41.クララの中身は猛獣
キャサリンは、クララ作のプリンを一口食べて驚いた。
(美味しい! これは、相当レベルが高い。
宮廷で食べるデザート類でも、令和日本のコンビニスイーツに敵う味のものはほとんど無いのに、これは完全にコンビニスイーツを凌駕している)
「クララのお菓子は、本当に凄いな。
俺の専属料理人になってくれよ」
エドワードが軽口をたたく。
「ずるいぞ、テディ。
こんな美味しいものを独り占めしようとするなんて」
ゲオルグが、抗議する。
「クララが俺の専属になったら、兄さんにも食べさせてあげるから、それで良いだろ?」
「良い訳無いだろ!
クララは、僕の専属になればいいよ。
テディにも、お菓子のおすそ分けはしてあげるよ。
クララ、僕の専属になった方が幸せに暮らしていけるよ」
「うーん、どちらの専属になるかは、条件次第かな?」
(ううっ、主人公パワー恐るべし。
既に、二人のハートを完全につかんでいる。
こんな食べ物で餌付けするなんて。
私が付け入るスキなんて、全くなさそうに思える)
黙ってプリンを食べていた、クララの付き人がボソッと言う。
「クララ様。専属料理人なんて、おやめください。
料理人になられたら、付き人なんて必要無くなるじゃないですか。
私は、クララ様に一生お仕えするつもりなんですから」
メイドの姿をした付き人が、皇帝の息子たちと一緒にスイーツを食べていることにも驚いたが、その顔を見てキャサリンは驚きの声を上げてしまった。
「え、エレナさん?」
「確かに私はエレナですが、どうして公爵令嬢ともあろうお方が、単なるクララ様の付き人である私の名前を、知っておられるのですか?」
クララの付き人エレナは、鋭い目で貫くような視線を向けてくる。
「た、単なる付き人?
付き人なのですか?」
「はい、さようでございます。
私のようなものが、失礼にも席をご一緒させていただき、申し訳ございません。
しかし、クララ様の身の安全にも気をつかわないといけない立場でございます。
付き人の名前のような流れにくい情報が、高貴な方の口から出てしまうと、その理由が気になってしまいます」
エレナは、キャサリンの表情の変化を冷静に分析している様子だ。
「メイドの人の名前って、一定の法則があるので、あの、あなたのお顔はエレナって感じのお顔だったのですわ」
何を言っているのか分からないような言い訳に、エレナはそれ以上突っ込んでは来なかった。
しかし、キャサリンはゲームの主要人物の登場に気が気では無かった。
まだ、ゲームの舞台である魔法学園への入学は5年後なのに、どうしてここに居るのか、訳が分からなかった。
聖女エレナ。
その類い稀な魔法の能力と知力により、教会の孤児院出身の平民でありながら魔法学園への入学が認められ、生徒会長として学園内の風紀を厳しく取り締まる。
ゲーム内に登場する全てのキャラクターの中で最大の知力、魔力を誇り、彼女の魔法攻撃を浴びれば、天を駆ける龍ですら致命傷を負うと言われる。
治癒の魔法も強力で、瀕死の者、たとえ死んだものですら蘇生して体力を全快させてしまう。
ゲーム内では聖女と呼ばれ、悪役令嬢とその一味もエレナが近くに居る時には、悪いことが出来ない。
逆に主人公の側も、彼女の逆鱗に触れるような行動をとれば、一発ゲームオーバーの恐ろしいキャラクターだった。
キャサリンがいる間に、彼女が主人公の味方に付くルートなど、無かったはずだ。
彼女のパラメータだと、彼女が付いた側が100%勝ってしまうので、ゲームにならないからだ。
確かに銀色のストレートの長髪で、すごい美人だが乙女ゲームの登場人物だ。
女性プレイヤーに人気が出るはずも無かったので、本当にゲームのラスボスである天龍と戦う時に助けに来てくれるだけのキャラだった。
(聖女エレナがメイド服を着ている。
男性プレイヤーがこの姿を見たら大人気だろうが、『愛の弾丸娘』を男性が喜んでプレーするとは思えない。
まさか、私の死後に男性も萌えられる続編が出て、私の知らないストーリーが進んでいるのでは?)
野生児で芸術家で、聖女エレナを付き人として連れている主人公クララ。
悪役令嬢のキャサリンは、爆薬を自在に操れるが、男たちを手玉に取ってダマすどころか、誰かの助けが無いと一緒にいても間を持たせることすら出来ない。
本当にここは、あのゲームの中の世界なのだろうか?
クララのフラグをへし折ったのが原因で世界が変化しているのではなく、元々違う世界なのでは無いだろうか?
キャサリンは、一気に不安になって来た。
絵の授業が終わると、二人の皇子は剣術の練習に入る。
城の庭で女性陣は、今後の予定を話し合う。
「クララさん、わだしの所へ来て、話の続きをしませんか?」
エリザベスが、クララを誘う。
ウサギ診断をやるつもりだ。
キャサリンは、(リズちゃん、グッジョブ)と思った。
エリザベスの住んでいる寮の庭に、またテーブルを並べてお茶会の準備をした。
3人で庭の囲いの中に入って、エリザベスがウサギたちの名前を呼ぶ。
「アジーン、ツバイ、トレス、スー」
しかし、一匹も顔も出さない。
「おがしいな。どうしたんだろ?」
「この小屋の中に何かいるの?」
エリザベスの後ろから、クララが追い抜いて行った。
クララが小屋の斜め前に立った瞬間、ウサギたちは脱兎のごとく飛び出してきた。
クララの脇をすり抜けて、クララから一番遠い柵の所まで逃げ去った。
「わあ、可愛いウサギさんだあ」
クララが喜んで、ウサギの方へ走って行くと、ウサギたちはまたクララの脇をすり抜けて対角線上の柵の角に逃げ込んだ。
「もお~、失礼なウサギさん達だねえ」
クララは笑っているが、嫌われたのが分かったようで、ちょっと落ち込んでいる。
「ウフフフ。
ウサギさん達には、クララ様の魅力が分からないんですねえ」
エレナは、本当に嬉しそうだ。
エリザベスが、キャサリンにだけ聞こえるような小さな声で言う。
「わだし、こんな恐ろしい人初めて見ただ。
騎士団長みたいな人でも、アジーンたちは逃げ無かったべ。
4匹の中でも怖がるランクがあるから、普通反応は分かれるはずなんだ。
絶対、わだしはこの人の絵は習わないべ」
「えっ?
それって、すごく気が強いとかそういうこと?」
キャサリンは、訳が分からない。
「いくら気が強くても、インコやカピバラは怖くないべ。
でも、気が弱くたってトラやライオンが近くに居たら怖くて逃げたくなるでしょ。
あの娘は、中身が猛獣だ。
草食動物のウサギたちには、それが分かるんだよ」
芸術家で、料理が得意で、中身が猛獣。
キャサリンは、ますますクララの事が分からなくなった。
35.と39.で、『面白れぇ女』ポジションの解説を修正しました。
『おもしれー女』で、ネットミーム(テンプレ)になっていたのですね。




