47.秘密兵器 ミート爆弾
「爆薬令嬢とジェットストリーム娘。
お前ら、本当に最強の名コンビだな」
笑わない男のはずのエドワードが、満面の笑みだ。
「あのー。
ジェットストリームは、私じゃ無くて犬が使った技なんですけどー」
クララの言葉に、皆大うけだ。
(最強の名コンビ。
何とかこの呼び名をキープしたいものですわ。
この娘とは、絶対に敵対しちゃダメだ。
大体、警護兵に逮捕されて、地下牢に拘留されたんでしょ。
何で、何事も無かったかのように笑っているの?)
「でも、さすがに伯爵の石像をふっ飛ばしたのは、後で問題になるかも知れませんね?」
キャサリンが殊勝に言ってみた。
「良いよ、大丈夫だよ。
全部僕の仕業にすればさ」
ゲオルグが笑う。
「兄さんは、来月プリンス(侯爵)になるんだもんな。
伯爵は、逆らえないよな」
「おいおい、テディ。
軽く言うなよ。
有力な伯爵が、いきなり敵対しているプリンスなんだぞ。
名目はともあれ、権力が無いことだけは確かだな。
領地ももらえないし」
「その点は大丈夫でしょう。
あの3兄弟は、今回の失態も含めて貴族になるのは不可能です。
彼らが15才までに貴族になれなければ、後継ぎはいません。
養子をとらない限り、リックドム伯爵家はお取りつぶしです。
その領地は、ゲオルグ様が管理することになります」
エレナが、やけに断定する。
「養子をとれないとか、僕が領地を管理するとか、まるで裏情報でも握っているみたいだね」
「正確には、養子をとらせないと言うべきですか。
ヴェンデリン様の一件で、皇帝陛下は内心激おこぷんぷん丸だそうです。
今回、ゲオルグ様はその意をくんで成敗したことに、されるでしょう。
女の子二人相手に、護衛含めてやり込められたことは、皇室の盾として不適格ということになりますから、即お取りつぶしもあり得ます。
ゲオルグ様の爵位認定が近いので、その領地確保のために、本当に即座になると思われます」
※激おこぷんぷん丸
すごく怒っていること。怒りの最上級。
「ええっ?
俺達の今回の行動って、そんな風に上の方の政略に組み込まれているのか?」
驚くエドワードに、エレナは眉一つ動かさずに答える。
「当然でございましょう。
恐らく、クララ様が猟犬に食い殺されることまで想定されていたようですし」
(なんで、一線で爆薬ビジネスを進めている公爵令嬢も知らない情報を、当たり前のように知っているの?)
キャサリンの疑問をよそに、クララが笑いながら言う。
「貴族の上の方の人たちも、私の凄い投てき能力を知らないから、計算間違いしちゃうんだね」
「クララ様、最近『投てき能力』という言葉が気に入ってますね?」
エレナが指摘する。
「クララ。お前の場合、凄いのは投てき能力じゃないだろ!」
エドワードも指摘する。
(胆力、クソ度胸、そういった類のものね)
キャサリンは、心の中で同意する。
「私の凄い能力?
ああ、スイーツ創作能力の事ね?」
「ちげーよ!
何でお前を見て、猟犬が逃げて行くんだよ。
熊にも恐れずに向かっていく猟犬が逃げるなんて、絶対おかしいだろ」
何やったんだ? という顔でエドワードがクララを凝視する。
「だから、投てき能力なんじゃないのさ」
「この間の石の攻撃位じゃ、犬が逃げる理由にはならないだろ?」
ゲオルグも、疑問をさしはさむ。
「地下牢に入れられて、私の方こそ激おこぷんぷん丸だったんだよ。
次の日の夜中に、闇に紛れてミート爆弾をかましてやったんだ」
「ミート爆弾?
何それ?」
みんな、頭に?マークが付いている感じだ。
「犬が食いつく肉の塊の中に、練りわさびをタップリ仕込んでおいたんだ。
犬は鼻がきくから、わさびに無臭と刺激遅延の魔法をかけておいたんだよ」
「ミート爆弾は分かったけど、投てき能力と何の関係も無いんじゃないか?」
エドワードが、さらに聞く。
「私の投てき能力で、伯爵家の塀の外から犬小屋の前までピンポイントで着弾させたから。
犬たちは、声も出せずに3時間くらい悶絶していたよ。
それで、私の匂いと悶絶の恐怖が紐づけされちゃったんだね」
「夜中の事だから、誰も気付かなかったってことか。
犬たちも、助けも何もなくて本当に苦しんだんだろうな」
エドワードが考え込む。
「わさびの辛さは、本当に泪が止まらなくなりますよ。
ワンちゃん達、可哀そうだあ」
エリザベスが悲しそうに、というか本当に泪を流している。
「エリザベス様も、大事なバッグを取られたじゃ無いですか。
あんな凶暴な奴らに、情けは無用ですよ」
クララは、力を込めて反論する。
「お前なあ。
犬は命令されてただけだって、自分で言ってたじゃないか」
エドワードが、責めるような口調になる。
「だってえ。
地下牢の夕食って、薄い塩味スープと固いパンだけだったんですよ。
食い物の恨みは恐ろしいんです!
せめて肉の一かけらでも入っていたら、わさびの量もあそこまで非情なことにしなかったですよ」
エドワードは、爆笑だ。
「お前、本当に面白れぇな。
地下牢って、反省させるためにあるんだぞ。
なんで、お返しにミート爆弾を食らわせる方に行くんだ?
普通の女の子は、あんな所に入れられたら泣いちゃうもんだ」
「わだしだったら、絶対泣いちゃうよ。
……
ところで、アジーンたちはいつの間に手懐けただ?
まさか、わだしの知らない所で、エサばやってないだろな?」
「ごめんなさい。
あんな可愛いウサギたちに嫌われてるなんて悔しいじゃない」
「やっぱりかあー。
最近、エサの食いつきが悪いから、おがしいと思ってたんだ」
クララは、自慢げに解説する。
「動物を手懐けるのも、恐れさせるのも、餌を使うのが一番効果的なんですよ」
「クララ、まさか俺達もスイーツで餌付けしたつもりなんじゃ無いだろうな?」
エドワードの追及に、クララは目を逸らした。




