37.ソフィアを口説く騎士団長
「ゴ、ゴメン。
キャサリンさんは、気の強いすごいお嬢様と聞いていたもので。
皇帝のご子息の部屋爆破の話と合わさって、つい負けないようにと思ってしまいました。
失礼な発言、お許しください」
モロイン公国の3男坊が、キャサリンをからかった謝罪をしてきた。
「お気になさらず。
爆薬令嬢と聞いたら、少し怖いですものね」
ゲオルグのお陰で、笑って返す余裕ができた。
(モロイン公国の3男、謝れるだけマシってところね。
あれっ? そう言えば、彼の名前を憶えていないわ)
キャサリンも大概であった。
一連のやり取りの後、ファビオがまとめる。
「うん、実践もしているなら素晴らしいな。
爆薬の平和的な使用方法は、ちゃんとある訳だ。
でも果たしてそれだけで、軍事利用させないことは出来るのかな?」
「できますわ。
ダイナマイトは、需要に対して圧倒的に供給量が不足しています。
有効なことに使わないなんて、あり得ないですわ」
キャサリンの答えに、ファビオは満足そうにうなずく。
「さて、ダイナマイトを平和的に使いたいと、言うのは簡単だ。
逆に戦闘に使用するとしたらどうだろう?
そいつも、ちゃんと知っておく必要がある」
ファビオは、部屋の中を見回した。
ファビオは、キャサリンの後ろのソフィアを見つけて、言葉を続けた。
「そこのとても強そうな君。
君は、もしダイナマイトを戦闘に使うとしたら、どんな風に使う?」
ソフィアは、厳密には会議の参加者ではない。
「強そうなとは、私の事を言ったのか?」
「そうだね。俺には強い奴が分かる。
この部屋の中で、一番戦いに精通していそうだから」
ファビオは、口調を変えずに語り掛ける。
「私は、この会議の参加者ではない。
キャサリンお嬢様の護衛として、ここにいる」
ソフィアは、少しイラついた様子を見せる。
「だから発言は慎むとでもいうのかな?
円滑な会議の流れのために、折角この場にいるんだから発言してほしいな」
ソフィアは、ヤレヤレという感じで話し始める。
「基本的に私は、お嬢様の意向もあり、ダイナマイトを戦闘で使いたくない。
だがもし、お嬢様を守るためなら躊躇なく使うだろう。
剣や槍で真正面から向かってくる者は、剣でなぎ倒す。
陰に隠れて魔法攻撃や弓矢で攻撃してくる奴らには、火を点けたダイナマイトを投げつけて吹っ飛ばすことになるだろう。
魔法の使えない私には、まさに最適な遠隔攻撃用の武器になる」
ソフィアは、迷いもなく言い切った。
「さすが、俺が見込んだだけある。良い答えだ。
だが、隠れている所に投げ込むなら、近付かないといけない。
遠隔攻撃してくる敵に向かって、距離はどうやって詰めるつもりだ?」
ファビオは、少し意地悪く笑った。
「火魔法上等、弓矢上等、投げ槍上等!
守るべきものがあるのに、自分が傷つくことを考慮するとでも?
距離を詰めるのに躊躇などしない。
致命傷にならない程度に受け流して、確実に敵を吹っ飛ばす。
怪我が怖くて、騎士がやれるか?」
ソフィアは、全く揺るがない。
ヒューッ
ファビオは口笛を吹きならす。
「男前だねー。
君、帝国騎士団に移籍してくる気は無いか?
君なら、即俺の直下の副団長だ。
俺が出世したら、ドンドン上に引き上げちゃうぜ」
「何を意図しているのかは知らんが、私はキャサリン様に忠誠を誓っている。
キャサリン様の命令でも無い限り、別の主に仕えるつもりはない」
ソフィアの返事には微塵の迷いも無かった。
「戦いに長けた者が、ダイナマイトを見てどう使うかをみんなに知って欲しかったんだが、彼女の、えっと、お名前をお聞きして良いかな?」
「キャサリン様の直衛騎士、ソフィア・リオナ・セレステだ」
「うん、ソフィアさんのすごい忠誠心のせいで、俺の目的が霞んじゃったなあ。
でも、セレステって名前は帝都出身じゃないのかな?」
「ああ、確かに私は帝都の孤児院の出身だ。
だが、帝国騎士団は昔私を受け入れては、くれなかったぞ。
おかげで、こうしてお嬢様の護衛をすることが出来ているんだがな」
「カアーッ。
頭の古い純血主義のジジイたちのせいで、帝国騎士団は戦力ダウンしたのか?
俺が知っていれば、絶対に君を離さなかったのになあ」
ファビオは、顔を手で覆って、絶望のポーズを取った。
「まるで、口説いているようですわね。
もしあなたが、ソフィアを花嫁として迎えたいと言うのなら、私もソフィアを引き留めたり致しませんわよ」
キャサリンが、二人のやり取りに割り込んだ。
「えっ、それは本当?
魅力的な伴侶と力強い副官が一気に手に入るって、俺がめっちゃハッピーな提案じゃないか?
ソフィアさん、ちょっと考慮してくれないかな?」
ファビオが軽い調子でソフィアに求婚のポーズを取る。
「私は、そういう冗談が好きではない」
ソフィアは取り合う様子もない。
しかし、キャサリンにはピコーンと来ていた。
(ゲーム内最高の戦力 ファビオ団長がソフィアと引っ付いてしまえば、クララ軍が強化される心配が無くなるじゃない。
場合によると、私と仲の良いソフィアの旦那さまとして、こちらの味方になるかも)
キャサリンは、この二人の仲を取り持ってやろうと決意していた。
「さて話の前段として、前提条件は分かってもらえたんじゃないかな。
話し合いはしっかりやってもらうが、次回からにする。
今日の予定だが、さっきの自己紹介を受けて、お互いを知るためにお茶会にしようと考える」
騎士団長が合図すると、騎士団の騎士たちがお茶とお茶菓子を運んできて、テーブルの上に置いて行った。
この世界の貴族は、やたらお茶会が好きだ。
今日のお茶菓子は、マカロンだった。
※マカロン
一口サイズより、ちょっと大きめの円形の焼き菓子。
キャサリンが一番知りたいのは、前世なら間違いなくメガ盛りギャルナンバー1の評価を受けそうなエリザベスが、この世界では本人が言うように地味なのかどうかだ。
残念ながら、それを知るにはキャサリンの対人スキルは足りないようだった。
「今回が初めての取り組みだと思うのですが、まるで段取りが決まっているかのような見事な進行ですね」
エドワードが、感激した様子で騎士団長ファビオに話しかける。
「君も騎士団に入りたいんなら、日々の生活でも初めてやることを、やり慣れているかのように見せる工夫をしておいた方が良いぞ」
エドワードは本当に騎士団志望のようで、一生懸命メモを取っている。
他のメンバーたちは、ファビオの誘導が無いと余り話が弾まない。
「どうだ、親しくない人間と自由に歓談するとなると、意外に難しいもんだろう?
次回までに、最低一人と仲良くなっておくことを宿題にするぜ」




