45.ジェットストリームアタック
キャサリンは少し話を聞いて、クララが呼ばれた理由に納得した。
だが、さらに詳しく話を聞くと、クララの事には納得いかなかった。
事の経緯は、こうだ。
彼らが集まる前日、クララが絵の授業をするためにお城に来ると、門の前に3兄弟がいた。
3人は、「ハーフエルフの平民がお城に正面から入るんじゃない」と注意した。
でも、クララは通用口を教えてもらっていないので、何を言われているのか分からない。
怒った3人は、用意していた卵をクララに投げつけた。
「女の子に卵を投げつけるなんて、本当にひどいことをするのね」
キャサリンもそれを聞いて腹を立てたが、クララは全弾受け止めたらしい。
エレナが解説する。
「人間が他の動物に比べて勝っている部分の一つが、投てき能力なのですが、彼らはあまり得意では無かったようです。
あんな山なりの軌道では、クララ様も攻撃されていると気付かなかった位です」
「ちょうど、シフォンケーキを作るのに卵を買いに行こうと思っていたので、『どうして卵をくれるんだろう?』って、思っちゃったものね」
(いやいやいや、男の子3人が悪意を持って投げつけてくる卵を全弾キャッチするって、どこのプロ野球選手だよ)
キャサリンが思っていると、エリザベスがうつむいて、つぶやく。
「わだしは、避けることも出来ずに、服を汚されちまったのに」
(リズ、それが普通だよ)
黙って、ハグした。
エドワードが嬉しそうに言う。
「爆薬令嬢に、卵キャッチ娘だぞ。
本当に、面白れぇ。
こんな面子が揃っているんだ。
あいつらに一泡吹かしてやれないかなあ」
「そんな危ない事をする必要は無いと存じ上げます」
エレナが、なだめるように言う。
「えっ、何で?」
クララの質問に、エレナが順序立てて説明する。
「まず帝国連邦の貴族は、本国の貴族と4つの公国の貴族に分類されます。
本国の貴族は、皇帝ゆかりの者と皇族を守る者に分かれます。
前者は、皇帝との血のつながりが条件になります。
後者は、主に皇帝とその一族を守る能力を持っていることが条件です」
「この間ヴェンがイジメられたけど、人間であることは条件にならないのかしら?」
キャサリンの質問にも、エレナは明朗に答える。
「正確には人間の外見を持つことですが、これは皇帝になるための条件です。
貴族の条件ではありません。
ルール上は、ねこでもウサギでも貴族になれます」
「君、すごいね!
どうしてそんなに詳しいの?」
ゲオルグが驚いたように聞く。
「帝国の貴族は、貴族の推薦を受けた者が女神教の教会の承認を受けて、任命されます。
教会はルールに基づいて、承認の可否を決定します。
私は長く司教様の補助業務をしていたので、多くの貴族の承認作業を実際に執り行いました」
「それで、どうして一泡吹かせる必要が無いと言えるんだ?」
エドワードは不審そうだ。
「先ほども申しましたように、貴族になるには皇帝とその一族を守る能力を持っていることが条件になります。
貴族の方々も勘違いされている方が多いのですが、人間の外見を持つことなどは、正式なルールではございません。
貴族の方々が、独自のルールで推薦するかしないかを決めることは出来ますが、最終承認は教会がルールに則って行います」
ゲオルグが聞く。
「それは、リックドム伯爵家の兄弟は貴族になれないということなのかな?」
「その通りでございます。
伯爵家は、一生懸命人間の外見などの要件を盛り込んだルールの策定を目論んでいますが、いくら貴族間でルールを定めても無駄です。
教会のルールを変えない限り、皇帝の近親者で無くて戦う能力の無い者は、承認されません」
「確かに、奴らは魔法を使えないな。
でも、戦闘能力は測れないだろ。
競技大会とかで八百長すれば、好成績をあげられる。
いくらでも抜け道があるんじゃないか?」
「魔法は生まれつきなので、魔力があるだけで認められます。
しかし、戦闘能力は鍛錬によるものなので、皇族を上回る必要があります。
3兄弟は、同世代にいるエドワード様を上回る成績で無いと認められません。
いつも、優勝されていますよね。
八百長に乗られますか?」
「絶対に乗らないな」
「つまり、彼らは15才で成人するまでに何らかの実績を上げないと貴族にはなれません。
この平和な時代に、戦功を挙げるのは難しいでしょう。
辺境の魔人たちとの戦いの最前線に行くしか無いでしょうね。
しかし、あの太った体形。
卵をクララ様に受けられてしまう貧弱な投てき能力。
戦功を挙げるのは絶望的と考えます」
キャサリンは魔力もあり、公国の公爵の生まれなので、貴族でいられることに不安を抱いたことは無い。
(彼らにも、それなりの事情はあるのね)
結局、仕返しをするかどうかは有耶無耶になった。
その後の話し合いは、クララの作ったスイーツの話と世間話して終わった。
エレナとエリザベスは同じ寮に住んでいることが分かったので、クララ達とエリザベス達は一緒に帰った。
その帰り道、また3兄弟が道を塞ぐ。
「おい、ハーフエルフ!
この前は、貴族の貴重な卵を盗み取るというふざけた行為をしてくれたな。
今日は、俺達がお前の罪を裁いてやるよ」
「私は、投げてよこされたから受け取っただけだよ。
まさか、本気で投げてたとか無いですよね?」
「うるさい! お前、生意気なんだよ!」
そう言うと、3人はそれぞれ合わせて3匹の猟犬を放った。
「キャーッ」
エリザベスが悲鳴を上げた。
一匹が彼女の持っていたバッグを咥えて、ひったくったのだ。
彼女の父が無理して買ってくれた高級バッグが、ボロボロになった。
エリザベスは、悔しくて泪が出た。
「人間は、投てき能力が高いんだよね」
クララとエレナの方に向かった2匹は、クララの投げた石を喰らって止まる。
クララ達は、障害物があって犬が自由に走りにくい寮の庭に駆けこんだ。
3兄弟の長男が、口笛を吹いて一匹を呼び寄せる。
頭に、犬用の兜をかぶせる。
クララは、芝生の柵の中に他の皆を誘導すると自分だけ柵を飛び越えて外に出る。
エレナは、クララのスカートの中が見えちゃうことを心配した。
クララは仁王立ちすると、3兄弟と対峙する。
3兄弟は叫ぶ。
「ガイア、オルテガ、マッシュ!
ジェットストリームアタックだ!」
命令された3匹は、縦に一列に並ぶとクララに向かって突進する。
クララは石を投げるが、先頭のガイアは兜で跳ね返す。
ガイアがクララに噛みつこうとした瞬間、クララは跳び上がる。
ガイアの頭を思い切り踏みつけて跳んだ。
「ガイアを踏み台にした?」
ガイアは反動であごを地面に打ち付けて、その場でもんどりうった。
後ろにいるオルテガの顔面に、クララの投げた石が直撃する。
しかし、3匹目のマッシュが大ジャンプして、クララの頭の上から噛みつこうとする。
クララの背中から、ツノウサギがジャンプする。
エリザベスの飼っているオスウサギのアジーンだ。
マッシュは、アジーンのツノの頭突きを喰らって、噛みつこうと開いていた口を強制的に閉じられた。
ショックで着地に失敗して、脚を痛めたようだ。
「ジェットストリームアタック、破れたり!
大体、女の子相手に猟犬を仕掛けるなんて、何考えておられるんですか?
貴族相手に無礼を働いたら捕まっちゃうから、手出ししないけど。
証拠が残らないように、骨まで焼き尽くすかもしれないですよ」
最後の一言が余計だったようだ。
クララは、騒ぎを聞きつけてやって来た城の警護兵に拘束されてしまった。




