43.困ったときは神頼み
困ったときは、神頼みしかない。
キャサリンは、教会に行くことにした。
前世では、本当に一般の日本人だったキャサリンこと明神さくらは、お正月には神社で初詣で、バレンタインデーには友チョコをやり取りし、お盆にはお墓参りをして、京都の送り火を見に行ったり、クリスマスにはツリーを飾ってフライドチキンを食べたりと、とても信心深かった?
異世界の神様も、沢山の人の思いが集まっている。
きっと、ご利益があるはずだ。
帝国は一神教だ。
教会は、女神ラスナ様を崇拝している。
女神ラスナ様は、この世界の創造主にして豊穣の神様だ。
沢山の天使を使役して、世界中の人々に幸せと試練を与え続けているそうだ。
ここ何十年も、帝都周辺では戦争が起こっていない。
転生者であるキャサリンは帝国が強い軍隊を持って平定したからと思うが、地域の人たちは立派な教会を作って、信仰心を篤くしているから女神さまが平和を与えてくださっていると考えている。
教会の扉を開けて入ると、いきなり正面にクララの描いた天使の絵が飾ってある。
「うーん、しかし何度見ても見事なものですわね。
ファビオさんのせいで、どうしても筋肉が気になってしまうように、なってしまいましたけど」
「まったく、とんでもない男です」
「でも、いい人みたいですよ。
ソフィアの良い所を、分かってくれているし」
「あいつは、私の強さだけを評価しています。
最低なやつです」
「ソフィアの優しい所とかを知ってしまったら、もう夢中でメロメロになってしまうでしょうね」
「お嬢様、気持ち悪い話はもう止めましょう」
ソフィアが嫌がるので、キャサリンはこの話を止めた。
でも、ソフィアの耳が赤くなっているのを見逃さなかった。
(ソフィアの方も、意識しだしている。
後は、ファビオさんの本気度をちゃんと調べれば、OKね。
ああいう男の人は、その気が無くても気を持たせるようなことを言いますから)
キャサリンは、自分の恋愛スキルは無いのに、他人の恋愛は随分わかったような分析をしていた。
この世界の教会も、キャサリンが前世で見た教会と似た構造になっている。
ただ、聖堂の中央に十字架ではなく、女神ラスナの彫像が鎮座しているのが、最大の違いだった。
平日のお昼に来たので、人は余りいない。
キャサリンは、聖堂に並んだ椅子の一つに腰掛けた。
女神さまに祈っているふりをしながら、考え込んでいた。
ソフィアは少し離れた場所で、聖堂の人の出入りをチェックしている。
キャサリンは、元エンジニアらしく課題形成から始めた。
現状を顧みると、キャサリンの破滅回避には3つの課題がある。
1.物語の揺り戻し
2.クララは転生者かもしれない
3.クララの能力が未知数過ぎる
※課題形成
目標達成のために、目標と現状の間の差異を見える化すること。
例えば雨漏りする時に、「天井が雨漏りする」というのは問題点の指摘だが、「天井に雨の通り道が出来ている」と課題を定義すれば、「どうやってその通り道を探すか」「どうやって塞ぐか」といったような解決策を考えることが出来る。
1つめの物語の揺り戻しだが、この世界にシナリオライターがいるのなら、その目的は何だろう。
乙女ゲームの主目的は、主人公の恋愛成就だ。
その過程で、ざまあ要素としてキャサリンの破滅が来る。
もしシナリオライター的な存在があるのなら、出会いフラグをへし折ったキャサリンの印象は最悪だ。
破滅回避は難しいかも知れない。
2つめにクララが転生者だったとしたら、最大のポイントはゲーム『愛の弾丸娘』を経験しているかどうかだ。
経験していた場合、フラグ回避はフラグ回避返しを喰らうかも知れない。
特に、キャサリンの知らない続編が出ていた場合、危険度は増大する。
3つめのクララの能力が最も不気味だ。
皇子たちが芸術に興味を持っている所で、芸術の才能が爆発している。
料理の才能もあり、スイーツで皇子たちの胃袋をつかんでいるっぽい。
そして何と言っても、この世界に無いはずのプラスチック爆弾を見破ったことだ。
3つとも、かなり絶望的に思える。
とにかく、クララは週に一回絵を教えに来る。
というか、絵は断ったも同然なので、スイーツを運んでくると言う方が正しいか。
折に触れて、クララの情報について探りを入れたいところだ。
問題は、お付きの聖女エレナだ。
彼女は、ゲーム内で知力マックスだった。
探りを入れようとして、逆にこちらの情報を取られるかも知れない。
最大限に警戒して、調査を進めないといけない。
弾丸のように真っ直ぐ進むクララに、参謀のようなエレナが付くのは反則技だ。
まあ、体力のないキャサリンにも体力マックスのソフィアが付いているので、その点はおあいこかもしれないが。
物語展開については、どうしようもない。
まさに神に祈るしかない。
せっかく教会にいるので、キャサリンは女神ラスナに祈りをささげた。
(どうか私に破滅の未来が訪れませんように。
クララは、私と敵対しませんように。
クララの恋愛成就は気にしないので、私にも素敵な出会いがありますように)
欲張って、タップリ願い事をしつつ祈った。
「あるがままに、なさい。
優しくして。何とも戦わずに、流れに身をまかせなさい」
耳元で女性の声がしたような気がした。
「ソフィア、何か言った?」
「いえ、私は何も言っておりませんが」
「そら耳かしら?」
(あるがままに。
おかしな計略を考えるなってことかしら。
優しく、何とも戦わずっていうのは、私の理想とする所だわ。
問題は、流れに身を任せて大丈夫かどうかね。
女神ラスナ様の力はどの程度なのかしら?)
「ソフィア、女神ラスナ様はどのくらい凄い神様なの?」
「この世界を創造されたわけですから、それはすごい神様でしょう。
教会にいるのですから、神父様にお聞きになっては?」
「一般人の印象を知りたいのよ。
全ての人を救う神様なの? それとも信者だけを救うの?
ラスナ様は最高神なの? さらに上位の神がいるの?
魔術や呪術と関係はあるの?」
まくし立てるように聞かれて、ソフィアも戸惑う。
「それこそ、神父様に聞くべき内容に思えますが」
「そうね、でも第3者的な観点での答えを知りたいわ。
次の勉強会で、皆さんにも聞いてみましょう」




