースだ。


 キャサリンは、ジュースのことにも安心していたが、エドワードとスムースに会話できたことの方を喜んでいた。




 乾杯の後、歓談で盛り上っている場内をウロウロしている者がいる。


 キャサリンの横にいるソフィアに、騎士団長のファビオがスルスルと近付いて来た。

「ワイン一杯くらいでは、何の影響も無いんですね。

 ほのかに酔ったソフィアさんも見てみたかったのですが、さすがです」

 残念そうに言う。


「少しくらいの酒に飲まれないのは、騎士団の基本だろう」

 ソフィアは、事も無げに言い切った。


 当然、ソフィアは最初の一杯だけで、それ以降酒に口を付けていない。

 必要以上に酒を飲まないことは護衛としては当たり前なのだが、ファビオは気にもせず飲んでいるように見える。


 突然の襲撃から皇后陛下と皇子を守り切って、ほとんど損害も無い。

 そのことを自慢するでもなく飄々(ひょうひょう)としていることに、ソフィアは好感を持っていたが、お酒ではコッソリ減点を喰らっていた。




 少し顔を赤らめながら、ファビオがソフィアに話しかける。

「エドワード様は産みの母上を亡くされているので、皇后陛下が母親となられました。

 もし私が、ソフィアさんに求婚するとしたら、どなたにあいさつすれば良いのでしょうね?」


「また、こいつは馬鹿なことを言い出したな。

 そうやって本業が疎かになるから、護衛は酒を慎まねばならんのだ」


 ソフィアが取り合わないのに、ファビオ団長は続ける。

「ファミリーネームが『セレステ』という事は、教会なのですか?

 大司教に許可をもらうことに、なるのですかね?」


「今の私があるのは、全て公爵閣下のお陰だ。

 私の身の振り方について許可をもらうのであれば、公爵閣下以外に考えられない」


「ということは、公爵閣下が親のようなものか。

 キャサリン様とは姉妹のようなものですね」


 ソフィアの声が大きくなる。

「ば、馬鹿! そ、そんな恐れ多いことを言うんじゃない!」


 大きな声に驚いたキャサリンが、間に入る。

「恐れ多いなんて、とんでもないですわ。

 ソフィア。

 私は、あなたのことを頼りになるお姉さんのように思っているわ」



 突然、ソフィアがうつむいて泪をこぼす。


 キャサリンが、動転して謝る。

「ご、ごめんなさい。

 何か気にさわることを言ってしまったかしら?」



「お、恐れ多いです。お嬢様。

 わ、私は、これまでずっと、一人でした。

 家族と呼べる者はいなかったのです。

 そ、それは、お嬢さまのような妹がいればと思ったことは幾度もございますが、私はお嬢様の従者です。

 身分は、わきまえないといけません!」


 いつも強い所しか見せないソフィアの泪。

 一瞬、キャサリンは呆気にとられたが、ゆっくり話し始める。

「お父さまのお陰で今のあなたがあるのだとしたら、ソフィアのお陰で今の私があるんですよ。

 もし許されるなら、こうお呼びしたいですわ。

 『ソフィアお姉さま』」

 キャサリンが、ソフィアの手を取る。


「お、お嬢さま、おやめください。

 もったいない、もったいないお言葉です。

 それ以上言われたら、私、嬉しさのあまり憤死してしまいそうです」


「でも、私の本心です。

 帝都への道のりでも、オークの村でも、あなたが横にいて下さることで、私はいくつものピンチを乗り越えることが出来たんです」


 いつもいつもキャサリンの事を考えて、自分を殺して横に立っていてくれる。

 そんなソフィアに対しての感謝の気持ちが溢れ出してしまって、キャサリンも泪が出てきた。


 二人は手を取り合って、泪に目を濡らしながら見つめ合っている。




「やれやれ、今俺がどんな愛の言葉をささやいても、聞いてもらえそうにないな」

 ファビオが、落胆した様子を見せる。


 横からエドワードが抗議する。

「騎士団長!

 俺の婚約者が、あなたのせいで別世界に入ってしまいましたよ。

 今日は俺が主役なんですから、本っ当に、わきまえて下さいよ!」






 その日の夜、寝室に向かおうとするキャサリンにソフィアがひざまずいて、挨拶する。

「おやすみなさい、お嬢さま」


 キャサリンは、ソフィアに近寄っていくと頬にキスをする。

「ウフフ、おやすみなさい。ソフィアお姉さま」


 キャサリンが寝室に入ると、ドアの外からソフィアの叫び声が聞こえてきた。

「う、ウオーーーッ!」


 ソフィアは、本当に憤死しても悔いなしと思った。


次回は、10月8日(木)です。

木曜日更新は少し間が空きますが、是非読んで下さいね。

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