55.ばくやく令嬢 ついに婚約
ゲオルグが旅立ってから一週間が過ぎた。
爆薬勉強会も無くなったが、絵の授業もお休みの連絡が来た。
キャサリンは、帝都で手持ち無沙汰になってしまった。
そんな折、驚くべき報せが来た。
まさに、良いニュースと悪いニュース。
まず良いニュースだが、エドワードから婚約申込書が送られて来た。
ついては、一週間後に婚約披露パーティーを行うから来て欲しいとのことだ。
キャサリンは小躍りして喜んだ。
だが、悪いニュースは良いニュースを打ち消す可能性のあるものだった。
クララが、晴れて伯爵令嬢になった。
ゲオルグの拝命式で、ハイデルベルク伯爵がクララを見て、彼の娘であることに気付いたのだ。
通常、帝国では人間以外は貴族になれない。
だがエレナの話によると、それは貴族からの推薦を受けられないからだそうだ。
強引なハイデルベルク伯爵は、間違いなくクララを推薦する。
貴族になれば、15才でクララは魔法学園に入学してくるだろう。
ついに一旦へし折ったフラグを、立て直されてしまった。
ゲームの中でキャサリンはエドワードと婚約したが、彼の心は常にクララのものだった。
とにかく、クララの事はケアしながらエドワードと婚約だ。
限界を見極めて、婚約破棄に応じる覚悟だが、命がかかっているので、早い目に逃げる準備はしておく。
ゲームの中でキャサリンがエドワードに殺されるのは、婚約破棄に応じなかったせいなのだ。
少なくともキャサリンは、そう考えていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
あっという間に、婚約披露パーティーの日が来た。
パーティーには、クララが呼ばれていることは間違いない。
伯爵令嬢になったばかりなので、お披露目にもなるし、聖女である。
皇室は、彼女を呼ばない訳にはいかない。
キャサリンは、この日のために色々なパターンを想定して考え抜いていた。
まず、ゲームの中でエドワードがキャサリンにプロポーズしたのは、パーティーの最中だ。
クララが転んで、キャサリンの純白のドレスにジュースをこぼして、キャサリンの取り巻きに責められる。
それを見かねたエドワードの援護射撃が曲解されて、キャサリンにプロポーズすることになる。
白系統の色のドレスは着ない。
クララがこぼしたジュースはピンク色だった。
万一こぼされても目立たないように、深紅のドレスを選んだ。
キャサリンは、少し早い目にパーティー会場に到着した。
しっかりと様子を見て、状況を把握するためだ。
残念なことにというか、幸いなことにというか、現在キャサリンの取り巻きは存在しない。
帝都に来て、仲良くなったエリザベスは領地に帰ったし、同世代で仲の良い貴族の女の子は、クララ一人なのだ。
だから、会場には知った顔が一人もいなかった。
ウエイターが、キャサリンにジュースを渡してくれた。
サクランボ味のピンク色のジュースだ。
立ってジュースを飲んでいると、遠くから声をかけられた。
「ヤッホー、キャサリンちゃーん。元気ー?」
純白のドレスを着たクララが走ってくる。
まさか、このピンク色のジュースをクララの純白のドレスにこぼして、仕方なくエドワードがクララにプロポーズする。
そんな悪夢のような展開が頭に浮かんだ。
キャサリンは、急いでジュースを飲み干した。
「こ、こんにちは。元気ですわよ。
クララさんは、いかがでしょうか?」
「もっちろん、元気だよ。
おめでとうございます。
今日は婚約披露パーティーなんですよね。
ソフィアさんとファビオさんといい、私の周りに幸せなカップルが次々と生まれて、私も幸せですよ」
「ありがとうございます。
聖女でもあるクララさんに祝ってもらえるなんて、とても光栄ですわ」
「お友達なんだから、祝うのは当然だよ。
あ、それと私、急に貴族になっちゃった。
でも、キャサリンさんとエリザベスちゃん以外に貴族の女の子なんて知らないから、実はどうしたらいいか、よく分からないんだ。
だからと言って気安く話しかけすぎってことなら、早く教えてね」
※この世界では、男性は貴族になるのに魔力か戦闘力が必要だが、女性は必要ない。
子供を産むことが出来るというのが、その理由だ。
したがって、○○爵令嬢、××爵夫人というだけで貴族になる。
クララの後ろから、体格の良い中年の男性が話しかけてくる。
「キャサリン様。
娘が、いきなり無礼な態度を取って申し訳ございません。
私は、フリードリヒ・フォン・ハイデルベルクです。
以後、お見知りおきをよろしくお願いいたします」
一礼して、クララの手を引いて離れていく。
小声で、
「おいおい、公爵令嬢に気安く話しかけるんじゃない」
と言っているのが聞こえる。
この人が、クララの父のようだ。
戦争があまり起こらなくなって、珍しくなったアイパッチをしている。
伊達政宗か、夏侯惇かと言いたいが、この世界にはそんな名前の人はいないだろう。
次々と、知らない人々が挨拶にやって来る。
「キャサリン様、おめでとうございます。
いつまでもお幸せに!」
「ありがとうございます」
10何人か、そんなやり取りをしていると、突然会場の照明が暗くなった。
「えっ? 何事?」
と思っていると、キャサリンはスポットライトで照らされた。
もう一つスポットライトが点くと、その中心にはバラの花束を持ったエドワードがいた。
スポットライトを連れてエドワードが、キャサリンの方に歩いてくる。
2つのスポットライトが一つになると、エドワードが跪いて、花束をキャサリンに差し出す。
「我が愛しのキャサリン姫。
私は、あなたと一緒に人生を歩むために生まれてきた者です。
あなたが、ともに歩んでくれるなら、私は燃え盛る炎の中でも、凍てつく氷河の氷の中でも、あなたのために微笑んで見せましょう。
そのような覚悟で、このバラの花をお送りします。
私の求愛を、受けて頂けますか?」
「キャーッ!
エドワード様、素敵!」
悲鳴のような声が場内に響く。
明るく照らされた、短い金髪の下にある白くてスベスベそうな肌の顔。
上気してツヤツヤと光っている。
整った形の顔の中心に理想的な高さの鼻、美しい碧の瞳。
小さな口から、奏でられる詩のような口説き文句に、キャサリンはのぼせそうだ。
だが、ここは踏ん張りどころだ。
彼女は、心の中で自分に気合を入れた。
「は、はい、喜んでお受けいたします」
キャサリンが答えると、会場は大きな拍手に包まれた。
次回投稿は、9月26日(土)15時の予定です。




