26.偽装した裏切り者に扮した裏切り者
◇◆◇ キャサリン達がカーボン村を発つ5分ほど前 ◇◆◇
ノーベル公爵夫妻は、丘の上にある副村長の家に着いた。
「護衛の二人が振り切られてしまったようですが、大丈夫なのでしょうか?」
アン夫人が、不安そうに聞く。
「人間より体の大きなオークに囲まれて、僕たち二人だけだ。
いつでも逃げる準備だけは、しておいて。
でも、安心していいよ。
もしもの時は、30分で親衛隊が到着する。
その間、君だけは絶対に守るから」
「ジェームス様。
あなたが無事でなければ、後継者争いで国が乱れてしまいます。
犠牲にするなら私を犠牲にして、あなたが無事に帰って下さい」
公爵夫婦がコソコソと会話をしていると、副村長の家の2枚扉が内側にドーンと音を立てて開いた。
「ようこそ、いらっしゃいませ」
棍棒を持ったオークが2匹、入り口の両側に立って、中に入るように促す。
公爵夫妻は、カーボン村の外にある副村長の家に入っていく。
護衛とはぐれているので、へたにオークには逆らえない。
入り口を入ると、いきなり大広間だ。
一段高い所に椅子を置いて、副村長と思われる大きな年老いたオークが座っている。
「まるで、小さな謁見室のようだな」
ノーベル公爵がつぶやく後ろで、ドアが閉まった。
副村長が二人を見下ろすように、話し始める。
「さて、今日はまず決められたセリフを2つ言わないとな。
ワシは、村長が勝手に人間と同盟を結ぶのに反対だ。
もう一つ、アンタたちは人間の国のトップだそうだ。
お前たちを拘束して、身代金を手に入れたら、ワシらは村を捨てて逃げる」
公爵たちは、固まった。
話の内容が、自分たちの身の安全を脅かす内容だった。
と同時に、副村長の言葉が棒読みだった。
まるで、用意された台本を読んでいるように。
「副村長殿。まさかとは思いますが。
そのたくらみに、うちの娘が絡んでいませんか?」
実のところ公爵は、キャサリンが何か隠していることに気付いていた。
「ああ、アンタの読みは当たっとるよ。
でも、こんなチャンスはそうそう無いぞ。
本当の人間界のトップを、まんまと孤立させてくれたんだからな。
あんた達を人質に取って、取れる身代金は桁が違う」
副村長は、威圧するように夫妻を睨みつける。
「だが、同盟によって村に流れ込む金は、さらにもう一桁上がると思うけどな」
公爵は、冷静を装って交渉を始める。
「さすがは、人間界のトップだ。肝が据わっている。
だが、ワシらは今回の都市建設自体をさせたくない。
今なら、この辺りで人間の支配域は、街道周りだけだ。
山奥に逃げ込んだら、追ってはこれまい」
「なるほど、開発自体を止めさせたいんだね。
でも、君たちも身代金とか言って、人間の作った貨幣経済に組み込まれてしまっているよね。
お金を欲しがった時点で、開発に乗っかるしか道は無くなっているんだよ」
公爵が諭すように言うが、副村長は声を大きくする。
「とにかく、ワシは村長の意のままに動く気は無い!
場合によっては、村長派を人間に討ち取らせてから同盟を結び直しても良いし、アンタ達を盾にして逃げきる手もある」
「アンさん、目をつぶって下さい」
そう言うと公爵は、閃光手りゅう弾を放り上げた。
カっと、眩い光が辺りを覆う。
「閃光が、起きることも聞いておるんだよ」
副村長も、その取り巻きも目をつぶっていたのか、何事も無かったかのようだ。
「まずい。
アンさん。僕の後ろに隠れて下さい」
公爵は、夫人をかばうように立った。
友好のために来ているので、手りゅう弾以外丸腰だ。
◆◇◆◇◆ 一方、キャサリン達 ◆◇◆◇◆
キャサリンは、村長から副村長が裏切ったと聞いて、動揺が隠せない。
しかも村長は、副村長が裏切ることを予想していたと言う。
村長がどれだけ友好的に話を進めるか自体に、疑問が生じる。
「なるほど、みんな一生懸命生きているってことですね。
でも、私も簡単にやり込められませんよ」
キャサリンは峡谷の吊り橋に向かって、煙幕手りゅう弾を投げた。
不測の事態は、何があるか分からない。
近衛部隊を呼び寄せる。
橋の周りに赤い煙が立ち込める。
やがて、近衛騎士団が来るだろう。
「私こそは、爆薬令嬢。
立てば爆薬、座ればドッカン、佇む姿は決死の花」
大見得を切って、時間稼ぎに入った。
キャサリンは、野営地で待機している近衛騎士団に、細かく指示を出していた。
閃光か青い煙が見えた時は、慎重に動くように言ってある。
しかし、赤い煙は想定外の事態が起きた時用だ。
直ちに急行するように伝えてある。
30分ではなく、15分ほどで駆け付けてくるだろう。
公爵には、青い煙の煙幕手りゅう弾を持たせていた。
※煙幕手りゅう弾の煙の色
煙幕手りゅう弾の煙は、炎そのものでは無いので炎色反応の材料を混ぜても意味がない。
単純に、煙に顔料を含ませることで色を付ける。
煙を発生させるオイルの中に絵の具を混ぜて、ドンドン色の付いた蒸気を発生させるイメージだ。
こういう情報までは、オークたちには教えていない。
村長は、閃光手りゅう弾が屋内で使用されたので、あらためて報せるために、煙幕を張ったと判断した。
「さすがお嬢様。 判断が早いですな。
でも、心配はいりませんよ。
公爵夫妻の案内に同行した二人は、村長派です。
他にも仲間を忍び込ませていますから、大丈夫ですよ」
村長は落ち着いて話すが、すでに護衛の二人は副村長の家の横まで走っていた。
窓から中の様子を窺っている。
村長は、話を続ける。
「お二人とも気が早いですな。
恐らく副村長派は、すぐにでも制圧されますよ」




