40.主人公クララ ついに再登場
この前見た主人公のクララは、確かに野生児の風貌だった。
だが、木登りが出来る(近くの木から降りてきた)とか、絵が上手いとか、ゲームでそんな設定は無かったはずだ。
(ヤバイかも。
ゲーム世界のストーリー補正が強すぎて、どうやっても破滅ルートに入るってこと?
それとも、へし折ったのが根本のフラグ過ぎて、クララの中身がガラッと入れ替わっているとか?)
中身が入れ替わる。
そこで、ハタと気付いた。
自分は、この世界ではチートとも言える爆薬の知識を持って転生してきたことを。
もし、主人公が芸術の素養を持って転生してきた者だとしたら。
皇子二人は、絵や音楽を趣味にしている。
転生者であろうと無かろうと、芸術で勝負されたら太刀打ちできない。
キャサリンは、非常に大きな危機感を感じた。
(転生者かどうか、それだけでも知っておかないと。
化学知識は、かなり強力なチートだと思っていたけど、甘かったかも)
翌週、まずキャサリンは絵の授業がいつあるのか、エドワード達から聞き出した。
勉強会が月曜日にあるが、絵の授業は火水あって木金と休み、また土計とあるそうだ。
地球と違って一週間は8日なので、計曜日が日曜日の前にある。
そして、授業でどんな絵を描いているのかとか、聞きまくった。
先週までは、男子に話しかけるのにすごく戸惑っていたのに、今日はガンガン聞く。
命がかかっているのだ。
恥ずかしがっている場合では無い。
結果、ゲオルグに言われてしまう。
「キャサリンさん、すごく絵に興味があるんだね。
こんなに積極的に話しかけられたのは、初めてだよ。
例えば、週に一日だけでも教えてもらえないか、聞いてもらおうか?」
キャサリンは断ろうとしたが、ファビオが割り込んできた。
「えっ、あの娘の絵の授業を頼んでもらえるのか?
何とか、俺も頼んでもらえないか?
あの天使の絵、実は俺も感動したんだ。
あんな絵が自分で描けたら、夢のようだ」
もう、別世界にトリップしている表情だ。
「天使の絵って、どんな絵なんですか?
そんなに凄いなら、私も見たいですわね」
キャサリンに聞かれて、ファビオが答える。
「中性的な天使が二人、天に昇っていく姿なんだ。
美しい筋肉の躍動感が、本当に素晴らしい。
今なら、教会に行けば見られるよ」
「中性的な者の筋肉が美しいとか、気持ちの悪いことを言う奴だな!
筋肉は見るためではなく、早く強く動くためにあるものだ」
ソフィアが吐き捨てるように言った。
「きっと君の筋肉も、あの絵のように素晴らしいのだろうな。
ぜひ一度、じっくり見てみたいものだ」
「絶対に、お前には見せない!」
ソフィアは、少し腕まくりしていた袖を元に戻して、腕を隠す。
ソフィアとファビオのやり取りを見て、キャサリンは吹き出しそうになった。
(ファビオさんは筋肉好きなのね。
だから、ソフィアの事を好きになっちゃったんだ)
キャサリンは、ゲオルグの提案の事を忘れていた。
数日後、ゲオルグから「絵の授業、OKだそうです」という手紙が来た。
「ええっ?
私、こんなこと頼んだ覚え無いんだけど」
「わだしも、キャサリン様は絵に興味津々だと思ってましたよ。
授業が受けれるようになって、良かったべ」
遊びに来ていたエリザベスがここまで言うのだから、恐らくゲオルグが勘違いしてもおかしく無い様子だったのだろう。
キャサリンは、絵の授業を受けるならクララの情報を手に入れやすくなると、気持ちを切り替えた。
エリザベスが、
「せっかくだから、ゲオルグ様に授業の詳細を聞きに行くべ」
と言うので、一緒にお城に行った。
城の門でゲオルグからの手紙を見せたら、直ぐにゲオルグの部屋に通された。
「いやあ、こんなに女性ばかりの訪問客が来るなんて光栄だなあ」
キャサリンとエリザベス、そしてキャサリンのお付きの女官一名と護衛のソフィアを合わせて、4人の若い女性が押し掛けたことになる。
ゲオルグの部屋は色々な楽器が置いてあり、本棚には沢山の本と楽譜がびっちりと並んでいた。
全く女っ気のない部屋に、確かに4人の女性が座っているのは、少し異常な感じだった。
いつもならソフィアは座らないのだが、護衛しやすい位置をゲオルグの護衛の男たちに取られたことと、彼らに椅子をすすめられたので、椅子を壁際に寄せて離れて座っていた。
(ゲオルグ様は、いつもこの部屋で過ごしているんだ。
どんなことを考えて、暮らしているのかな?
あの楽器とか弾いたりしているのかな)
ゲオルグの武骨な部屋のテーブルに、白いクロスが掛けられて、陶器の3段トレーに乗ったスイーツが運び込まれた。
(ゲオルグ様って、すごく気が回るのね。
本当に驚いてしまいますわ)
キャサリンが、うっとりとしていると、エリザベスが話を始めた。
「ゲオルグ様、もう何度か絵の授業はあったんですよね?」
「そうだね、今日この後の授業が6回目になるよ」
「えっ、今日もあるんですか?」
「ああ、週に4日もやってるからね。
君たちも見ていくかい?」
「いいんですか?
キャサリン様、せっかくですから見ていきましょうよ」
エリザベス主導で、あっという間に見学が決まってしまった。
ゲームの主人公クララが、そこにいた。
髪の毛はボサボサだったのが、きれいに整えられていた。
可愛くポニーテールの髪型になっている。
服も、華やかでは無いが、質素で上品な感じの若葉色のモノトーンのワンピースだ。
キャサリンたちは、邪魔にならないように少し離れて見学していたので、話声は聞こえないが、エドワードとゲオルグが、キャンバスを並べて置いた前で木炭のペンを使って、楽しそうにデッサンをしている。
今日は、カスタードプリンの絵を描いている。
ガラスの器の上に、プリンを置いてカラメルがかけてある。
プリンの周りは生クリームで飾り付けて有り、フルーツが盛り付けられている。
さすが皇室に持ち込まれるお菓子という感じだ。
2時間ほどでデッサンは終わり、プリンを食べるみたいだ。
ゲオルグが、キャサリンとエリザベスを手招きする。
「おーい、クララさんがプリンを多めに作ったそうなので、君たちも食べていかないか?」
(ええっ? あんな皇室御用達って感じのプリンがクララ作なの?
料理のスキルも持っているの?
そんな設定無かったはずだけど)
「キャサリン様、エリザベス様、はじめまして。
私、クララと申します。
えっと、どちらがキャサリン様ですか?
来週から、絵の先生を頼まれていたと思うのですが」
「私ですわ。
来週からよろしくお願いいたしますわ」
「まあ、あなたが。
きれいな方ですね。
よろしくお願いします」
お互いにカーテシーを交わした。
※カーテシー
女性が行う、ヨーロッパの伝統的なあいさつ。
通常は目上の人に対して行う。
キャサリンは前世の日本人の感覚で、つい誰が相手でもカーテシーを返してしまう。
もちろん、公爵令嬢相手に指摘する人はいない。




