表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ばくやく令嬢しか勝たん  作者: 御堂 騎士
第2章 お父さまとお母さまの間の心の壁も爆破ですわ
16/543

16.ハーフオークのソフィア

 エルフとハーフエルフの親子が、無事に帝都を出ていった。

 二人が家に帰るまで、ソフィアとキャサリンは馬に乗ってこっそり見届けた。


「これで、最大の心配事が片付いたわ」

 キャサリンは、安心の笑顔を見せた。


「お嬢様、破滅というのは一体?

 あの親子がお嬢様に危害を加えるのであれば、本当にこのまま見逃すわけにはいかないのですが」


 ソフィアがあまりに強く言うので、キャサリンも一部だけ打ち明けることにした。

「実はあの娘が将来、私と皇子さまを取り合うっていうお告げがあったの」


「皇子様というと、ゲオルグ様かエドワード様ですか?」


「ええ、多分。

 でも、彼女の方が魅力的なので、私は負けてしまうみたいなの」


「そのお告げは、現実的にあり得ない内容ですね。

 たとえ彼女が、世界一の美女になったとしても、お嬢様と皇子を取り合うのは不可能です」


「彼女は今は平民だけど、実は貴族の血を引いているの。

 だから、不可能とは言えないのよ」


「いえ、彼女がお嬢様と同じ公爵令嬢だったとしても不可能です」


 ソフィアがハッキリと言い切るのが、キャサリンには理解できない。

「彼女が世界一の美女になって、地位も同じ位になったとしたら、私がかなう訳ないんじゃない?」


「本当に、何故だか分かりませんか?」


「ええ、私に一つでも勝てる要素があるなら、教えて欲しいくらいですわ」


 ソフィアは膝の上のキャサリンをギュッと抱きしめた。

「えっ? ソフィア?

 どうしたの? 急に」


「その理由が本当に分からない所。

 それが、私がお嬢様をおしたい申し上げる一番の理由です」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ソフィア・リオナ・セレステ。

 それが、ソフィアのフルネームだ。


 彼女は、ファルマイト公国の小さな集落、カーボン村に捨てられていた。

 カーボン村はオーク(鬼族)の住む集落で、人間ヒューマンとの交流はほとんど無かった。


 だが、人間は便利な魔法具を次々と発明し、魔力の無いものでも生活の中に、火や氷など便利なものを使えるようにしていた。

 魔法を使えるものが少ないオークにとって、魔法具はどうしても欲しい品物だ。

 自然と、魔法具を手にれるためにお金を必要とするようになった。




 彼女の手には、いくばくかの銀貨が握られていた。

 そのため、彼女の引き取り手はすぐに見つかった。


 彼女の着せられていた服にソフィアと書いてあったので、ソフィアになった。

 拾われたときの大きさから、その時3才だったことになった。

 村の外れで彼女を拾ったオークの夫婦は、小さい間は可愛がってくれたらしい。


 しかし、拾って1年も経つと顔がだんだん人間ヒューマンになってくる。


 どうやら、人間の女がオークとの間に生まれた子供を育てられずに、オークの村に捨てていったようだ。

 母親の手がかりも全くなく、事情は分からない。


 ハーフオークだと分かった途端に、二人は捨て子を邪険に扱うようになった。




 推定8才の寒い冬だった。


 ソフィアは、風の吹く屋外で仕事をしていた。

 霜焼しもやけになって血がにじむ小さな手で、凍えながら豆の木からさやをちぎって集めていた。


 カゴに一杯集めたので家に戻ってくると、窓から話し声が聞こえる。

「あんた、あの子の食費はもう何年も、働きにちっとも見合ってないよ。

 捨ててくる訳にはいかないのかい?」


「まあ、そう言うな。

 オークの中には、人間ヒューマンの女が好きな奴が結構いるんだ。

 後何年かすれば、男の相手が出来るようになるだろう。

 そうすりゃ、ハーフオークのあいつは、高い値段で売れるんだ。

 もう少しの辛抱だ」


 それを聞いて、ソフィアは目の前が真っ暗になった。

 自分は、一体何なのだろう?

 売り飛ばされるために育てられている。

 まるで、家畜のようだ。


 気付いたら、彼女は村の柵を乗り越えて逃げていた。


 オークは、自分を受け入れてくれない。

 人間ヒューマンが築いた強大な帝国、その首都を目指した。

 何十キロも走り続けて、街道沿いにキャンプしている商隊を見つけた。


 ロバに引かれた荷車に隠れて、何日も飲まず食わずでジッとしていた。

 おかげで、見つからずに帝都の城壁の内側に侵入することが出来た。




 しかし、手持ちのお金も無い。

 あっという間に行き倒れて、警備の兵隊に捕まった。


 身寄りが無いという事で、教会が運営する孤児院に入れられた。

 孤児院で下働きをするようになって、ご飯が満足に食べられるようになった。

 孤児院の子供は、ファミリーネームは皆セレステだった。

 彼女は、ソフィア・セレステになった。


 孤児院の子供たちは家族のはずだが、ハーフオークのソフィアだけは孤独だった。


 顔の作りは、人間ヒューマンそのものだった。

 そのために、オークの村で暮らせなかった。

 だが、獣の耳が人間よりも上の方に付いていて、一目でハーフオークだと分かってしまう。

 肌の色も少し緑がかっていて、違いは一目瞭然だ。




 15才になるころには、身長は2メートル近くに成長した。

 男子を合わせても、孤児院で一番大きかった。


 孤児院の男の子は、ほとんどが15才で兵士になる。

 女の子は、容姿に優れたものは貴族の家に下働きに出る。

 容姿に優れない女子は、武芸に秀でていれば女性兵士になるが、そうでなければ帝都の外にある農場に働き手として売られていく。


 孤児院の子供は、教会関係の仕事には付けなかった。

 それを許すと、貧乏な家の子供が孤児院狙いで捨てられる可能性が出る。


 この世界の教会は、裕福だ。

 それなりの家柄の人間しか、受け入れなかった。

 下働きは、給料を払わなくて良い孤児院の子供で足りている。


 ソフィアは兵士になりたくて、教会で神父に紹介を頼み込んだ。

「ソフィア。

 残念だけど、この帝都では人間ヒューマン以外は、軍隊に入れないんだ。

 もう少し体が小さくて、可愛げがあれば夜の街ででも働くことが出来るんだが。

 親がいなくてハーフオークのお前は、多分帝国内では仕事にありつけないよ」


 亜人の血が混じっていても、親の仕事を継ぐことなら出来た。

 身寄りのないソフィアには、それも望めなかった。


「そ、そんな。

 私は普通に生きていくことも許されないのですか?

 大きな体を活かして、農場で働くことも出来ないのですか?」


「ああ、農場では監督官に従って作業をする。

 お前は、間違いなく監督官より強いだろう。

 万一暴れたら怖いから、雇われないよ」


 ソフィア・セレステは、その場で泣き崩れた。

「私には、真っ当に生きていく価値が無いという事なんですね」


 可哀そうに思った神父は、ひとつ提案した。

「帝国の南にファルマイト公国という国がある。

 お前は、そっちから来たと言っていたね。

 さらにその南のダーバンという国は、獣人たちが住む国らしい。

 そこまで行けば、お前も普通に生きていくことが出来ると思う。

 ただ、そこまでは馬車でも30日以上かかる距離だ」


※ほぼ、NYニューヨークからLAロサンゼルス位の距離です。

 アメリカ大陸を横断するのと同じ距離の設定です。



「そんな所まで行くのは無理です。

 普通に生きていくことは、無理だと言いたいのですか?」


「いや、帝都の武術大会がもうすぐ開催される。

 優勝賞金が、銀貨50枚だ。

 銀貨25枚でダーバンまでの馬車代が払える。

 5回勝てば、馬車代が出る。

 優勝すれば、旅の間の食費も大丈夫だ。

 出てみたらどうだ?」


※銀貨1枚が令和の初めの日本円で約千円くらい。

 2万5千円で、馬車代が払えることになる。




 武術大会は、それから一週間後だった。

 ソフィアは、神父に木剣をもらって、一心不乱に素振りを繰り返した。


銀貨25枚は、アムトラックの値段を参考にしました。


アムトラックは、アメリカの旅客鉄道です。

アムトラックでNY-LA間が、3日以上かかって費用は2万5千円くらいです。

当然、食事や寝台は別料金です。

新幹線と違って、平気で10時間くらい遅れると聞いたことがあります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ハーフオークか。 確かに疎まれる存在でしょうね。 でもソフィアも不遇といえば不遇。 彼女が今後報われる事を願います。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ