22.自由商業都市サカイ? カサイ?
確かにパーティー会場では、せっかくのチャンスをふいにした感が半端ない。
しかし、美男子二人のハートをつかむ可能性の高い、主人公クララのフラグは既に確実にへし折った。
キャサリンは、安心しきっていた。
完全にゲームの主人公は無視して、自分の貴族ライフの充実に目を向けた。
その第一歩が、家庭環境改善だ。
具体的には、両親の夫婦仲改善計画。
そのついでに、ノーベル家もファルマイト公国も豊かにする。
「いよいよ、吊り橋作戦 発動ですわ!」
力強く宣言する言葉を聞いたソフィアが、敬礼をする。
「お嬢様、何なりとご命令ください。
どんなに難しいミッションでも、見事成功に導いてお見せいたしましょう」
「ソフィアがいれば、百人力だわ。
それでは、いくわよー! おー!」
「オーッ!」
キャサリンの掛け声に、ソフィアが力強く応えた。
キャサリンは、全てがうまく回りだしたことで、万能感を感じていた。
この時彼女は、ゲームのストーリーの流れをなめていた。
少なくとも、主人公クララの動向を探るための見張り位は、付けておくべきだった。
森に住むクララ達を、パーライトのお屋敷など帝都から離れた場所で家政婦として雇っても良かったし、ダイナマイト工場に斡旋しても良かった。
彼女は、後で後悔することになる。
(最終的には、これがベストだったと思えるのだが)
とは言え、家族の不和を放っておいて良い訳では無い。
着々と進めていた準備を、ここで現実の成果に変えていく。
父は、新しい自由商業都市 サカイの予定地に看板を立てたそうだ。
まず、そこへ家族そろって乗り込む。
もちろん、希望する商人たちを連れて行き、街づくりの計画を現地で相談する。
そして、オークの集落に公爵自ら家族同伴で訪ねて、正式にアライアンスを結ぶのだ。
今回の旅行の最重要課題は、母であるアン夫人を連れ出すことだ。
その日の夕食で、キャサリンは新しい街づくりの話題を始めた。
彼女も父の公爵も、家族の普通の会話は弾まなかったのに、ビジネスの話は盛り上がった。
「お父さま、新しい街づくりを早く始めましょう。
とにかく、行動は出来るだけ早く始めるに越したことはありませんわ」
「おお、そうだな。
アンさん、お願いします。
ぜひ今度の旅には、一緒に行って欲しいのです」
父の懇願に、ずっと家にこもっていたアン夫人は、少し困った顔をした。
しかし、考えた後笑顔で答えた。
「私もお役に立てるのでしたら、喜んでご一緒いたします。
本当は、私も何日も馬車に乗る旅をしてみたかったのです」
案ずるより生むがやすし。
思ったより簡単に、アン夫人も一緒に旅に出ることになった。
善は急げとばかりに、翌日朝から準備して、その次の日には出発となった。
馬車のキャビンには、侯爵と夫人、娘と護衛のソフィアの4名が乗った。
当然直衛軍の部隊と商人たちの馬車も連なり、大規模な集団移動になった。
パーライトから帝都ナードハートまで来た時とは、逆方向の移動になる。
ナードハート帝国直轄領では、宿で3泊した。
宿で3泊である。
一度は大人だったさくら改めキャサリンは、両親が仲良くなることを少し期待していた。
だが、長年のわだかまりがあるからか、夫婦のよそよそしさは変わらない。
国境を越えてファルマイト公国に入って、2泊キャンプした。
隊列には、氷魔法を用いた冷蔵車があったので、食べ物には不自由は無かった。
それでも、ずっと高貴な生活に慣れているアン夫人にはキツイようだ。
まず固くなったパンを残すようになり、食が細くなっていった。
「キャサリンさんは、たくましいですね。
本来ならセメンタイトまで、倍の旅程になる訳ですから。
わたくしも、もう少ししっかりしないと、公爵を支えられませんね」
「私は、お母さまほど気品が無いですから、何でも食べられるだけですわ」
「まあ、気品が無いなんて。
生まれついての公爵令嬢のセリフとは思えませんね。ウフフフ」
アン夫人に悪気は無いのだろうが、少しドキリとした。
キャサリンがさくらの頃は、一人暮らしの経験もある。
月末になると、食事はドンドン粗末になったものだ。
その記憶があるせいか、意外と彼女はファンタジー世界の食事で苦労しなかった。
(駐車場の横に生えていたナズナを入れた味噌汁は、美味しかったなあ)
などと、思い出していた。
※ナズナ
俗称ペンペン草の事。
空き地などに良く生えている。春の七草のひとつ。
飼っていたウサギがあまりにも美味しそうに食べるので、作者も食べてみたことがあるが、クレソンのような味で意外といける。
だが、こういう草系の食物が苦手な人も多い。
草系が苦手な人は、海外で生活するのに食事で苦しむことが多いようだ。
ふとキャサリン(さくら)は、即席ラーメンや缶詰にお世話になっていたことも、思い出した。
即席ラーメンは、ラーメンから開発しないといけないけど、缶詰は作れるんじゃないかしらと考えて、構想を練り始めた。
そして、自由都市サカイの建立予定地に到着した。
「着いたー!
自由商業都市サカイの予定地!
……
えっ?」
キャサリンは立てられた看板を見て、腰がくだけた。
『自由都市 カサイ 設立予定地 ジェームス・W・ノーベル公爵』
「えっ? カサイ?
私、都市名はサカイって言ったよね」
公爵が、あれ? 間違えた? という顔で突っ立っている。
「キャサリン、都市名が気に入らないのか?
オークの集落 カーボン村の西だから、カーボンの西。
略してカ・西で、カサイだろ」
(伝統ある商業都市サカイと、歴史はあるけど単なる地方都市のカサイでは、月とすっぽんですのに)
などと、兵庫県加西市の人が聞いたら、気を悪くしそうなことを考えながら答える。
「え、ええ。
そ、そうですわね。
ま、まあ、名前なんて別に何だって良いですわ。
ここは、ファルマイト公国指折りの大都市となる予定なのですから」
後に、首都マルテンサイトを凌ぎ、ファルマイト公国最大の商業都市となるカサイが誕生した瞬間だった。




