31.ばくやく令嬢は、間を持たせられない
10才の公爵令嬢が、妙な動きをしている。
帝都の門の出入りをチェックしたり、皇后陛下の養子になった皇子二人に接触を図っている。
皇室の周辺では、皇子二人の動向にとても敏感な人たちがいた。
この二人に今まで無関心だったはずの公爵が、動き出したことが一大事だ。
皇后陛下の養子になっている上に、貴族の中でも最も勢いのあるノーベル公爵と縁戚を結ぶようなら、皇位継承順位に大きな変動をもたらすことは間違いない。
たとえ皇帝になれなくとも、皇位継承順に爵位は与えられて、それに応じて生活レベルが変わるのだ。
皇子二人は、このキナ臭い雰囲気を分かっていなかった。
そして、キャサリンも自分が巻き込まれるような動きをしていることを、分かっていなかった。
どんな手を使ってでも皇位継承順を上げたい、もしくは下げたくない者たちにとって、ノーベル公爵夫妻が娘を置いて国に帰るのは、好機到来というものであった。
そんな折、皇帝名義でキャサリンを含む8名の子供たちに、招待状が届いた。
~爆薬の平和利用勉強会へのご招待~
『ダイナマイトの発明により、世界の様相は一変するかも知れません。
これを用いて、競争相手を吹き飛ばす戦争の兵器とするのか。
未開の土地を開き、なだらかな地平を創造するための道具とするのか。
我々は今、戦争に明け暮れる血生臭い世界か、皆が豊かに暮らせる平和な未来かの、分岐点に立っています。
各国のリーダーの考え方一つで、どちらの道へでも進めるのが今なのです。
そんな時代をリードしていく貴族の若者には、ぜひ明るい未来を志向してもらいたい。
そんな思いを込めて、週一回の定期的な勉強会を開催します。
この考えに賛同いただけるなら、ぜひご参加ください』
当然、ノーベル公爵が全てお膳立てをしたものだ。
これに参加しないという事は、ダイナマイトを軍事利用しようとしていると勘繰られかねない。
開催初日に全員集まることは間違いない。
帝国連邦は広い。
招待された人たちが集まるのに、移動だけで1週間以上かかる。
公爵は数日後には、帝都を発つ。
さすがの公爵も、勉強会の開催を見ることは出来ない。
あっという間に、公爵夫妻の出発前日となった。
帝都を離れるにあたって、家族で皇帝にあいさつに行くことになった。
「夫婦そろって登城するとは、珍しいこともあるものだな。
帝国の北の要ノルド公国のアンが、南の要ファルマイト公国のジェームスと結婚してくれて、連邦の秩序は大いに保たれている。
だが、二人の関係であまり良い噂を聞かんので、少し心配しておったのだ」
皇帝は、夫婦が一緒に登城したことを喜んだ。
皇帝の側も、正室のエルミラ、彼女の養子となった6男ゲオルグ、7男エドワードが揃って出迎えた。
皇帝陛下と正室、公爵夫妻は、今後のダイナマイトの販売について調整するため、双方の事務方を伴って会議室に消えた。
残ったキャサリンは、二人の皇子に促されて特別応接室に通された。
「キャサリンおねーちゃん。ひさしぶりー」
部屋に入ると、皇帝の8男 ヴェンデリンが飛びついて来た。
「今日のお父上たちの話は長くなりそうなんで、来てもらったんだ」
エドワードが、ぶっきらぼうに言った。
「あのねえ、おねえちゃん。
二人じゃ間が持たないからって、ボク呼び出されたんだよー」
ヴェンデリンが無邪気に笑う。
「い、いや、違うんだ、キャサリンさん。
前のパーティーで、二人がすごく仲が良かったから。
ヴェン。
お前も、キャサリンおねーちゃんに会いたいって言ってただろ」
ゲオルグが、一生懸命取り繕う。
(ウウッ。
いつも話が弾まないとは思っていたけど、間が持たないと思われてたんだー)
自分の恋愛スキルの低さに泪が出そうだ。
「はじめまして、キャサリン様。
わたくし、ヴェンデリンの母でウリヤーナと申します」
側室の方は滅多に公式の場に出てこないので、この時キャサリンは、ヴェンデリンの母に初めて会った。
色白で銀髪の北欧風美人だ。
(すごいな、皇帝。
いったい何人側室がいるんだろう?
この今は可愛いヴェンデリンも将来は絶倫になって、数えきれないほどの側室と愛人を囲うんだろうか?)
「こちらこそ、はじめまして。
私はキャサリンです。ノーベル公爵家の長女です。
ヴェンデリン様とは仲良くさせていただき、恐悦至極に存じますわ」
「まあ、恐悦至極だなんて。
難しいお言葉を、知っていらっしゃるのね。
公爵令嬢様にそんなお言葉をいただくなんて、恐縮いたしますわ。
オホホホホ」
透き通るような白い肌のせいか大人しそうに見えていたが、話してみると気が強そうだ。
(ヴェンデリン様が将来カッコ良くなっても、結婚は出来ないわね。
この人と親子関係を結ぶのは、ちょっと遠慮したいわ)
ヴェンデリン、憧れのお姉さまキャサリンと結婚を夢見ていたが、本人も知らないうちに大幅減点を喰らっていた。
ウリヤーナ夫人の甲高い笑い声で、場が白けた気がした。
とにかく、みなソファに腰掛けてメイドが入れてくれた紅茶を飲み始めた。
お茶うけは、マドレーヌだった。
マドレーヌを見て、キャサリンの中の明神さくらは、前世を思い出した。
(この世界のスイーツの充実ぶりは、令和の日本並みよね。
貴族社会がすごいんだけど、コンビニで貴族しか食べられないものが買えていたっていうのも、令和日本恐るべしって感じだわ)
※マドレーヌ
貝殻の形をした焼き菓子。
人名に由来するので、この世界でもマドレーヌなのかは不明。




