44.レット・イット・ビー
キャサリンは勉強会の日まで待てず、エリザベスの所へ行って、女神ラスナ様のことを聞きまくった。
エリザベスは結構熱心な信者で、キャサリンの知りたいことを大部分答えてくれた。
女神ラスナ様は、現生利益系の神様で数々の奇跡を起こしているようだ。
それこそ、人間がこの世界で主導権を握れたのも、熱心に信仰した賜物だということだ。
帝国の繁栄は、女神教を国教に定めてからのことらしい。
それだけに、亜人の中には女神教を快く思わない勢力もあるようだ。
エリザベスは、この辺り言葉を濁した。
後でソフィアに聞くと、女神教の勢力範囲は帝国内に限られるようだ。
ただ、帝国内では女神教の勢力は絶大で、他の宗教のことは、話題にすることも憚られる様子だ。
(信者の言葉だから多少割り引くとしても、女神の力はすごいみたいね。
「あるがままに、なさい」かあ。
あれは、そら耳だったのかしら、それともご神託?
いずれにせよ、『あるがまま』の意味が重要よね)
勉強会に行くと、エドワードとゲオルグは、とても親しく話をしてくれた。
ヴェンデリンは、慣れないうちは二人の皇子との会話の間を持たせてくれたが、トラブルを起こしても皇子たちとの距離を縮めてくれた。
キャサリンは、ヴェンデリンに感謝していた。
(生クリームの乗ったケーキが、美味しいって言っていたわね。
また、おいしいスイーツを持って行ってあげよう)
その日エリザベスは、いつもと違って時間ギリギリにやって来た。
スカートにシミが付いている。
卵の殻も付いているように見える。
ちょっと、すすり泣いている。
「リズ、どうしたの?
来る途中で何かあったの?」
側付きの女性が、小さな声で言う。
「エリザベスお嬢さまは、リックドム伯爵のご子息から『田舎者』と言われて、卵を……」
エリザベスが、鼻をすすりながら言葉を遮る。
「ジェーン、いいだよ。
わだしが悪かったんだから。
キャサリン様たちに、要らない心配をさせちゃうから」
エリザベスが話したがらないので、それ以上は聞かなかったが、城の近くで人を馬鹿にする伯爵家の息子。
キャサリンは、胸にざわつくものを感じた。
勉強会の最後に、またお茶菓子をつまみながらの懇親会になった。
キャサリンは、エドワードに聞く。
「ねえ、この前ヴェンデリンをイジメて返り討ちにあった伯爵の息子って、もしかしてリックドム伯爵なの?」
「ああ、そうだけど。
それが、どうかした?」
「今日、リズがその息子に卵を投げられたみたいなんだけど」
「キャサリン様。
あれは、わだしが悪いんです。
辺鄙な田舎の男爵家の娘なのに、お城の近くに住む由緒正しい伯爵様を差し置いて、こんな名誉な勉強会に参加させていただいているんですから」
「まさか、伯爵の息子に参加権を譲れとか言われたんじゃないでしょうね?」
「はい。だども、わだしもキャサリン様たちとお話しするのは楽しいし、頑張って旅費を出してくれた父上にも申し訳ないので、お断りしたんだ。
そしたら、無礼だって言われて……
ただ、わだしのせいで男爵家を断絶とかさせられたらと思うと、怖くて怖くて」
「何よ、それ。
リズが、そんなたちの悪い坊っちゃんに交代したら、私、ここに居づらくなっちゃうじゃない。
その伯爵の息子、許しがたいわね」
「キャサリン様にそう言ってもらえて、とても嬉しいです。
でもわだしからしたら、伯爵様のご子息なので、とにかく恐れ多くて近付きたくないべさ」
「あの伯爵家は、色々評判は悪いんだけど、前の戦争の功労者として叙勲されているからね。
単なる伯爵家じゃないよ。
僕も、ヴェンの件ですごく腹が立っているんだけど、どうしようもないんだ」
ゲオルグが、悔しそうだ。
「最初の日にソフィアさんが言っていたじゃないか。
陰に隠れて攻撃してくるような奴らは、ふっ飛ばせば良いって。
権力の陰に隠れて、爆薬令嬢の近しい人に攻撃をしたんだから、吹き飛ばされたって文句は言えないだろう。
やるんなら、もちろん俺も協力するぜ」
エドワードは、過激だ。
「おいおい、お前ら。
この会は、爆薬を平和利用する勉強会だからな。
争いに使うなよ」
ファビオが、話に強引に入ってくる。
「大丈夫ですわ。
爆薬を争いに使わないことは、私の願いですから」
(優しくして。何とも戦わずに、流れに身をまかせなさい。
これって、この件の事なのかしら?)
「でも、リズ。
替われと言っただけならまだしも、卵をぶつけたことだけは許せないわ。
ふっ飛ばさないまでも、ただで置く気はないから」
「キャサリン様、嬉しいけどおやめください。
わだしは、全然平気ですから」
「本当だよ、止めた方が良いよ。
ただで置かないレベルで済ますなんて。
ふっ飛ばしてこそ、爆薬令嬢じゃないか!」
エドワードは、何とかしてヴェンデリンの仇を討ちたいようだ。
(この人は、ゲームの中で戦いのドサクサに紛れてキャサリンの命を奪う人だもんな。
素敵な人だけど、油断ならないよね)
キャサリンは、ちょっと怖くなった。
「よしっ、明日明後日と絵の授業があるから、木曜日の昼ゲオルグ兄さんの部屋に集合な」
エドワードが、勝手に決めた。
当日、キャサリンがゲオルグの部屋を訪ねると、ゲオルグ、エドワードの兄弟に、エリザベスが待っていた。
「えっ、どうしてあなた達が?」
驚いたのは、クララとエレナのコンビが来ていたことだ。
だが、話を聞くと呼ぶのは必然だった。
人間純血に拘るリックドム伯爵家は、今の代の3兄弟には全く魔力の素養が無いそうだ。
それで伯爵家は、少しでも人間以外の血が混じっていそうなものを排除しようと画策している。
(普通は魔力をどうするか考えるものだけど、他の人の邪魔をする方に考える人なのね)
キャサリンは、ため息をついた。
伯爵の意を受けた3兄弟は、大っぴらに混血の者をからかったり、イジメたりしているそうだ。
自分達より下の地位の者にそういう行為をしても、咎められない。
それが分かってから、人間でも自分達より下の者には、酷い行為をし始めたようだ。
お城に出入りする、ハーフエルフの平民の女の子。
いくら皇帝陛下の意を受けているとはいえ、彼らの標的になりに来ているようなものだった。
クララもエリザベスと同じように、3兄弟に卵を投げつけられたそうで、ヴェンデリンの件と合わせて、エドワードは怒り心頭だ。




