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ばくやく令嬢しか勝たん  作者: 御堂 騎士
第4章 ばくやく令嬢 婚約するも、命の危険におびえる
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56.皇子の毒殺未遂事件

 婚約披露パーティーの会場に、ワルツが鳴り響く。

 皇立楽団が演奏を始めた。

 キャサリンは、エドワードにリードされてクルクルと踊る。


 前世では全く踊れなかった明神みょうじんさくらだったが、キャサリンは貴族としてキチンとダンスの教育を受けていた。

 それにしても、エドワードのリードは見事だった。


 会場の照明が一気に明るくなると、いつの間にか同じ赤のドレスとタキシードを着た何十組のカップルが、皇子のカップルと同時にクルクルと回る。

 キャサリンが深紅のドレスを選んだのは、今日の朝だ。


 恐らく会場に姿を見せてから、エキストラたちに赤のドレスを着せたのだろう。




 まるで舞台の1シーンのような華やかな光景に、見る者は皆くぎ付けになる。


 クララも口を開けて、ポカーンと見入ってしまった。


「本当に素敵。

 大輪のバラの花が、大きなホール一杯にクルクル回っているみたい。

 こんな披露パーティーを開けるなんて、さすが皇室と公爵家なのね」


 思わず口をついて出た言葉に、ハイデルベルク伯爵が焦ったような口調で言う。

「クララが開きたいなら、いつでも開いてやるぞ。

 お前には、生まれてから10年間何もしてやることが出来なかったんだから」




 曲目が変わって、スローバラードが流れる。

 歌手が、情感を込めて歌を歌う。


 前世では、日本の庶民が触れることはほとんど無い種類のダンスだが、貴族としての教育を受けているキャサリンには、特に問題は無かった。

 逆に、前世でダンスなど踊ったことが無かったので、戸惑わずに済んだ。




 踊りながら、エドワードがささやきかけてくる。

「キャサリン。

 俺は、その、女性を喜ばせる方法をよく知らない。

 だから正直に言うと、この演出は執務官たちが知恵を尽くして用意してくれたものだ。

 失望しちゃったかな?

 でも、俺が君を思う気持ちは、これから行動で示していきたいと思う」


「ええ、よろしくお願いします」


 キャサリンはエドワードの胸の中で、天にも昇りそうなほど気分が高揚していた。

(ああ、エドワード様とこんな素敵な夜を過ごせたなんて、まるで夢の様。

 これで、いつ婚約破棄されても悔いはありませんわ)




 3曲ほど踊って、二人は用意された椅子に座った。

 テーブルの上に、ジュースが置かれている。


「ところでキャサリン。

 これで、僕たちはもう婚約者になったわけだ」


「え、ええ。そうですわね」


「君が12才になったら結婚出来る訳だけど、君はどうしたい?」


 キャサリンは考え込んだ。

(ゲームの中で私が破滅するのは、16から18才の間よね。

 15才から魔法学園に入学する。

 最高位の貴族令嬢として、楽しい学園生活を送れる。

 でも、サッサと結婚して学園に入学しなければ、破滅へのルートはほぼ無くなる)


「あっ、ご婚約おめでとうございます。

 仲良いですね。お二人さん!」

 笑いながら、クララが同じテーブルの席に座る。


「クララ。お前、大事な話の邪魔すんなよ!」

 エドワードが、クララを邪険に扱う。


「あれっ?

 ついこの間まで私のスイーツにメロメロだったくせに、きれいな奥さんがもらえると思ったら、いきなりそれかよー。

 妬けますね、だんなー」


「いや、いいよ。

 お前は、そういう奴だったことを今思い出したよ」


「ゴメンゴメン。

 ほんの冗談だから、マジに取らないでね。

 本当に、祝福しているんだから」


 キャサリンとの間で一言二言かわすくらいの時間で、クララとは怒涛のように話をする。

(ウウーッ、やはり本質的に敵わない気がする)


「あ、あの、クララさん。

 お祝いありがとうございます。

 エドワード様、私も婚約いただけて嬉しく思います。

 でも、もし政略で決心されて、この先好きな方がいらっしゃったら、婚約破棄されても私は大丈夫ですから。

 お気になさらないでくださいね」


 キャサリンの言葉に、クララが驚く。

「キャサリンさん。

 こんなめでたい日に何をおっしゃっているんですか?

 テデ……、エドワード様もちゃんと『君を離さないよ』とか、口説き文句が足りないんじゃないですか?」


「余計なお世話だよ!

 キャサリン、本当に馬鹿なことを言わないでくれよ。

 大体、クララが変なことを言うから……

 い、言うから……」


 突然、エドワードが飲みかけのグラスを取り落とした。


 ガシャーン


 パーティーの主役が、突然倒れた。

 会場は騒然となった。


 クララが、エドワードを抱きかかえて聞く。

「あなたの名前は何?」


「エ、、、エ、、、」

 答えられない。


「脈も呼吸もある。

 毒を飲まされた症状のように見えるわね」


 喉に指を突っ込んで、ハンカチの上に吐かせる。


「治癒魔法、解毒デトキシファイ

 クララが迅速に治癒魔法をかけて、エドワードの顔に血の気が戻ってくる。


「す、すまない。

 この場に、せ、聖女様がいてくれて、助かったよ」


「無理して喋らない!

 水を飲ませたいけど、毒を盛られた可能性があるから、この場では水をあげられないわ。

 誰か、すぐに休める所まで運んでください!」


 キビキビと指示するクララのお陰で、エドワードは一命をとりとめた。


 エドワードの護衛が、エドワードが飲んでいたジュースを落ちたグラスから回収した。

 魔法で水分を球状にして回収する様を、キャサリンは呆然と見守っていた。




 近衛兵から呼ばれて、やっと正気を取り戻したキャサリンは、ベッドに横たわるエドワードの横に立った。

「エドワード様。

 大丈夫ですか?」


「ああ、もうすっかり大丈夫なんだが、ベッドから起き上がると衛生兵に怒られるんで、この状態で失礼するよ。

 本当に、心配かけてすまなかった」


「申し訳ありません。動転してしまって、全く役に立ちませんでした。

 本当に、クララさんがいなかったらどうなっていたか」


「キャサリンは、いつもそう言って前に出てこないけど、今も俺の横にいてくれるじゃないか。

 本当に、倒れるのが婚約の申し込みの後で良かったよ。

 前に倒れたら、有耶無耶になったかも知れないからね」


「そ、それだけは本当に良かったですわ」




 部屋の中が沈黙に包まれると、近衛兵がドアをノックした。

「聖女クララ様が、お付きの方と共に面会をご希望ですが、どうされますか?」


「ああ、通してくれ」


 しばらくすると、クララとエレナが部屋に入って来た。


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