38.純朴な令嬢エリザベス
解散して、キャサリンが馬車に乗ろうとしたら後ろから声をかけられた。
「キャサリンさまー。
わだしの宿題手伝ってくださーい」
「えっ、宿題?」
「そうですよー。
次回までにお友達になっておく宿題ですよー。
女の子は二人だけなんですから、お友達になって下さい。
男の子たちに話しかけてお友達になるなんて、絶対に無理ですから」
この言葉を聞いて、キャサリンは友達になれそうな気がした。
「ええ、こちらこそお願いいたしますわ」
「良かったー。
断られたら、どうしようかと思ってました。
今から私の部屋に来ませんか?
と言っても、公爵令嬢様をお呼びするのは恐れ多い部屋ですけど」
「そんなことを気にしていたら、お友達にはなれませんわよ」
「そ、そうですよねー」
見かけはともかく、エリザベスが純朴なのは間違いなさそうだ。
そして、明神さくらのチェック漏れの可能性はあるが、ゲーム『愛の弾丸娘』には、エリザベスという名前の登場人物はいなかった。
安心して付き合えそうだ。
エリザベスは、宮殿の近くにある独身寮の部屋を借りていた。
そこは、お城の使用人が入るための施設らしい。
「一応貴族の端くれなので、二部屋もらって、一部屋は荷物部屋にしています」
案内された部屋は、1ルームだが10畳一間のきれいな部屋だ。
確かに貴族令嬢が帝都に滞在するのに、これはどうよ?
と言われそうではあったが、さくらが前世に一人暮らししていた部屋よりは立派だ。
「これと同じ部屋をもう一つもらって、荷物部屋にしているのね?」
「はい、それとお庭の一角も貸してもらいました」
一緒に庭に出てみると、確かに庭の芝生の一角が柵で囲ってあって、犬小屋のようなものが置いてあった。
エリザベスは、ドンドン柵の中へ入っていく。
キャサリンも後を付いて行った。
「アジーン、ツバイ、トレス、スー」
エリザベスが大声で呼ぶと、4羽のウサギが小屋から飛び出してきた。
2匹はツノが生えている。
「わだしの地元に生息している、ツノウサギなの。
オスはツノが生えているのよ。
この子たちがいないと寂しいから、連れてきちゃった」
確かに可愛い。
キャサリンは次の勉強会までに、エリザベスではなくウサギたちに3回も会いに来てしまった。
いや、エリザベスに会いに来たはずだったのだが、庭に出てしまうだけだ。
ウサギたちは、すごく人に慣れていて、膝の上に乗ってくる。
ウサ耳を撫でると、気持ちよさそうに寝ころんで、お腹を見せる。
(こ、このウサ耳のモフモフ感。
世の中に、こんなに素晴らしい手触りのものがあったなんて)
キャサリンは、天国に昇りそうな気分だ。
「キャサリン様は良い人だなー」
「えっ、どうしたの急に?」
「ウサギみたいに弱い動物は、悪い人には絶対に近付かないんだあ。
実を言うと、わだし。
付き合う人を決めるのに、このウサギたちを頼りにしてんだよ」
「ええっ? そうだったの?
じゃあ、私は合格?」
「公爵令嬢様を、勝手にそんな合格とか不合格とか評価したら、死刑にされちゃうべ。
でも、お友達になって欲しいのは確かだよ。
信用できない人に、ウサギに会わせる秘密なんか話せないし」
「じゃあ、6人の男たちもここに連れてきたら、いい人かどうか分かっちゃうのね?」
「それ、いい案かも知れねえべ」
この話を聞いて、ソフィアがウサギの柵から少し遠ざかった気がした。
第二回の勉強会の後、ソフィアとエリザベスは残り6人の男たちを、寮の庭に連れ出した。
独身寮の庭に、テーブルセットやパラソルなどを置いて、体裁を整えた。
と言っても、キャサリンのお付きの者たちが準備したのだが。
司会進行役のファビオ・パレルモも付いて来た。
人数が多いせいか、ウサギたちは警戒している。
あまり極端な反応をしないのだが、人数のせいなのか本当に普通の人たちなのか、判断が難しい。
だが、エドワードやファビオのような戦う人には近付かないし、ゲオルグやオットーのような大人しい人間には懐くようだ。
男たちは単なる庭でのお茶会と思って、世間話が終わるとそれぞれ帰って行った。
オットーは、お近付きになりたいのだろう。
ゲオルグとエドワードに引っ付いて帰った。
公爵家の3人は、つるんで帰った。
夕食を一緒に取るそうだ。
公爵家は4つあって、そのうち3つの子息が一緒に会食するのに、キャサリンは参加しない。
エリザベスは心配したが、キャサリンは一言の元に切り捨てた。
「今日は、もっと重要な会食があるじゃない」
そう、二人は近くのレストランで個室を借りて、秘密のお食事会だ。
ウサギの反応を細かく観察していた二人は、夜遅くまで男たちの品評会で盛上った。
二人は、すっかり仲良しになっていた。
「リズさんもやっぱり、エドワード様なのね」
「だって、カッコいいんですもの。
カッコ良さではファビオ様も良いんだども、キャサリン様付きのソフィア様に夢中みたいですし」
キャサリンの後ろにいたソフィアが咳払いする。
二人は、ウフフフと笑い合った。
キャサリンは美形好きなので、エドワード、ゲオルグ、ノルド公国の次男坊の順で評価した。
エリザベスは強い男性好きなので、エドワード、ファビオ、モロイン公国の3男坊の順で評価が高かった。
どちらの基準で見ても、エドワードがトップ評価だった。
どちらの基準で見ても、一番パッとしないのはオットーだった。
※ナードハート帝国の南北を守る4つの公国は、以下の通り。
帝国の南側、キャサリンのいるファルマイト公国
その東隣がモロイン公国
北部を占めるノルド公国
その西に隣接したリエリー公国
☆あとがき
当初、エリザベスの飼いウサギを使って色んな人の判定をするのは、もっと話が進んでから番外編でやる予定でした。
毎日更新は中々苦しくて、ネタの出し惜しみは不可能ですね。




