35.爆薬の勉強会開始
さて、その日のキャサリンはお出かけ用のドレスを着て、お城に連なる宮殿の会議室に向かった。
父の設定した、『爆薬の平和利用勉強会』の第一回に参加するためだ。
参加者は8名だ。
~魔法学園就学前の、10から13才までの将来有望な貴族令息ならびに令嬢を対象とする~
招待状にはその様に書いてあるが、参加者は全てノーベル公爵が選定していた。
帝国連邦の4つの公国から一人ずつ、皇帝の息子二人、帝国の東の要ハイデルベルク伯爵領から伯爵の息子、そして帝国の西で小さな領地を持つ男爵の娘、合計8名だった。
公爵は、これまでのパーティーでキャサリンの振舞いをしっかり観察していた。
ちょっと筋肉質か、やや痩せ型の者だけを選んだ。
パーティーで、それ以外の者への素っ気ない態度は、しっかりチェックされていた。
(キャサリンは、全く意識していなかったのだが、父の目は鋭かった)
そこそこ高身長な者を選んでもいた。
高身長は、剣が届く範囲が広くなる。
帝都の貴族は単純にモテることよりも、戦いに有利なので高身長は求められた。
※長い剣が使えたら、背が低くても良いのかもしれない。
ついこの間のダイナマイトのお披露目会以来、キャサリンへのお見合いの申し込みが殺到している。
この状況で、帝国貴族の令息たちの中に放り込めば、モテモテなのは間違いない。
しかし、恋愛奥手のキャサリンが積極的な男たちに囲まれて、しんどい思いをしてはいけない。
癒し担当として、のんびりした田舎で育った穏やかな性格と評判の、男爵令嬢を入れておいた。
美人という評判が無いことだけは、しっかりチェックした。
そうは言っても魅力的な可能性はあるが、キャサリンに勝つことは無いだろうと思って選んだ。
いくら有能なノーベル公爵とは言え、さすがに数日の間に、そこまでのチェックは無理だった。
キャサリンは少し早い目に会場に来たつもりだったが、6番目だった。
彼女より後に来た残り二人は、皇子のゲオルグとエドワードだった。
エドワードは、部屋に入って来るなりキャサリンを見つけると、ニコニコしながら近付いてくる。
(笑わない漢、エドワード様が笑っている。
一体、何が起こったのかしら?)
ゲームの中でエドワードは、ニコリと微笑んだシーンが1度あるだけで、いつも苦虫を嚙み潰したような表情で立っていることが多い。
設定では、母を亡くした悲しみから笑わなくなったという事だったが……
キャサリンが戸惑っていると、肩をバンバン叩かれた。
「キャサリン、お前って凄いやつだったんだなー!」
「ええっ? エドワード様、突然どうされたのですか?」
「いやあ、父上から聞いたぞ。
俺の弟の部屋を、爆薬で吹っ飛ばしたんだってな。
爆薬令嬢キャサリンちゃんって、帝都ではすっかり有名人だぞ」
「いやですわ、そんな。
帝都で有名だなんて、私としたことが」
キャサリンは、エドワードに肩をたたかれて照れていたが、よく考えたら一大事だ。
(私、やっちまった?
そりゃそうよね。
皇帝陛下のご子息の部屋を吹っ飛ばしたんだから。
でも少女漫画でよくある、難攻不落のイケメンの『面白れぇ女』ポジションゲットかしら?
名前も呼び捨てになっているし、距離は縮まった?)
※『面白れぇ女』ポジション
(自称)美人ではないヒロインが、モテモテで女に不自由しないイケメンに気に入られる第一歩目。
見た目ではなく行動から、「いないと退屈だ」と言われて一緒にいるうちに、『可愛いやつ』ポジション、『お前がいない○○生活なんて考えられない』と進んでいくのが王道。
ゲオルグが寄って来て、フォローする。
「テディの奴、昨日から君に会うのを楽しみにしていたんだ。
もちろん、僕もだけどね。
本当に君はすごいよ。
ヴェンのことは、本当に感謝している。
ありがとう、君がいなかったら大変なことになっていたよ」
(ゲオルグ様との距離も縮んだんじゃないかしら?
私、グッジョブなんじゃない?)
四角く並べられたテーブルの横に、4人ずつ向かい合うように座った。
しばらくすると、勉強会の司会進行役がやって来た。
部屋の中には側付きの者も控えており、彼らは壁際に立って待機した。
武官を連れている者も何名かいたが、キャサリン付きのソフィアが一番大きくて強そうだ。
まず、自己紹介から始まった。
最初に司会進行役が、自己紹介した。
キャサリンというか、明神さくらは一目見て気付いた。
彼は、ゲーム『愛の弾丸娘』の攻略対象、騎士団の団長だ。
「俺は、第2帝国騎士団団長 ファビオ・パレルモ。
今回は帝都にいる騎士団長、副団長全員が集められて、その中から俺が選ばれたわけだ。
俺がいかに優秀かは、それだけでも分かるだろ?」
帝国騎士団の団長になる者は、剣技に優れており、相当な人格者でないといけないそうだ。
キャサリンが昔聞いたところでは、1対1で剣で闘った場合、ソフィアでも敵わない腕前だそうだ。
天然パーマのかかったブロンドの長髪。
出来る男の雰囲気と甘いマスクからプレイヤーの人気は高かったが、彼の人気はその高いパラメータこそが原因だった。
ゲームの中で騎士団長ファビオの好感度が上がった場合、その剣の腕前で主人公の味方の戦力が大幅にアップするだけでなく、その指導力により他のメンバーのパラメータも大きく向上するという、とても重要なキャラだ。
彼が加わるだけで、難度の高い戦闘イベントが苦も無く通過できてしまう。
一部のファンは、『ゲームバランス崩壊団長様』と呼んでいた。
様が付いていることからも分かるように、崇め奉る感じだった。
(もしクララが帝都に舞い戻ってきた場合には、彼の好感度が上がらないように注意する必要がありますわね)
ファビオは、8名の顔をざっと眺めてから話を続けた。
「今回集まったのは男爵家から、皇帝陛下の身内まで、身分の上下に結構な差がある。
議論を活発にするために、この部屋の中では俺以外みんな平等って前提で頼む。
この部屋の中での無礼を理由に罪になることは無いし、それを根に持つことが無いようにと、皇帝陛下からの勅令も出ている。
みんな、よろしく頼むぜ」
軽い感じの20代の男だ。
ゲームをした時の印象は、その高いパラメータもあって、頼れるお兄さんという感じだったが、実際はちょっと頼りなく見える。
(あんな優男がソフィアより強いかも知れないなんて、人は見かけによらないものね)




