27.裏の裏をかかれてしまったようですね
副村長の家の中では、公爵夫妻は座敷牢に入れられていた。
副村長は、公爵夫妻を屋敷に拘束するために、座敷牢に入れたつもりだ。
逆に副村長派に潜んだ村長派は、公爵夫妻の安全を守るためと考えていた。
檻の中で、二人が用意された椅子に腰かけた瞬間、外で騒ぎが起こる。
村長派と副村長派が争いを始めた。
檻の中は安全そうだが、外で何が起こっているのか分からない。
二人は立ち上がって、檻の外の様子を見ようとする。
アン夫人は、恐ろしくて公爵にしがみついた。
公爵はアン夫人の肩を抱いて、勇気づける。
「大丈夫ですよ。僕がいます。
戦いは得意ではありませんが、あなたのためなら戦いますよ。
きっとキャサリンが、開発反対派をあぶりだすために仕組んだんでしょう。
あの子は本当に、目的のためには手段を選びませんね。
しかし家族を危険に晒すなんて、後でお仕置きものですね」
冷静な態度の公爵を見て、アン夫人も落ち着いたようだ。
間もなく、争いの音はピークを越えた。
そして、静かになる。
「ちくしょーっ!
ワシらは、釣り針のエサに釣られてしまったのか」
叫び声が聞こえる。
副村長たちは、制圧されたようだ。
その頃キャサリンたちは、丘の上にとどまっていた。
護衛の二人が、家の中に飛び込んでいくのが見える。
「じゃあ、お父さまとお母さまは大丈夫なのね?」
キャサリンの質問に、村長はうなずく。
実際、護衛の二人が飛び込んだ時には、すでに副村長たちは縛り上げられていた。
そのことを聞いて、キャサリンもソフィアもホッとした。
「さて、あの家の中では今、副村長派があぶりだされた訳じゃ。
そして、ここにはワシの手の者しかおらんわけだ」
突然、キャサリンの後ろにいたオークが彼女を抱きかかえた。
「えっ? 何?
どういうこと?」
キャサリンが、戸惑う。
「ワシらにとっては、公爵夫妻を人質に取るのは後が厳しすぎる。
人質自身が、決定権を持ってしまうからの。
トップが捕まると、誰が決断するかで揉めるからな。
しかし、お嬢様を人質に取るのは、割に合うんじゃよ。
お嬢様を人質に取ったまま公爵との再交渉をし、有利な条件で契約魔法を結んでしまえば、契約魔法は絶対じゃ」
村長が笑いながら説明した。
キャサリンを抱えたオークとソフィアの間に、30体ほどのオークが立ちはだかった。
周りにも、百人を超えるオークがいる。
「公爵のお嬢様。
あなたの作戦は面白かったですな。
ワシらもしっかり、乗っからせてもらうことにしたよ。
でもお嬢様は、この場で最強のソフィアが味方をしてくれることが、前提になっておる。
ソフィアが人間の味方をするとは、限りませんぞ」
「えっ?
まさか、確かにそれは想定していなかったわ」
キャサリンは、混乱した。
平静を装ってはいたが、本当はちびりそうだ。
確かにソフィアは最強の戦士だ。
しかし、戦いになれば最弱の自分が一番危ない。
実際の所ソフィアが寝返らなくても、この状況は完全に想定外だった。
「ソフィア、貴様がオークの側に立てば、オークは有利な立場で色々なものを得ることが出来る。
ここで貴様が人間側に立っても、多勢に無勢じゃ。
我らと共に歩こうぞ!」
村長が、威圧的な声でソフィアに寝返りを奨める。
「ソフィア・リオナ・セレステ。
オークと人間の混血児として生を受けたが、このカーボン村でも、大切にはされなかった。
孤児となって収容された帝都の孤児院でも、私を普通のヒトとして扱ってくれることは無かった」
ここで、ソフィアの声が大きくなる。
「しかし、ノーベル公爵は私の剣の腕前を買って、普通の人間として扱ってくださった。
私の種族ではなく私自身を評価下さって、騎士の爵位まで下さった。
ハーフオークである自分を信頼し、最愛のお嬢様の警護を任せてくださっている。
その信頼に対して、裏切りで返せと言うのであれば、大切な集落の長であろうと、例え全知全能の神であったとしても、私は許さない!」
ソフィアは目に泪を溜めながら、思いのたけを演説した。
ソフィアの口上は、キャサリンにも届いた。
ソフィアは、寝返る気などサラサラ無さそうだ。
このままでは、ソフィアはキャサリンを助けるために、何百という敵の中に飛び込んでくる。
いくらソフィアが強いと言っても、そんな数の敵と渡り合えるはずが無い。
「ソフィア、ごめんなさい。
私の作戦、失敗しちゃったみたい。
命令よ。逃げて!
今すぐ、逃げてーっ!」
キャサリンは力いっぱい叫んだ。
「お嬢様、申し訳ありません。
そのご命令だけは、聞くわけには参りません」
ソフィアは、迷わず言い切ると剣を抜いた。
「私は、このお嬢様の為ならば、命を捨てる覚悟はできている。
これだけの数の歴戦のオークと戦って、勝利を得るのは難しいだろう。
だが、本気の私は強いぞ!
10人や20人は死ぬことを覚悟して臨め!
その倍以上の者が、手足を失う事となろう。
さあっ! 死にたい奴から前へ出ろっ!!」
オークたちも剣を持つ者は剣を抜いた。
と言っても、ソフィアが持つような立派な剣を持つ者はいない。
刃こぼれしていたり、錆びた剣が大半だ。
ナイフレベルの長さの剣の者もいる。
半分以上のオークは、棍棒や斧、草刈り鎌を持っていた。
双方一触即発で、にらみ合う状態となった。
「待てーい!」
村長が杖を振り上げながら、大声を上げてオークたちとソフィアの間に出た。




