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512.猛毒

 皆の視線がクララと黒い影の方に集中している中、黒い影を導いたと思われる天使が漏らす。

「クックック、大鯨でも1分で死ぬと言われる猛毒だ。

 小さなハーフエルフでは、数秒も持たないだろう」


 エレナが、クララの横に一瞬で転移した。

 エレナは、黒い影に攻撃したのだろう。

 魔法なのか、物理攻撃なのか、黒い影は跡形もなく消滅した。



「ううっ」

 短剣が刺さってうめいているのは、クララではない。

 エレナとクララの間に、もう一人いる。


 守護天使のカルデラだ。

 クララが刺される瞬間に、間に入って刺されてしまったようだ。


「カルデラ、何てバカなことを……」

 クララが言葉に詰まる。


「え?

 友達のピンチに思わず助けに入っちゃうことが……、バカなことなの?

 まあ、死んじゃうかもしれないんだから、バカなことか」

 カルデラは、一人で納得顔だ。


 クララは、カルデラを抱き寄せながら叫ぶ。

「誰か、解毒剤を持っていないの?

 サナンダさん、解毒の魔法は使えませんか?」


 サナンダは首を横に振る。

「クララさん、毒というのは何種類もあるんです。

 出血性毒でないことは見て分かるんですが、神経毒なのか内臓機能を破壊する系なのか、毒によって解毒方法が真逆になったりもするんです」



 アジサイが、上位天使を問いただす。

「アンタたちは、毒の特性を知っているんでしょ?

 何の毒なの?」


「知らんな。

 毒は、毒としてしか認識しておらん。

 あのナイフは、あらゆる動物を1分以内に殺せる毒が付与されている武器として入手したものだ」


「じゃあ、アンタたちが間違って食らった時のために解毒剤を持っているでしょ。

 出しなさい」


「我らが、そんなミスをするわけなかろう。

 解毒剤など持ち歩いておらん」


「使えない奴らねえ」

 アジサイは、言うや否やエレナと位置変換して、カルデラの横に現れる。



 エレナは、上位天使の横で、大声を出す。

「アジサイさん。こいつらが逃げないように見張っておけということですね?」


「その通りよ、頼んだわよ」

 大声が返ってくる。


 アジサイの声を聞いて、エレナはジッと天使たちを見る。

「何だか見覚えがあると思ったら、あなたたち、前の世界線でクララ様と私に成敗された天使たちじゃないの。

 結局、世界線が変わったおかげで何年か長生き出来て、良かったわね」


「ま、前の世界線だと?

 き、貴様、世界線が動く前の記憶を持っているというのか?」


「当然でしょ。

 そして、今のうちですよ。毒について思い出したことを話せるのは。

 カルデラが死んだ瞬間、あなた達も死にますから」

 エレナは、当然という態度だ。


「毒の中身など本当に知らん。

 平天使の命など取るに足らんしな。

 それよりも、我らを成敗したと言っていたが、本当なのか?」


「あら、前の世界線の記憶って、平天使のカルデラさんでも持っていたから、普通のことだと思っていましたけど」


「どれほど上位の存在であろうと、死んでしまえば、その世界線は終わりだ。

 貴様の言うことが本当なら、我らはその世界線での存在を失ってしまっていたのだろう」


「ウフフフ、成敗したのは本当ですよ。

 あなた達は死ぬ直前、泣きながら命乞いをしていましたけどね」

 エレナがニヤリと笑う。


「そんなはずは無い。

 我らは、気高い主天使だ。

 人間ヒューマンごときに命乞いなどするはずがない。


「この世界線での存在も、ほとんど風前の灯火ですね」

 エレナの笑う表情が、恐ろしいほどだ。

 天使たちは魔法を使おうとするが、アジサイかエレナが結界を張っているのだろう。

 魔法が使えない。




 カルデラの横に現れたアジサイは、躊躇なくカルデラに刺さった短剣を抜く。

「ギャアーー」

 その痛みにカルデラが悲鳴を上げる。


「あ、アジサイさん。お手柔らかにお願いします」


 クララの懇願に一瞥したアジサイが、不満げに答える。

「これもカルデラを助けるためです。

 短剣を早く抜かないと、ドンドン毒が追加されますし、短剣を調べれば毒の種類も分かるかも知れません」


「でも、もう一分くらい経ちそうだよ。

 アジサイさん、急いで」

 クララが、涙を流している。


 クララに抱きしめられながら、カルデラがポツリポツリと話し始める。

「あ、あのさ、クララ。

 私、チカガータが死んじゃった時も、本当は助けに行きたかったんだよ。

 あなたが死んじゃったって知った時、本当に悲しかったんだから」


「カルデラ、無理して話さなくていいよ。

 毒が回っちゃうから」


「そ、それがさ。

 傷口は痛いんだけどさ。

 毒が回る気がしないんだよね」


「もしかして、天使には効かない毒だったとか?」


「そうかも」

 実際、カルデラは元気そうだ。


 通常、毒は体重との比率で効き方が変化する。

 先ほど天使は、大鯨でも一分で死ぬと言っていた。

 カルデラは大鯨どころか、クララと比べても軽いだろう。

 それなのに、ほぼ一分経っても大丈夫そうだ。


 天使は、地上の生物のような実体を持たないという。

 本当に、天使には効かない毒だったのだろう。



 毒を解析したアジサイが、笑いながら薬を傷口に擦り込む。

「これは、光属性の毒みたいね。

 紫色に光っていたから、闇属性とかだと思い込んでいたけど。

 多分、ドラゴン対策だったのね。

 そりゃ天使には効かないわ。

 ただ、他の毒も入っていたから、その解毒はしておくね」


「痛い、痛い。

 お手柔らかに頼むー」

 カルデラは身をよじらせる。


「もおーっ、カルデラ。

 心配させないでよー」

 クララは、カルデラの顔の上に涙をポトポトとこぼしながら抱きしめる。


 キャサリンが、ボソッと漏らす。

「あ、あの、正直に言いますと、私、厳密で冷たい守護天使様より、カルデラさんみたいに人間味のある天使様の方が好きかなーって思います」

 オリガが続ける。

「実は、アタイもそう思ってたニャン」


「人間味のある天使って……

 それ、天使として失格なんですけどお」

 カルデラは、泣きそうな顔だ。


「いいじゃない。そういう守護天使もいたって良いよ」

 クララが、カルデラの肩をポンポンとたたいた。

 みんな、大笑いした。

次回更新は、5月20日(火)の予定です。

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― 新着の感想 ―
キリスト教では聖者候補の人間一人に守護天使と書法天使が二柱ワンセットで付いてくるようですね(笑)
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