54.お猿のキキの危機
このままなら、弩弓の準備が出来次第、お猿のキキは弓矢の攻撃を浴びて、矢が刺さるか墜落のショックで死んでしまう。
「ちょっと待って。
私、あの猿のちょっと下までならいけると思う。
捕まっているのももう限界だと思うから、誰かが脅かしたら落ちてくるはず。
あの大きさの猿なら、十分受け止められると思うの」
クララが、ファビオの前をふさいで一生懸命にアピールする。
聖女様に止められて、ファビオ騎士団長は困り顔だ。
「本当に受け止められるのかしら?
あの高さで、壁の石の段差につかまってですわよ。
無理じゃないかしら?」
キャサリンが、クララをなだめる。
「絶対に受け止めるよ!
猿が可哀そうだし、少し下で受け止めたら、ゲオッチの剣だって傷つかずに済むじゃん」
「分かりました。
じゃあ、すごい音で脅かしますから、耳栓をしてください」
キャサリンの言葉を聞くと、クララはテーブルの上にあったニンジンスティックを2本それぞれの耳に差し込んで、梯子を登っていく。
梯子の一番上から、もう一度器用に猿の真下まで移動する。
そこで、手を振っている。
キャサリンが、ソフィアに野球のボールくらいの大きさの玉を渡す。
「ソフィア。
この玉を猿の真横あたりを狙って投げて下さい」
「分かりました。お嬢さま」
ソフィアは振りかぶって、力いっぱい玉を投げる。
ソフィアが投げた玉は、猿が捕まっているポールのわずか横をかすめていく、と思った瞬間破裂した。
ドッカーーーン
物凄い爆発音が辺りに響いた。
あんな大爆発を真横で起こしたら、猿は探せないような場所にポールごと吹っ飛んで行ってしまう。
と、みんな思ったが、お猿のキキは、ビックリしてその場にポトリと落ちた。
下で待っていたクララが、剣を持ったキキを見事にキャッチした。
クララは、上手に梯子の上部まで移動すると、ゆっくりと梯子を降りてきた。
「しっかし、すごい音だったね。
耳栓していなかったら、私もポトリと落ちていたよ」
クララが笑いながら解説する。
「風魔法で、爆発の音だけ再現したんです。
人呼んで音響手りゅう弾です。
最近、私の事を『ばくやく令嬢』と呼ぶ方が多くなったので。
ハッタリ用にいくつか持ち歩いているんですよ」
「しっかし、驚くべき連係プレーですね。
でも、強調すべきはソフィアさんのコントロールあってこそ、でしたね」
言い寄ってくるファビオ団長に、ソフィアは素っ気ない態度をとる。
この二人の関係も、いつも通りだ。
「騎士団のメンバーでも梯子の無い所は行けなかったのに、クララは楽々とあんな所まで登っていくし。
あんな危ない場所に、何の躊躇もなく飛び込んでいくなんて、まるで弾丸みたいだな。
キャサリンは、とっさにあんな秘密兵器を披露するし。
爆薬令嬢と弾丸娘は本当の名コンビなんじゃないか?」
エドワードが、両手を広げて感心している。
クララは満面の笑みで喜び、キャサリンは少し戸惑い気味の微笑みをたたえていた。
「二人ともありがとう、本当にありがとう」
ゲオルグも、目に泪をにじませて喜んでいる。
「いやあ、すまんすまん。
キキがあまりに可愛かったので、つい式典にも参加させてしまったが、二度とこんなことの無いように気を付けるよ」
皇帝陛下も反省しているようだが、結局けが人も出ず、賜剣も無事だったことから、緊張感が感じられない。
側近の者達は、(またやらかしそうだな)と心の中で思っていた。
リスザルの知能では、善悪の判断はできなかっただろうという事で、キキはおとがめなしになった。
あの高さからの落下が怖かったのか、この後数日オリから出てこなかったが。
その後、貴族議会が開かれて、ナードハート城での式典に猿の入場を禁止する法律が賛成多数で可決されることになる。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
式典の翌日、滞在費がもったいないという事で、エリザベスが早々に領地に帰って行った。
約束通り、ウサギのアジーンはクララのものになった。
ただ、ウサギは環境を変えない方が良いと聞いて、芝生の小屋にそのまま飼われることになった。
基本的な世話は、エレナがやる。
貴族のお嬢様が使用人の独身寮に入るという事で、特別に出た芝生の使用許可だったが、聖女となったクララのお願いで継続使用可能となった。
数日後、ゲオルグも赴任して行った。
キャサリンは、彼女の周りのイケメン皇子が一人減ってショックだ。
遠くに離れてしまう。
別に親密にならなくても、目の保養が出来なくなってしまうのが残念だ。
だが、彼にとって今回の赴任は、そんな生ぬるいものでは無かった。
元々のゲオルグの直衛部隊をそばに置いているが、リックドム伯爵家の直衛部隊をその下に従えて、しかも伯爵の軍隊の本拠地に司令官として乗り込む。
対処のために帝都の優秀な文官や軍人が何人か、ゲオルグの配下に引き抜かれた。
リックドム伯爵の治めていた領地は、アイアンフィスト山脈を境にヴァルダス地方とシューレル地方という文化の違う2つの地方だそうだ。
エレナによると、ゲオルグが赴任するのはあくまで管理の為らしい。
将来2つの地方のうち1つはゲオルグの領地になるだろうが、もう一つをどうするか皇帝の一族と有力貴族の間でせめぎ合っているそうだ。
本音では、力強く支えてくれるパートナーが欲しかった。
キャサリンもクララもまだ10才だが、12才で成人したゲオルグよりも力強く大人だ。
彼女たちとは結婚できないまでも、婚約者として任地に連れていくことは可能だ。
キャサリン目線では、ゲオルグが生命力にあふれてガンガン進むクララに拘ることは当たり前だった。
でもゲオルグは、本当に危ない所へ赴任する。
クララだと、敵地にいるのにコントロールできない存在になるだろう。
理想的には、貴族社会を理解し、冷静に状況判断出来て卒なくピンチを切り抜けるお嬢様の方を連れて行きたかった。
そのお嬢様を連れて行くのは政略上難しいこともあったが、皇帝の息子という立場を利用して本気で掛け合えば、娘思いのノーベル公爵は折れただろう。
兄弟ができることも伝わっていた。
そこまで出来なかったのは、彼女が自分に好意を向けてくれない、弟たちと仲良くやっているという思いがあったからだ。
クララには、次善の策をとっていることを気取られて振られたようなものだ。
城から帝都の大門まで華やかなパレードの中、手を振りながら出発して行ったが、彼にとって茨の道が続くことになる。
「キャサリン、クララ。
僕にとって魅力的な女性が同時に現れたせいで、どっちつかずになってしまった。
この試練を一人で乗り越えないといけないのは、その報いだ。
僕は負けないよ。きっと乗り切って見せる。
君たちが成人した時、自分の方から僕と一緒になりたいと言うような立派な男になって見せるからね!」
ゲオルグは決意も新たに出発した。
☆あとがき
次回更新は、予告通り9/24(木)の予定です。
次回から新章に入ります。
いよいよ、皇帝の跡目争いに巻き込まれていきます。
引き続き、お読みいただければ幸いです。




