14.爆薬よりも威力のある言葉
皇帝陛下への挨拶は、つつがなく終わった。
挨拶の後、お城の中の応接室に招かれた。
父のノーベル公爵は、皇帝陛下とお話し中だ。
彼は先に手をまわして、この場にエドワードとゲオルグが来るように仕向けていた。
娘を見初めてくれれば、ありがたい。
皇帝陛下は何とかノーベル公爵家と、より深く縁戚を結びたいはずだ。
今後ダイナマイトで大儲けして、国が豊かになれば余計だ。
公爵は、貴族としての家の存続よりも娘の幸せを考える人だった。
だから、勝手に婚約を決めるのではなく、相性を見極めたかった。
出来ればこちらからお願いするのではなく、キャサリンを欲しいと言わせたかった。
キャサリンが嫌なら、皇帝の頼みでも断るつもりだ。
もちろん、キャサリンが結婚したい相手なら、権力も財力も全て出し惜しみする気は無い。
科学を志すだけあって、考え方がモダンなのかも知れないが、実際は娘が可愛いだけだった。
ところで何故、6男と7男が皇帝のそばに居るのか?
正室である皇后陛下のエルミラは、子供が出来なかった。
そこで、母を亡くした6男のゲオルグと7男のエドワードを養子に迎えたのだ。
皇后陛下は、二人の皇位継承順位は低いので何も問題ないと考えていた。
しかし、皇帝直系の子供たちが皇后陛下の養子になった。
皇位継承順位をそのままにする訳にはいかないことに、気付いていなかった。
帝都周辺では、ここ百年平和な世の中が続いていた。
平和な世であるほど、このような利権の変動要因は、キナ臭い動きにつながりやすいものだ。
キャサリンは同年代という事で、二人のイケメンとお話をすることになった。
同年代といっても、エドワードは1つ上、ゲオルグは2つ上だ。
(はあーっ。
エドワード様、素敵すぎる。
婚約を妨害するのはやめよう。
クララは、私の前に現れないかも知れないんだし)
キャサリンは、相変わらず皇子たちに見とれていた。
もし婚約したら、それを言い訳に会いに来ることが出来る。
このお顔を、好きなだけ愛でることが出来るのだ。
(それで、婚約から結婚なんてしてしまったら……
近くで愛でるだけでなく、キ、キ、キスとか?
こ、こ、このお顔が近くに寄って来て?
キャーッ、わ、わたし、どうしたらいいのー?)
彼女は必死で、心の動きが表に出ないように頑張る。
「キャサリン・ノーベルさん? でしたよね。
ノーベル公爵のご令嬢の」
「は、はい。ち、ちち、長女のキャサリンですわ。
兄弟は、いませんけど」
ゲオルグに聞かれて、焦って答える。
すっかり、見とれてしまう。
(はあーっ、ゲオルグ様。
ゲームのグラフィックでは、整い過ぎていて私の好みじゃないとか思っていました。
ごめんなさい。
こんなに、美しい方だったなんて。
しかも、ゲームで登場する時より若くて、可愛さまで加わっている。
もはや、む・て・き)
「何やら目が虚ろですが、体調は大丈夫ですか?」
(そして、こんなふうに気づかいまで出来るなんて、完璧すぎるー)
横から、斜に構えたエドワードが声をかける。
「ゲオルグ兄さん。
キャサリンさんは、長旅でお疲れなんだよ。
疲労回復には、甘いものが良いと聞きます。
これなんか、若い女性に人気だと聞いていますよ」
陶器製の3段トレーに置かれたフィナンシェを薦める。
キャサリンは、一口食べてみて、顔がほころぶのが分かった。
「おいしいです。
本当に旅の疲れが吹っ飛ぶ感じですわ」
「それは良かった。
あなたのような美しい方には、疲れた顔は似合いませんからね」
ゲームの中では、某ラグビー選手のように笑わない漢と設定されていたエドワード。
確かに笑わないのだが、この気障なセリフはどうしたことだろう。
以前別の伯爵令嬢に、あまりきれいでないと思うような表現をして気分を害した。
後で兄のゲオルグに、しこたま怒られたのである。
貴族の女性には、とにかくきれいだと言っておけ、と強く戒められたのだ。
だが今回については、当人は別にお世辞を言ったつもりは無い。
本当にきれいだと思っていた。
だからと言って、心が揺れ動くようなことも無かったが。
キャサリンは、頭に血が上ってポワーンとなってしまった。
(あなたのような美しい方。
あの素敵なお顔で、私の事を。
美しい方。ハアーッ、私が美しい?
そうか、クララは可愛く、キャサリンは冷たい美人。
私の設定は、実際はどうあれ美人なんだ)
※本人の自己評価が低いことは、どうしようもなかった。
「本当に旅でお疲れの様ですね。
どうも、すみませんでした。
もしお疲れの様でしたら、席に座ってお話しませんか?」
ゲオルグが、提案してきた。
(ゲオルグ様も、皇帝直系でイケメンだけど俺様キャラじゃ無いのよね。
ちょっと体が弱くて、超優しいゲオルグ様。
俺様キャラがすごく似合う、ワイルドイケメンでエリートのエドワード様。
本物と、近くでゆっくりお話しできるなんて、まるで夢みたい)
キャサリンと二人の皇子は向かい合って、ソファに腰掛けた。
「いかがでしょうか?」
給仕係の人が、3人にグラスに入ったジュースを薦めた。
キャサリンは、受け取ったオレンジジュースを一口飲んだ。
二人の美少年を侍らせて、おいしいジュースを飲みながら語らうひと時。
この時間が永遠に続いて欲しい。
彼女は、本気でそう願った。
美少年二人に、こんな感情を抱くなんて意外と自分はショタだったのだと自覚した。
※ショタ
女性が、小さな男の子を好きになる性向のこと。
キャサリンは、気付いていた。
話しかけられるばかりで、自分は何も話をしていないことに。
せっかく、お知り合いになれて仲良くなるチャンスなのに、どうして良いか分からない。
お付きのソフィアに助けを求めようかとも考えた。
しかし、ソフィアは無表情で毅然と立っているだけだ。
こういう関係のことでは、助けてくれそうにない。
語り合う時間がもらえたのに、語ってもらうだけで、ちっとも語れない。
(おのれ主人公クララ、こんなイケメン達に惚れられて、チヤホヤされるのか?
私なんて、話しかけられるだけでヘブン状態なのに。
許しがたい!)
キャサリンの胸の中で、主人公への嫉妬の炎がメラメラと燃えるのが分かった。
ゲームの中で、キャサリンが主人公をイジめた気持ちが、少しわかった気がした。
ちょっと八つ当たり気味なことは、自覚していた。




